20XX年X月X日。東京ドームを彷彿とさせる巨大な「希望のドーム」は、開場前から尋常ではない熱気に包まれていた。VOISINGの四グループと、外部から友情参加するシクフォニ。総勢23名による合同ライブ**『イエロー・メモリアル・ライブ』**の日だ。

チケットは即日完売。会場を埋め尽くした五万人の観客のペンライトは、それぞれの推しカラーに輝き、ドーム全体が色鮮やかな光の海となっていた。しかし、どのエリアも、黄色いペンライトを掲げるファンが目に見えて多かった。彼らは、病と闘いながらも最後の歌声を響かせた青龍星奈を愛し、その奇跡的な歌声に感謝を捧げるために集まったのだ。

「すげぇな、この熱気」

シクフォニのみことは、舞台裏のモニター越しに客席を見つめ、思わず息を漏らした。隣にいたいるまは、深く頷いた。「星奈の想いが、ここまで人を集めたんだ。俺たち、絶対に最高のステージにしなくちゃな」

舞台袖に集まった23人の表情は、驚くほど冷静だった。前夜の涙は、もうどこにも見えない。彼らの顔には、悲しみを乗り越え、星奈の願いを果たすという、プロとしての強い覚悟だけが刻まれていた。

「いいか、みんな。星奈の言った通り、涙は流さない。最高の笑顔で、最高のパフォーマンスを見せる。これが、俺たちからの、家族のメッセージだ」いれいすのリーダー、ないこが最終確認をした。

「クロノヴァの魂をかけて、最高の舞台を演出する」クロノヴァのALKHEが、静かに拳を握りしめた。彼の瞳は、赤く燃える照明の中で、静かに光っていた。



午後六時。ドームの照明が落ち、大歓声が空気を振動させた。

オープニングは、VOISING四グループの代表曲を繋いだ合同メドレー。

先陣を切ったのは、いれいすのりうらと**-hotoke-**を中心とした、爆発的なエネルギーを持つ楽曲だった。

りうらがステージの先端に飛び出し、煽りを入れる。「ドーム！声出せーっ！」

観客のボルテージは一気に最高潮に達する。りうらの歌声は、普段のパワフルさに加え、底知れない情熱と悲しみを秘めた、深く響くものだった。彼は、星奈に届けるために、喉が張り裂けても構わないとばかりに、全身全霊で歌い上げた。

続いて、すたぽらのCoe.とくにが、流れるような美しいフォーメーションダンスで魅せる。

Coe.は、リハーサルで涙を流した自分を打ち消すように、完璧な笑顔を浮かべていた。しかし、その内側では、星奈の最後のメッセージが木霊していた。「みんなで助け合い、笑い合い、そして、私の歌を、私の分まで歌い続けてください。」彼は、このステージが、星奈の人生の続きなのだと心に刻み、ステップを踏んだ。



ライブ中盤、クロノヴァのパートが始まる。

テーマは、もちろん**「Chrono▷◀Reverse of Light」。白組リーダーのかなめ**と黒組リーダーのALKHEが、ステージの左右からセンターで合流する。

二人のソロパートが、激しいディストーションギターと共にぶつかり合う。これは、かつての彼らの「対立」を象徴する演出だ。しかし、今回は違う。

「俺たちの時間、間違った過去を抱きしめ…」ALKHEが、過去の過ちを悔いるようにシャウトする。

「光の先に、君がくれた未来があるなら…」かなめが、優しく、しかし力強く、星奈の存在を肯定する。

二人は、激しく歌いながらも、視線を交わす。その目は、敵意ではなく、深い信頼で結ばれていた。

そして、クロノヴァの他のメンバー、甘夢れむ、しゃるろ、うるみや、しのが加わり、二つの組のメンバーが混ざり合ってパフォーマンスを披露する。彼らは、星奈という「黄色い光」によって、グループの概念を超越した**「家族」**としてステージに立っていた。

うるみやは、星奈の傍で介護にあたった日々を思い出し、感極まりそうになったが、彼女の「最高の笑顔で送り出して」という言葉を胸に、ステージ上で最も明るい橙色の笑顔を振りまいた。



ライブは最高の盛り上がりを見せていたが、観客もメンバーも、無意識のうちにステージ上の一つの空席に目を奪われていた。

ALKHEがデザインしたステージセットには、中央の最も目立つ場所に、一脚の豪華なマイクスタンドと、黄色い照明に照らされたスペースが用意されていた。そこは、青龍星奈がいるべき場所だ。

シクフォニの暇72は、自身のソロパートの最中、その空席にそっと視線を送った。

彼は、星奈から受けた最後の願いを思い出していた。「私が死んだ後、みんなの歌を、私の分まで歌い続けてください。」

暇72の歌声が、ドーム全体に響き渡る。その声は、優しさ、力強さ、そして、星奈への切なる想いが込められていた。彼は、星奈の歌うはずだったパートを、まるで彼女の魂を憑依させたかのように、完璧に歌いこなした。

観客は、その空席と、メンバーの真剣な表情から、このライブが単なるエンターテイメントではないことを感じ取っていた。彼らは、星奈の病状を知り、黄色いペンライトの光をさらに強めた。ドーム全体が、一つの巨大な祈りの空間と化していた。



ライブ前半の最後に、星奈が最後に残した楽曲**『青い旋律 (Blue Melody)』**の演奏が始まった。

イントロの透明感のあるピアノが流れ始めると、ドームの歓声は一瞬にして静寂に変わった。観客は、彼女の透き通るような歌声を、耳の奥で聴こうと集中した。

ステージ上の巨大スクリーンには、星奈がレコーディングした際の、笑顔の映像が流れる。しかし、映像は途中で途切れ、静止画に切り替わる。そして、星奈の録音された歌声が、ドームに響き渡った。

「青い旋律は、心の奥底で…」

星奈の歌声は、儚く、しかし力強い。聴く者の心臓を直接掴むような、圧倒的な感情が込められていた。

そして、星奈のソロパートが終わると、いれいすのIfとシクフォニのすちが、彼女の隣に立っているかのように、マイクスタンドに寄り添った。

星奈の歌声に、23人全員のコーラスが重なる。それは、星奈の魂を支える、23の柱のように響き渡った。

サビの終わりに、星奈の歌声は、まるで空へと昇っていくかのようにフェードアウトした。その瞬間、ステージ中央の黄色いスポットライトが、一際強く輝き、そのまま静かに消えた。

そして、りうらが、涙をこらえきれずに、最後のパートを、星奈の空席に向かって叫んだ。

「いつかまた、俺たちの歌で、空を染めるからな！」

ライブ前半は終了。ドームは万雷の拍手と、嗚咽に似た歓声に包まれた。23人は、涙を流すことなく、プロとして最高のパフォーマンスをやり遂げた。しかし、その胸には、星奈への深い愛と、残りわずかな時間への焦燥が、激しく渦巻いていた。

彼らは、星奈の願いを胸に、ライブの後半、最も重要な最後のメッセージを伝えるために、準備を始めた。