旅館での緊急会議から数日後、星奈のサポート体制は動き出した。シクフォニのケア＆マネジメントチームの判断により、星奈は体調を考慮し、都会の喧騒から離れた郊外の静かな一軒家に移っていた。

その家のリビングで、ウィッシュ・プランニングチーム（ないこ、りうら、初兎、Coe.）と制作＆記録チーム（If、-hotoke-、悠佑、如月ゆう）が集まっていた。

「星奈、今のうちに、やりたいことリストを作ってみようよ！」ないこが、笑顔でノートとペンを差し出す。

星奈は少し迷った後、ゆっくりとペンを握った。「じゃあ、一つだけ…」

彼女が最初に書いたのは、**『自分の歌を、ちゃんとレコーディングして、みんなに聴いてもらうこと』**だった。

この願いは、メンバーにとって、彼女がスタッフに虐められたために奪われていた、最も大きな夢だった。

「よし、やろう！すぐに実行だ！」Coe.が力強く拳を握る。

制作の担当は、Ifと悠佑が中心となった。悠佑はVOISING随一の歌唱力を持つが、それ以上に星奈と同じ黄色い担当カラーを持つ者として、特別な想いがあった。

「星奈、歌いたい曲はあるか？もし作ってないなら、俺が、いや、俺たちがすぐに作る」悠佑が尋ねた。

星奈は首を振った。「前に、自分で作った曲があるの。だけど、誰にも聴かせたことがなくて…」

彼女は、まるで宝物のように大切にしていたUSBメモリを取り出した。


その日、制作チームのメンバーは、星奈のデモ音源を聴くためにスタジオに集まった。いれいすのIf、-hotoke-、悠佑、そしてすたぽらの如月ゆうは、緊張しながら再生ボタンを押した。

流れてきたメロディは、驚くほど洗練され、コード進行は複雑でありながらも美しかった。そして何よりも、星奈自身が録音した仮歌の透明感と表現力は、彼らの想像を遥かに超えていた。

「嘘やろ…これ、デモ音源か？」Ifが思わず呟いた。彼の専門は音楽制作だが、その知識をもってしても、この楽曲のレベルの高さは計り知れなかった。

悠佑は、ヘッドホンを外し、呆然とした表情で言った。「この子の歌唱力と表現力、俺たちの中でもトップレベルだ…なんで、今まで隠してたんだ？」

-hotoke-が、星奈の歌詞が書かれたノートを手に取った。そこには、彼女の心の叫びが込められていた。

「光の影で 息を潜めて 誰にも見えない場所にいる」 「大丈夫の嘘 笑顔の盾 砕け散るまで気付かれない」

「この子、こんなにも苦しかったのか…」如月ゆうが唇を噛んだ。「こんな素晴らしい才能を持って、こんな深い孤独の中で、一人で曲を作り続けてたなんて」

星奈は、誰にも虐められていることを言えなかっただけでなく、自分の才能を見せることすら、スタッフの支配を恐れてできなかったのだ。彼女が「タレント」として存在する喜びを、すべて奪われていた。


そのデモ音源は、すぐさまVOISINGの制作チームと、シクフォニのいるまやLANといった音楽的感性の鋭いメンバーにも共有された。

「アレンジは、K-POPやHIP HOPの要素を大胆に取り入れよう」クロノヴァのうるみや（橙）が提案した。「星奈の透明な声に、俺たちの対立や激しさをぶつけることで、逆に彼女の歌声の強さを際立たせる」

制作＆記録チームの指揮の下、楽曲の再構築が始まった。
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悠佑とIfがメインのアレンジを担当。
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いれいすの初兎とシクフォニのいるま、すたぽらのくにが、彼女の孤独な心を代弁するようなラップパートを分担して制作。
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すたぽらのReluが、楽曲全体のサウンドプロデュースに加わり、緻密な音作りを担った。

この楽曲は、単なる彼女の歌ではない。彼女を傷つけた17人の贖罪の旋律であり、彼女を支えるシクフォニの決意の音色でもあった。

レコーディング当日、スタジオには星奈と制作チームの数名だけが立ち会った。

星奈はマイクの前に立ち、深く息を吸った。体は弱りきっているが、マイクに向かう彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。それは、半年という残された命の中で、最後に輝かせたいと願った、タレントとしてのプライドだった。

「…ありがとう。みんな」

彼女が歌い始めた瞬間、ブースの外にいたメンバー全員の心に、電流が走った。彼女の歌声は、涙で濡れた悲しみではなく、過去の痛みを昇華させた、力強い希望の光そのものだった。

レコーディングを終えた夜、星奈は久しぶりに深い満足感に包まれていた。自分の作った曲が、23人の仲間によって最高の形に磨き上げられたのだ。ブースから出た彼女は、全員に抱きしめられ、涙ぐんでいた。

しかし、その輝きは長くは続かなかった。

郊外の一軒家に戻った翌朝、星奈は激しい痛みに襲われ、高熱を出した。シクフォニの雨乃こさめとみことが夜通し付き添っていたが、容態は急変した。

「熱が40度を超えてます！意識も少し朦朧としてる…」こさめが、緊急で駆けつけた暇72に焦った声を上げる。

暇72は冷静に指示を出した。「落ち着け、こさめ。これは病気の進行だ。俺たちができるのは、痛みの緩和と、星奈の不安を取り除くことだけだ。すぐにVOISINGのケア＆マネジメントチームとIfに連絡しろ。Ifは過去に医療系の知識も学んでいたはずだ」

VOISINGの17人にもこの急変はすぐに伝えられ、彼らはパニックに陥った。特に、いれいすのないこは、「俺が、レコーディングを急がせすぎたせいだ」と自責の念にかられ、誰にも止められないほど泣き崩れた。


その混乱のさなか、事態は別の場所でも動いていた。

VOISINGの社内では、星奈を虐めていた元凶、佐倉が追放された後も、彼女に協力していた残党が潜んでいた。佐倉は追放される前に、星奈のレコーディングデータや、彼女の現在の居場所に関する情報を外部の悪質な週刊誌にリークするよう、残党に指示を出していたのだ。

クロノヴァのALKHEとかなめを中心とするセキュリティ＆クリーンチームは、常に佐倉の周辺を監視していた。彼らのチームには、すたぽらのくにやReluといった情報戦に長けたメンバーも加わっている。

「佐倉の協力者の一人が、VOISINGのサーバーから不審なアクセスを試みている。目的は、星奈の病状の情報を抜き取り、さらにレコーディングデータを破壊することだ！」Reluが、緊迫した声で叫んだ。

ALKHEはすぐに指示を飛ばした。「うる、しの！すぐにサーバー室へ向かい、物理的にアクセスを遮断しろ。俺とかなめは、その残党を直接捕らえる。リークされたら、星奈の最期の願いが穢されるぞ！」


クロノヴァのALKHEとかなめは、佐倉の残党が接触する予定のカフェへと急いだ。二人はグループのコンセプト通り、普段は激しく対立するライバルだが、この時ばかりは完全に息が合っていた。

「黒組リーダー、手荒な真似はするなよ。あくまで証拠を押さえるのが目的だ」かなめが冷静に忠告する。

「黙ってろ、白組リーダー。俺のやり方でやる」ALKHEはそう言い返しながらも、かなめの指示通りに動いた。二人は互いの能力を深く理解し合っていた。

カフェに到着した二人は、残党である中年の男性スタッフが、週刊誌の記者らしき人物と接触し、USBメモリを渡そうとしている瞬間を目撃した。

「今だ！」

ALKHEは一瞬でテーブルに飛び込み、男の手からUSBメモリを奪い取った。あまりにも素早い行動に、記者は何が起こったのか理解できなかった。

「これは、VOISINGの未来に関わる機密情報だ」かなめが冷静に記者に圧力をかけた。「もし、これを記事にすれば、あなた方の信用は地に落ちる。我々には、あなたの行動の証拠がある」

ALKHEは、男に冷たい視線を向けた。「二度とVOISING、そして青龍星奈に近づくな。お前の罪は、後でしかるべき形で償ってもらう」

残党は、二人の圧倒的な威圧感と、逃げ場のない証拠に恐れをなし、顔面蒼白になってその場から逃げ去った。


妨害工作を阻止したALKHEとかなめは、すぐに郊外の一軒家へと引き返した。

リビングでは、シクフォニの暇72とLAN、そしていれいすのIfが、冷や汗をかきながら星奈の看病を続けていた。Ifは、冷静に解熱剤と冷却パックを使い、星奈の体温を監視していた。

「なんとか、熱は少し下がり始めた。でも、危ない状態は続いている」Ifが、全員に報告した。

VOISINGのメンバー全員が、星奈の枕元に集まった。彼らは、彼女が自分の命を削りながら歌ってくれた歌を思い出し、胸が張り裂けそうになっていた。

クロノヴァの甘夢れむ（ピンク）が、震える声で星奈に呼びかけた。

「星奈ちゃん…お願いだから、目を覚まして。れむたちは、もう二度と、君を一人にしないから…」

彼女の頬に触れたその時、星奈はうっすらと目を開けた。彼女の瞳は、かすかに黄色い光を放ち、れむを見つめた。

「…歌、…みんなに、届いたかな…」

それが、彼女の唯一の関心事だった。メンバーたちは、皆泣きながら、力強く頷いた。

「ああ、届いたよ！最高の歌だった！」りうらが、涙声で答えた。

星奈は、安堵したように、再び静かな眠りについた。

23人のメンバーたちは、自分たちの贖罪の道のりが、想像以上に過酷な「命との競争」であることを、改めて痛感したのだった。彼らにとって、星奈の命を輝かせることこそが、今、最も重要な使命となった。