大型プライベートカーが、深い森に囲まれた静かな湖畔にある、ログハウス風のコテージに到着した。コテージは完全に貸し切られており、外界の喧騒から隔絶された、まさに「星奈だけの空間」だった。

車から降りた星奈は、澄んだ空気と、湖面を渡る涼しい風に、思わず深く息を吸い込んだ。

「わあ…空気が全然違う。すごく気持ちいい」

その瞬間、VOISINGのメンバーたちとシクフォニのメンバーたちが、突然、派手なクラッカーを鳴らした。

「星奈、ようこそ！俺たちの秘密基地へ！」いれいすのりうらが、まるで子どものように跳ねてみせる。

エンターテイメントチームが考えた最初の企画は、**『星奈争奪！コテージ・ルーム分けダービー』**だった。

「星奈ちゃん！俺と一緒の部屋がいいでしょ？俺が夜、子守唄歌ってあげる！」すたぽらのこったろが手を上げる。

「いやいや、星奈は静かな俺と一緒の方が絶対落ち着く。さあ、こっちの部屋だよ」と、クロノヴァのしゃるろが冷静に誘導しようとする。

星奈は、この騒々しくも温かい争いを、くすくすと笑いながら見つめた。彼女が、あんなにも恐れていた「迷惑」をかけることなく、こんなにも無邪気に求められている。その事実に、胸の奥がじんわりと温かくなった。

結局、星奈の体調管理を最優先するため、部屋は彼女専用とし、-hotoke-と雨乃こさめが隣の部屋で待機することになった。


日が傾き始めると、コテージの中からは、楽しそうな賑わいと共に、美味しそうな匂いが漂ってきた。

エンターテイメントチームと**食事担当チーム（シクフォニのLAN、いれいすの悠佑、すたぽらのくにが中心）**による、星奈のためのスペシャルディナーの準備が始まっていた。メニューは、星奈が「昔、食べてみたかった」とふと漏らしたことのある、手作りのハンバーグと、地元の野菜を使ったポタージュだった。

テーブルには、星奈のメンバーカラーである黄色を基調とした装飾が施され、小さな星型のキャンドルが並べられていた。

夕食の席では、VOISINGのメンバーたちが、改めて星奈に謝罪の言葉を述べるのではなく、**「自分たちが星奈のファンになったきっかけ」**を語り合う企画が行われた。

「俺は、星奈がまだソロで活動する前、誰にも見向きもされてない頃の、あの必死な歌声を聴いて、悔しくて涙が出たんだ」いれいすのないこが、当時の熱い気持ちを語る。

「僕は、星奈さんの、あの人を気遣う優しいところが大好きで。まさか、その優しさに俺たちが甘えて、星奈さんを傷つけてしまうなんて…」すたぽらのCoe.が声を詰まらせた。

皆が語る、真実の想い。それは、星奈が虐めに苦しんでいた間、彼女が心のどこかで願っていた「自分は必要とされている」という確証だった。

星奈は、静かに涙を流しながらも、しっかりとハンバーグを完食した。食べ終わる頃には、彼女の胸の重荷が少しだけ軽くなっているのを感じた。


夕食後、星奈は皆と一緒にコテージの外、湖畔に面したデッキへと向かった。そこには、クロノヴァのALKHEとかなめが中心となって設置した、プロジェクターと白いスクリーンがあった。

**記録チーム（すたぽらのくに、こったろ）**が制作した、星奈の『青い旋律』制作の裏側と、23人の日々の奮闘をまとめたショートムービーが上映された。

映像の中には、星奈が苦しんでいた時に、佐倉の嘘を信じて彼女に冷たい言葉を浴びせていた自分の姿も映し出されていた。その時の悔しさ、怒り、そして今はもういない佐倉への憎悪が、メンバーたちの胸に突き刺さる。

ムービーの最後に、湖畔の夜空に、23人の声で録音されたメッセージが響き渡った。

「星奈、俺たちは君が大好きだよ」
「残りの時間は、君の笑顔だけのためにある」
「迷惑じゃない。君といることが、俺たちの生きる意味だよ」

雨乃こさめは、星奈の隣でそっと言った。「星奈ちゃん、彼らは本当に変わったよね。これからは、彼らの愛を疑わないで、全部受け取ってあげてね」

星奈は、夜空を見上げながら、震える声で答えた。「うん…ありがとう。みんな、大好きだよ」


その時、突然、星奈の体に激しい痛みが走った。胸を強く押さえ、顔色がみるみるうちに蒼白になっていく。

「星奈！？」最初に異変に気づいたのは、近くにいたシクフォニのみことだった。

医療・衛生チームが瞬時に駆けつける。Reluが星奈を抱き上げ、すぐにコテージ内の医療スペースに運んだ。**-hotoke-**が冷静にバイタルサインを確認し、雨乃こさめが用意していた緊急用の薬を投与した。

デッキに残された21人は、その場に立ち尽くした。

「くそっ、やっぱり、病気は待ってくれないのか…」いれいすの悠佑が、拳を強く握りしめた。

ALKHEは、冷静な表情を装いつつも、すぐに警備チームに指示を出した。「警戒レベルを上げる。星奈の体調が悪化した今、もし外部から何かあったら、俺たちの準備が水の泡になる。全員、持ち場に戻れ。一歩たりとも、コテージに近づけるな」

楽しい時間は、一瞬で緊迫した現実に引き戻された。星奈の病状は、彼らの献身的な愛や、彼女の願いの成就を待ってくれない。彼らは、残りの時間が本当にわずかであることを、この身体的な警告によって改めて突きつけられたのだった。

彼らは湖畔の光に照らされながらも、心の中には、刻一刻と迫る別れの影が落ちていた。