リリース当日、VOISINGのメンバー、シクフォニのメンバー、そして星奈は、海辺の一軒家のリビングに集まっていた。時計が深夜0時を指す瞬間を、誰もが息をのんで待っていた。

星奈は、いれいすの初兎が用意したブランケットにくるまり、少し緊張した面持ちで、悠佑が持ってきたタブレットの画面を見つめている。

「星奈ちゃん、深呼吸だよ。大丈夫、最高の曲だもん」すたぽらの如月ゆうが優しく声をかける。

午前0時ちょうど。VOISINGの公式チャンネルに、星奈の楽曲**『青い旋律 (Blue Melody)』**のミュージックビデオがアップロードされた。

MVは、星奈の孤独な日常の断片と、23人が彼女のために必死に準備する様子、そして海辺で星奈が笑顔で歌う姿を組み合わせた、ドキュメンタリータッチの映像だった。

再生ボタンが押された瞬間、静寂の中に星奈の透き通った歌声が流れ始めた。

「この世界で、独りぼっちでも、きっと見つけられる」

星奈の歌声は、繊細でありながら芯が強く、聞く者の心を深く揺さぶった。特にサビでは、23人の歌い手が織りなすハーモニーが加わり、星奈の孤独な旋律を温かく包み込み、力強い希望へと昇華させていた。

「すごい…星奈の歌声、こんなに力があったなんて…」クロノヴァのしゃるろ（青）が、涙をこらえきれずに呟いた。


リリースからわずか1時間で、MVの再生回数は100万回を突破した。SNSは『青い旋律』に関する言葉で埋め尽くされ、トレンドの1位を独占した。

楽曲は、音楽チャートで瞬く間にトップに躍り出た。

世間の反応は、VOISINGの公表時とは打って変わり、圧倒的な感動と共感に包まれた。

「余命宣告の曲なんて聞きたくなかった。でも、一度聴いたら涙が止まらない。この歌は本物だ」

「星奈ちゃんの歌声は、私たちが感じていた孤独そのものだった。彼女が傷つけられた分、光を与えたい」

「VOISINGのメンバーたちも、本当に後悔して、全力で支えてるのが伝わる。これは贖罪じゃなく、愛だ」

「シクフォニもコーラスに参加してる！グループの垣根を超えた奇跡の曲だ！」

特に、VOISINGが公表した虐めの事実と、星奈の余命という背景が、この歌に計り知れない重みと真実味を与えた。ファンたちは、星奈が抱えていた苦しみと、それを受け止めて彼女を支える23人の絆に深く感動した。


MVを最後まで見届けた星奈は、深く安堵したように目元を緩めた。

「…ちゃんと、届いたね」

シクフォニの暇72が、星奈の髪を優しく撫でた。「ああ、届いたよ。世界中の心に、君の光は届いた。君の歌は、君の命よりずっと長く生き続ける」

その言葉を聞きながら、星奈は幸せそうに微笑んだ。

この成功は、23人にとって大きな喜びであると同時に、彼らの胸を締め付ける現実を突きつけた。星奈の才能が最大限に開花し、彼女の人生が最も輝き始めたこの瞬間から、彼女に残された時間は、ますます加速度的に減っていくのだ。

クロノヴァのALKHEは、一連の騒動の中で、佐倉の残党の動きを完全に封じ込めたことを、ないこに報告した。

「もう、星奈に近づく影はない。あとは、俺たちが彼女の命を最後まで守り通すだけだ」

ないこは、目を閉じてALKHEの言葉を噛みしめた。「ありがとう、ALKHE。頼む。…俺たちは、彼女の最期の半年を、最高のソロアーティスト、青龍星奈の伝説にする」

星奈の周囲は、彼女の才能と歌声によって、今、かつてないほどの輝きに包まれている。しかし、その輝きが増すごとに、彼女の生命のろうそくの炎は、静かに、そして確実に短くなっていった。

23人のメンバーたちは、この輝きを、彼女の永遠の宝物として刻みつけるため、次なる星奈の願いの実現へと動き出すのだった。