完成したデモ音源を握りしめたないこと、制作の核となった暇72、そしてクロノヴァのかなめは、急いで星奈の自宅へと向かった。自宅には、シクフォニの雨乃こさめとクロノヴァのしのが、緊張した面持ちで星奈の容態を管理していた。

星奈は意識を保っていたが、呼吸は浅く、その小さな体は湖畔で見た時よりもさらに痩せて見えた。彼女の肌は透明感を増し、まるで光を透過するガラス細工のようだった。

「星奈、起きてる？」ないこが、そっと彼女の頬に触れた。

星奈は、ゆっくりと目を開け、かすかに微笑んだ。「ないこ、さん…おそい…」

「ごめん、待たせたね。でも、間に合ったよ」暇72が、携帯音楽プレイヤーを手に、星奈の枕元に座った。「星奈の願い、俺たち23人、全員で叶えたよ。俺たちの歌。聴いてくれる？」

星奈は、弱々しく頷いた。雨乃こさめが星奈の耳に小さなイヤホンをそっと装着し、部屋の空気は静寂に包まれた。23人の想いが凝縮された、**『青龍の協奏曲（コンチェルト）』**が再生される。



イントロは、星奈の**『青い旋律』を彷彿とさせる、静かで内省的なピアノの音色から始まった。いれいすの初兎**とすたぽらのくにの透明感のある声が、影の部分を歌い上げる。

「立ち止まった時間、軋む心の音、世界に置いていかれた声…」

星奈の瞳から、一筋の涙が静かに流れ落ちた。彼らは、あの時、自分を信じなかった彼らが、今、自分の孤独を理解し、歌にしてくれている。その事実だけで、胸が締め付けられるようだった。

しかし、歌はBメロで一変する。シクフォニのLANの力強いラップと、クロノヴァのALKHEの情熱的なボーカルが加わり、リズムとメロディが爆発的な光を放つ。

「過去を断ち切れ！その翼を広げ、闇を突き破る、再生の時！」

そしてサビ。VOISINGとシクフォニ、23人全員の声が重なり合い、まるで一つの巨大なオーケストラのように響き渡る。そのハーモニーは、単なる歌声ではなく、星奈の心臓を再び動かそうとする、生命力そのものだった。

かなめとみことの澄んだ高音が、星奈のメンバーカラーである黄色い光となって部屋を満たすかのようだった。

星奈は、イヤホンを握りしめ、嗚咽を漏らした。それは悲しみではなく、感謝と許しの涙だった。この歌には、彼らが彼女に注いだ後悔、謝罪、そして、彼女の存在を心から愛する気持ち、その全てが詰まっていた。

曲が終わった後、部屋には再び重い沈黙が訪れた。

ないこが震える声で尋ねた。「どう…だった？星奈」

星奈は、涙で濡れた顔を上げ、心からの笑顔を見せた。この時、彼女が浮かべた笑顔は、これまでで最も強く、最も美しいものだった。「ありがとう…本当に、ありがとう。世界で、一番、綺麗な曲だよ」



歌を聴いた後、星奈はまるで大きな決心をしたかのように、雨乃こさめに支えられ、わずかに体を起こした。

「ねえ、みんな…私ね、わかっちゃったんだ」

その言葉は、まるで夜明け前の静けさのように、全てを悟った響きを持っていた。

「私の時間…もう、そんなに残ってないみたい。この歌を聴くのが、本当に最後の、夢だった気がする」

ないこ、暇72、かなめたちは、顔を青ざめさせた。「星奈、そんなこと…！」

「嘘じゃないよ。だって、この歌を聴いた瞬間、私の心の中に、全てが満たされたんだ」星奈は、静かに手を広げた。「この半年間、生きるのが辛くて、みんなに迷惑をかけて、逃げ出してしまった私だけど…最後に、みんなの愛と、こんなに素晴らしい歌をもらえた」

彼女は、自分が余命宣告された時に感じた絶望ではなく、今は満ち足りた幸福感に包まれていることを伝えた。彼女にとって、この歌は命の終わりを告げるゴングではなく、愛の成就だったのだ。

「お願い…もう、悲しい顔しないで。泣かないで。私の残りの時間は、みんなが笑ってる顔が見たい」


その日から、星奈の病状は急速に悪化し始めた。肉体的な衰弱は著しく、ベッドから起き上がることも難しくなった。しかし、彼女の瞳の光は失われることはなかった。それは、23人の愛という燃料で、彼女の魂が燃え続けている証拠だった。


星奈は、最後の力を振り絞り、ある一つのメッセージを23人に託すことにした。彼女は、いれいすのIfとシクフォニのすちに、自分の言葉を代筆してほしいと依頼した。

「私からの、みんなへの最後の…メッセージ。私が死んだ後、みんながこの歌を歌い続ける、ライブイベントで、みんなに読んでほしいの」

それは、彼女の死を前提とした、最も現実的で、最も切ない願いだった。

Ifとすちは、涙をこらえながら、星奈の震える言葉を正確に記録していった。そのメッセージは、彼らが彼女に与えた愛への感謝と、彼らが今後もグループの垣根を越えて**『家族』**として生き続けることへの願いが込められていた。

「これが…私の**『青龍の協奏曲（コンチェルト）』**の、本当の歌詞。みんな、約束だよ。私が消えても、ずっと歌い続けてね」

メッセージの代筆が終わると、星奈は深く静かな眠りについた。その寝顔は、安らかで、まるで天使のようだった。

外では、すたぽらの如月ゆうが、夜空に輝く一番星を見上げていた。星奈の輝きは、この夜空の星のように、永遠に彼らの心に残るのだろう。23人の歌い手たちは、星奈の最期が近いことを悟りながらも、彼女の最後の願いを叶えるため、**『23人合同ライブイベント』**の準備へと、涙を拭い、動き出すのだった。