(佐久間side)

地下の隠しアーカイブ室は、極北の寒さにもかかわらず、どこか生温かい空気に満ちていた。

目の前には、天城玲凰が愛し、そして失った妹、K. M.（キミ・ミズキ）、こと天城美月が遺した、膨大な数の写真、ネガ、そして古いビデオテープの山。

「うわぁ、すげぇ…これ、全部、美月さんの生きた証なんだな」

佐久間大介は、目を輝かせた。彼にとって、このアーカイブは、単なる謎解きの資料ではない。それは、一人の人間の情熱と、誰にも見せていなかった**「光の記憶」**が詰まった、宝箱だった。

「佐久間、集中しろ。この中から、玲凰さんの命を狙う美月の**『致命的な弱点』**を見つけ出すんだ。時間がない」

深澤辰哉が、リーダー代行としての責任感から、ピリピリとした空気を放っている。岩本照が背負った『偽りの王冠』の重さが、深澤の肩に深くのしかかっているのを感じる。

「わかってるって、ふっか。でもさ、こういうのって、理論よりハートじゃね？」

佐久間はそう言うと、一枚の古い写真を手にした。それは、幼い玲凰と美月が、満面の笑顔で寄り添っているモノクロ写真だ。二人の間には、硬い絆と、深い愛情が写し出されていた。

「美月さんは、玲凰さんの孤独と世界の秩序を憎んでるって話だけど、この写真の二人は、マジで仲良しじゃん。憎しみだけじゃ、こんな表情は撮れないよ」

「それは、過去の事実だ」阿部亮平が、タブレットを操作しながら冷静に分析する。「憎悪は、愛情が深かった分だけ、深く刻まれるものだ。美月は、玲凰が裏社会のトップになり、彼女の夢を奪ったことで、愛が憎しみに変わった」

「でもさ、俺たちのライブと同じだよ」佐久間は、譲らなかった。「ステージに立つ理由は、誰かを笑顔にしたいからだ。美月さんが写真家を目指したのも、『孤独な者たちを光で繋ぐ』ため。玲凰さんを憎むのも、彼女なりの愛情の裏返しなんじゃないか？」

その時、向井康二が、あるネガをライトボックスにかざして、息を飲んだ。

「これ見て！美月さんが撮った、玲凰さんの写真！」

ネガを現像したプリントには、裏社会のトップとしての冷たい玲凰の姿ではなく、雪の積もる森の中で、誰にも気づかれないように涙を流している、一人の孤独な青年の姿が写っていた。

「くっそ、この頃から、玲凰さんは自分の運命に絶望してたんだ…」翔太が、その写真を見て、辛そうに顔を歪める。

「そして、美月さんは、その涙を記録していた」宮舘涼太が、静かに言った。「それは、兄の弱さへの慈愛であり、同時に、彼の運命への抗議だったのだろう」

佐久間は、閃いた。

「わかった！美月さんが玲凰さんの弱点として利用しようとしているのは、憎しみじゃない！美月さんが、玲凰さんの孤独と涙を記録することで、彼を**『人間』**として永遠に捉え続けているってことだ！」

「どういう意味だ、佐久間」目黒蓮が詰め寄る。

「玲凰さんは、『運命を決定づける者』として、感情を捨てた。でも、美月さんは、その感情を捨てきれずに涙を流す兄の姿を**記録（写真）し続けた。美月さんが本当に玲凰さんに復讐したいなら、この『涙の記録』**を世界中に公開すればいい。でも、彼女はそれをしなかった！」

康二が、佐久間の言葉に呼応した。「そうや！美月さんは、玲凰さんを憎んでるんやない。玲凰さんが自分の感情を捨てたこと、その孤独を許せないんや！彼女が本当に望んでいるのは、玲凰さんに**『人間』として戻ってきてもらうこと**なんや！」

「なるほど…」阿部が、頭の中で全ての情報を統合した。「美月の『致命的な弱点』とは、彼女の愛情だ。彼女は、裏社会の支配者ではなく、兄を必要としている。そして、その愛情の証が、このアーカイブにある**『最後の写真』**に隠されている」

佐久間は、目を見開いた。

「『最後の写真』？それが、美月さんが玲凰さんに送った、最後のメッセージなんだ！」

全員が、アーカイブ室を必死に捜索した。ネガの山、現像済みの写真。その中で、ラウールが、古いビデオカメラのテープケースを見つけた。

「これ、見て。ケースに**『僕たちの光』**って書いてある…」

ラウールが、アーカイブ室の隅にあった古いビデオデッキにテープを挿入し、再生ボタンを押した。

画面に映し出されたのは、モノクロだった。しかし、その映像は、玲凰の運命を決定づけた、決定的瞬間を捉えていた。

映像には、雪の降る別荘の庭で、玲凰が裏社会のトップを継ぐことを決意し、『オメガ・タウロス』の紋章を身体に刻む直前の姿が映っていた。彼は、妹のカメラの前で、悲痛な覚悟を決めた表情をしていた。

そして、その映像の最後に、美月がカメラを止め、玲凰に向かって抱きつくシーンが映っていた。

その抱擁の瞬間、美月の口元が、わずかに動いた。

映像は音声がなく、唇の動きを読み取るしかなかったが、佐久間は、その動きを、アイドルとしての経験で即座に解析した。

「わかった！美月さんが、玲凰さんに言った最後の言葉だ！それは…『あなたは、私の光だから、生きなさい』」

佐久間の瞳から、涙が溢れた。玲凰の孤独は、愛する妹を失った悲しみではなく、**愛する妹からの『生きる呪い（愛）』**によって生み出されたものだった。

「これが…玲凰さんが、死にたいと願いながらも、心のどこかで生きることを強いられていた理由…」翔太が、絞り出すような声を出した。

「そして、美月さんが、このビデオを公開しなかった理由も！」目黒が、強い声で言った。「美月さんは、玲凰さんに**『生きてほしい』**と願う、妹としての愛を捨てられなかったんだ！」

深澤は、涙を拭い、阿部に指示した。

「阿部ちゃん、すぐに、このビデオの静止画を解析して、岩本に送れ！これが、岩本が美月と対峙するための、最大の武器だ！」

阿部は、迅速に映像を解析し、データを岩本へ送信した。

佐久間は、目黒と翔太と共に、その場に立ち尽くした。彼らは、単なる謎を解いたのではない。玲凰と美月の間にあった、壮絶な愛と孤独の物語を、写真という光の芸術を通じて、理解したのだ。

「よし。俺たちの使命はまだ終わってない。今度は、ひかるを救い出す番だ」佐久間は、決意を新たに、深澤と岩本が戻るための光の道標となることを誓った。