『イエロー・メモリアル・ライブ』の興奮と感動から一夜明け、世界は深い喪失感と、星奈の歌がもたらした強烈な希望の光に包まれていた。ライブ終了直後、23人のメンバーは、海辺の療養室へと急いだ。彼らは、悠佑と初兎から星奈が旅立ったことを知らされ、静かに、そして涙と共に最後の別れを告げた。

星奈の顔は、安らかで、穏やかな笑顔を浮かべていた。最期に一筋流れた涙は、悲しみではなく、23人の愛と、ライブでの歌声を聴いた喜びの証のように見えた。

VOISINGとシクフォニの23人は、その後一週間、全ての活動を停止し、星奈の家族としての時間を過ごした。葬儀は、星奈の生前の意向で、VOISINGファミリーと、星奈の唯一の肉親である祖母だけが立ち会う、静かで小さなものとなった。

りうらは、棺の中に、星奈が最後まで大切にしていた黄色いノートと、彼らがライブで着用した特注の「家族の証」のバッジをそっと入れた。「星奈。またな。俺たちの歌は、お前との約束だ」

世間では、星奈の死は大きな衝撃を与えたが、VOISINGが公表した彼女の病状と、ライブでの感動的なメッセージが、人々の心を打ち、悲しみを乗り越える力となった。星奈の最期の楽曲**『青い旋律 (Blue Melody)』と『青龍の協奏曲（コンチェルト）』**は、チャートの記録を塗り替え、一躍「希望の歌」として全世界で大ヒットを記録した。



葬儀から一週間後。VOISINGの事務所では、VOISINGの17人とシクフォニの6人が集まり、星奈が残した「家族」の誓いをどう継承していくか、未来のVOISINGの体制について話し合う重要な会議が開かれた。佐倉が去り、その悪意に満ちた痕跡も綺麗に消された、新しい会議室でのことだった。

「まず、結論から言おう」いれいすのないこが口火を切った。「俺たちは、星奈の願い通り、この23人で**『家族』として活動を続ける。VOISINGという枠組みは残すが、今後はVOISINGとその外部協力者ではなく、『VOISINGファミリー』**として動く」

すたぽらのReluが続いた。「シクフォニとは、正式な業務提携を結ぶ。グループとしての独立性は維持しながらも、活動の統合、コラボレーションの恒常化、そして、互いのクリエイティブサポートを公式のものとする」

シクフォニのLANは、静かに頷いた。「俺たちシクフォニも、VOISINGファミリーの一員として、星奈が愛したこの場所と、メンバーたちを守り、歌い続けることを誓う」

この決定により、VOISINGは日本のV-Tuber界に前例のない、23人による巨大なクリエイティブ連合体へと進化することになった。




最もデリケートな問題は、星奈のポジションをどうするか、だった。

「星奈のメンバーカラーであった**『黄色』は、今後どうするべきか」クロノヴァのかなめ**が問いかけた。

すたぽらのこったろが、星奈のノートを手に立ち上がった。「星奈は言いました。『私の色と歌は、みんなの心の中で永遠に生きる』と。黄色は、星奈がくれた希望の色です。だから、誰も星奈の色の後を継ぐべきではない」

「同意だ」ALKHEが言った。「星奈の＃黄色＃は、VOISINGファミリー全体の**『光の源』**として、永遠に空席にしておく。ライブや配信では、星奈の空席に常に黄色のスポットライトを当て続ける。それが、彼女への最大の敬意だ」

また、悠佑は、星奈が最後に残した膨大な未公開デモ音源と、彼女の残した「作詞・作曲の教本」を手に、こう提案した。

「星奈は、最高のクリエイターだった。だから、俺たちは、星奈が遺したデモを、**『青龍星奈プロデュース』**として、完成させていく。そして、星奈の教本は、VOISINGファミリーのメンバー全員が、クリエイティブの『原点』として学ぶべきものにする」

この会議の結果、星奈はVOISINGファミリーの**「永遠の名誉メンバー」**として、そのポジションは空席のまま、黄色い光は23人の活動を照らすシンボルとなることが決定した。



会議の翌日、VOISINGとシクフォニは、合同で緊急配信を行った。

画面に映し出されたのは、23人全員の、涙ではなく、希望に満ちた笑顔だった。

ないこは、改めて星奈の死と、彼女が残した「家族の誓い」を公に伝えた。そして、VOISINGファミリーとして、23人による新たな活動を開始することを宣言した。

「俺たちは、星奈が愛した歌を、星奈が愛したこの世界で、永遠に歌い続けます。彼女がくれたこの絆、この命を懸けて！」りうらが、画面に向かって力強く誓った。

シクフォニのリーダーであるLANは、視聴者に向けて頭を下げた。「俺たちは、VOISINGの家族になりました。星奈の歌は、俺たちの歌です。これからも、23人の歌を聴いてください」

配信中、星奈の楽曲のストリーミングはさらに加速し、ファンは悲しみを乗り越え、新しいVOISINGファミリーを祝福した。




星奈が旅立ってから一年後。

『イエロー・メモリアル・ライブ』は、毎年星奈の命日に開催される、VOISINGファミリーにとって最も大切な恒例行事となっていた。

23人は、グループの壁を越えた、真の「家族」となっていた。互いのグループの配信に飛び入り参加するのは日常となり、クリエイティブなコラボレーションは絶え間なく続いていた。


ある夜、いれいすのIfとクロノヴァのALKHE、シクフォニのすちが、星奈がよく通った海辺に集まっていた。

「なあ、ALKHE。星奈が言った**『時の反転』**って、結局どういう意味だったんだろうな」Ifが、静かに夜空を見上げながら尋ねた。

ALKHEは、静かに答えた。「俺は、こう解釈してる。時を巻き戻して、過去を変えることはできない。でも、星奈が過去に受けた絶望を、俺たちが未来で**『愛』と『歌』で上書きし続けること**。それが、星奈にとっての時の反転だったんだ」

彼らが空を見上げると、夜空には無数の星が輝いていた。その中で、一際明るい黄色の光を放つ星があった。青龍星奈という名の、永遠の光だ。

その星を見つめながら、23人は、今日も歌い続ける。

悲しみを乗り越え、愛と希望の旋律を奏でる時の継承者たちとして。彼女がくれた、青い龍の協奏曲を、永遠に世界に響かせながら。