星奈の最後のメッセージを受け取ってから、VOISINGとシクフォニの総勢23名は、悲しみに打ちひしがれる間もなく、ライブイベントの準備へと突入した。このライブは、単なるコンサートではない。それは星奈の命が尽きる前に、彼女の存在を世界に焼き付け、23人の絆を永遠にするための、**『イエロー・メモリアル・プロジェクト』**と名付けられた。

プロジェクトリーダーは、冷静な判断力を持つないこと、実行力と人脈に長けた暇72が共同で担当。彼らがまず直面したのは、**「時間」**という名の、絶対的な敵だった。

「残りの時間を考えると、大規模な会場の手配とスタッフの動員は、通常の半分のスピードでやらなきゃ間に合わない」暇72が、顔色一つ変えずに冷静に言った。彼の目は血走っていたが、その眼差しは鋭く、現実を捉えていた。

「でも、妥協はしない。星奈が見たいのは、最高の、最高のステージだ」ないこは力強く断言した。

ライブのコンセプトは、『Chrono▷◀Reverse of Light』。星奈の黄色い光が、VOISINGの17人とシクフォニの6人、合計23人の時間を反転させ、絶望を希望へと変える物語を表現することになった。



制作チームは、極限のプレッシャーにさらされていた。

ライブの音響・技術統括を任されたシクフォニのLANは、普段の優し気な表情を失い、鬼気迫る形相で機材のチェックを続けていた。

「俺たちが用意するのは、彼女が天国で聴いても、後悔しないような完璧な音響だ。一秒の遅延も、一音の外れも許さない」LANは、いれいすのIfと、クロノヴァのALKHEに対して指示を出した。

ALKHEは、自身の過ちを償うかのように、照明とステージ演出の設計に寝る間も惜しんで取り組んでいた。「俺たちの赤と、かなめの緑、そして星奈の黄色。この三色を、希望の三角形としてステージ上に配置する。星奈の輝きが、俺たちの対立を終わらせたんだ、という象徴を込める」


一方、演出担当のすたぽらのCoe.は、感情のコントロールに苦しんでいた。ステージ構成を考える際、どうしても頭の中に「これが星奈との最後の時間だ」という思いがよぎり、涙で手が止まってしまう。

「笑顔で送り出すライブ…のはずなのに、なんでこんなに悲しい演出ばかり思いつくんだよ…」Coe.が自嘲気味に呟くと、すたぽらのReluがそっと彼の肩を叩いた。

「違うで、Coe.。悲しいんじゃない。愛なんやで。その悲しみも、星奈への最高の愛なんよ。全部込めていい。彼女は、自分たちの全てを受け入れてくれる」



ライブの準備が猛スピードで進む裏で、星奈の病状は悪化の一途を辿っていた。食事は喉を通らず、ほとんどの時間を眠って過ごしていた。

自宅でのケアを担当するのは、クロノヴァのうるみやとしの、そしてシクフォニの雨乃こさめといるまだった。彼らは、最も星奈の衰弱を間近で見ているメンバーだった。


ある日の午後、うるみやが星奈の薬を準備していると、星奈が目を覚ました。彼女は、うるみやの顔を見て、かすかに微笑んだ。

「うるみや…さん。お顔、疲れてるよ」

「気のせいですよ、星奈さん。僕らの疲れなんて、ステージに上がれば吹き飛びますから」うるみやは、心配させまいと、無理に明るく振る舞った。

星奈は、うるみやの手を弱々しく握り、そっと囁いた。「ねぇ、ライブ…私、本当に間に合うかな？」

その問いは、うるみやの胸を鋭く貫いた。彼は、星奈に嘘をつくか、真実を伝えるか、一瞬で選択を迫られた。

「もちろんです！」うるみやは、星奈の手を優しく包み込み、力強く答えた。「間に合います。絶対に。僕たちが、星奈さんのために、時間を引き延ばしますから。だから、安心して、体力温存してくださいね 」

その言葉は、星奈に対する小さな、そして優しい嘘だった。彼らは星奈のために、時間を反転させることはできないが、彼女の残された時間を、永遠のように輝かせることはできると信じていた。



準備が始まって一週間。VOISINGとシクフォニが協力し、通常なら数ヶ月かかる準備を一気に進めた。そして、ライブ会場が正式に決定した。

それは、VOISINGが結成初期に目標として掲げたものの、まだ誰も立つことができていない、**「希望のドーム」**と呼ばれる会場だった。

「ここなら、星奈の歌が、一番遠くまで届く」ないこが、会場を見上げて言った。

「そして、俺たちが星奈にひどいことをした過去も、この大きな会場で、一つ一つ打ち消せる」すたぽらのこったろが、力強く拳を握りしめた。

『イエロー・メモリアル・ライブ』の開催まで、残された時間はわずか二週間。この二週間が、星奈の命が燃え尽きる、最後の輝かしい時間となるのだった。