湖畔のコテージでの旅を終え、23人の歌い手たちはそれぞれの活動拠点へと戻った。しかし、彼らの心はもはや別々のグループとして分断されてはいなかった。彼らが目指すのはただ一つ、星奈の願いを叶えるための**「23人合同楽曲制作」**という壮大な目標である。

いれいすのないことシクフォニの暇72が共同でプロジェクトリーダーとなり、まずは楽曲の核となるクリエイティブチームが編成された。

担当

VOISING側（中心）

シクフォニ側（中心）

作詞

If（いれいす/青）

すち（シクフォニ/青）


作曲・編曲

Coe.（すたぽら/赤）

暇72（シクフォニ/オレンジ）


コンセプト・構成

かなめ（クロノヴァ/緑）

みこと（シクフォニ/黄）


ボーカルディレクション

悠佑（いれいす/黄）

いるま（シクフォニ/黄）

楽曲のテーマはすぐに決まった。『Re-Birth（再生）』。星奈が失った孤独な時間を取り戻し、彼女の光によって彼ら23人もまた再生するという物語を描くこと。

作詞担当のIfは、真夜中のスタジオでペンを走らせていた。彼の脳裏には、冷たい態度を取っていた時の星奈の、怯えた表情が焼き付いている。「歌詞は、謝罪じゃだめだ。希望を歌わなきゃいけない。俺たちの未来を、星奈に見せなきゃ」

しかし、作曲・編曲の過程では、VOISINGとシクフォニの間に、クリエイティブな「対立」が生まれた。

「俺たちのグループは、ポップでキャッチーなメロディが中心だ。星奈も明るい曲調のほうが好きだろう」と、いれいすのりうらが主張した。

それに対し、シクフォニのLANは反論した。「星奈は、孤独の中で生まれた『青い旋律』という、深い感情を込めた歌を歌っている。ただ明るいだけじゃ、彼女の魂に届かない。もっとHIP HOPや、クロノヴァの持つK-POPのような、影と光が交差するサウンドが必要だ」



議論が膠着しそうになったその時、クロノヴァのリーダーであるかなめとALKHEが進み出た。彼らは、最も「対立」をコンセプトにしてきたグループだからこそ、この瞬間を乗り越える役割を担っていた。

「待ってくれ」かなめが、落ち着いた声で口を開いた。「俺たちのグループコンセプトは『対立』だが、今は『協調』へと反転した。この曲も、同じだ。光と影を両方歌おう」

ALKHEが続けた。「LANの言う通り、星奈が乗り越えてきた『影』を否定してはいけない。その影があったからこそ、彼女の光は輝く。だから、Aメロは静かで内省的な影、Bメロからサビにかけては、23人の力が集まって生まれる爆発的な光を表現する。まるで、星奈の人生そのものを音で『リバース』させるんだ 」

この提案は、全員の心を打った。VOISINGのポップな感性と、シクフォニのロックやヒップホップのエッセンスが見事に融合し、楽曲は一気に完成へと向かう。Coe.と暇72が互いのアイデアを尊重し、寝食を忘れて編曲作業に没頭した。



しかし、制作が加速する一方で、星奈の病状は待ってはくれなかった。

星奈は今、湖畔の旅で得た安らぎのおかげで一時的に自宅療養に戻っているが、その衰弱は誰の目にも明らかだった。

日中は、クロノヴァのうるみやとしの、そしてシクフォニの雨乃こさめらが交代で星奈のケアにあたっていた。


ある日、星奈が咳き込んだ後、しのは彼女のノートの隅に、細かく震える文字が書き加えられているのを見つけた。

「（病状の進行は、もう止められない。みんなが作ってくれる曲、それを聴くのが、私に残された最後の夢。間に合って）」

しのは、そのメモをうるみやに見せた。うるみやの明るい笑顔は消え、表情が引き締まる。「時間が、ない…」

このメモはすぐにないこに伝えられ、制作チーム全体に共有された。

「星奈が、もう待てないかもしれないって言ってる…！」いれいすの初兎が、焦燥感を露わにした。

「待たせるわけにはいかない」ないこは、目を見開いて言った。「クリエイティブチームに伝えろ。あと48時間で、全てを仕上げる。そして、星奈に完成した歌を聴かせるんだ」



23人の歌い手たちは、48時間というリミットに直面した。それは、星奈の命が待ってくれるかもしれない、最後の猶予だった。

作曲の暇72は、最後のサビのコード進行を何度も調整し、最も胸を打つ響きを追求した。作詞のIfは、最後のフレーズに、星奈の存在が彼らにもたらした**『永遠の希望』**を託した。

クロノヴァの甘夢れむとしゃるろは、ボーカルの振り分けを夜通し担当した。23人全員の個性が、一つの歌の中で最も輝くように、緻密なパズルのように声を配置していく。

「このパートは、星奈のソロパートと重なる部分だ。優しさの中に、絶対的な強さがなきゃ」甘夢れむが、真剣な眼差しで悠佑に指示を出す。

徹夜明け、コーヒーと栄養ドリンクだけで繋がれた23人のクリエイターたちは、誰もが疲れ果てていたが、その瞳には炎が宿っていた。彼らは、単なる楽曲ではなく、星奈の命を祝福し、彼女の魂を永遠に残すための記念碑を作っているのだという意識を持っていた。


そして、リミットを迎える直前、日の出と共に、23人の声が重なり合う、完全なデモ音源が完成した。

『青龍の協奏曲（コンチェルト）』―それが、彼らが作り上げた、グループの垣根を越えた、希望と再生の歌だった。

疲れ切った顔のまま、ないこが音源を握りしめ、医療チームへ向かう。「間に合った…間に合ったぞ！」その声は、歓喜と安堵に震えていた。

彼らが次のステージに進むための、大きな武器が手に入った。しかし、この歌を星奈が聴くことができる時間もまた、残された時間は少ない。