星奈が吐血した翌朝、シクフォニのリーダー暇72の表情は一変していた。彼は一睡もせずに考え抜いた末、VOISINGの代表者であるないこに、交渉成立以来初めてのメッセージを送った。

その内容は、簡潔で、そして非常に重いものだった。

『星奈の容態が急変した。詳細な病状は教えられないが、時間が一刻を争う状況になった。面会を許可する。ただし、条件は一つ。全員が揃い、今から五時間以内に指定の場所に到着すること。間に合わなければ、二度と会わせない』

VOISING本部。メッセージを受け取ったないこは、血の気が引いた。彼はすぐさま17人全員に連絡を取り、状況を共有した。

「容態が急変…！？半信半疑だったけど、本当に大変なことになっているのかもしれない」いれいすのりうらが声を震わせる。

すたぽらのCoe.は即座に立ち上がった。「五時間か。ここは東京だ。今から動けばギリギリだ。すぐに車を手配するよ。グループの垣根なんて今はどうでもいい。全員、行くよ！」

彼らは佐倉を追放したことで、事務所の管理体制が緩んでいることを利用し、緊急の移動手段を手配した。いれいす、すたぽら、クロノヴァの全17人が、一刻も早く星奈の元へ向かうため、二台の大型ワゴンに分乗した。

クロノヴァのうるみやが車の窓から外の景色を睨みつける。
「佐倉の残党の監視の目があるかもしれないって、LANさんが言ってたよな。絶対に見つからずに着かなきゃならない」

「黒いワゴン車は警戒しろ」クロノヴァの白組リーダー、かなめが冷静に指示を出した。「俺たちが到着するまで、星奈の安全を守っているのはシクフォニだ。俺たちのミスで、彼らにまで迷惑をかけるわけにはいかない」

17人は、アイドルとしての華やかさや、日頃の軽口を完全に捨てていた。彼らの顔にあるのは、後悔、焦り、そして星奈への贖罪の念だけだった。


高速道路を走りながら、クロノヴァが乗るワゴン車の後部座席で、ALKHE（赤）は沈黙を続けていた。彼は星奈に最も冷たい言葉を浴びせ、虚偽を信じて最後まで突き放した一人だ。

すたぽらのくにが、そっと隣に座った。

「ALKHEくん、大丈夫か。お前が一番自分を責めてるだろうけど…」

「くにお…俺は、許されない」ALKHEは低い声で言った。「俺たちのグループのコンセプトは『対立』だ。譲れない正義を掲げる。だが、俺は、あの時、自分の正義を掲げるどころか、悪意ある第三者の言葉を信じた。あれは対立じゃない、ただの盲信だ」

彼は手のひらを強く握りしめた。「星奈は、いつも優しかった。俺がラップの歌詞で悩んでいた時、こっそり『言葉の響きが、夜空の星みたいで綺麗ですよ』って言ってくれた。俺は、その優しさを、最も醜い形で裏切った」

くにが、静かにALKHEの肩に手を置いた。「俺たち全員、同じだ。あの時の佐倉の言葉は巧妙だった。だが、結局は俺たちが星奈の『大丈夫』という弱すぎる言葉を信じてしまったのが敗因だ」

「俺は、謝りたい。謝って、ただ、一目でもいいから、彼女の笑顔を見たい。俺が追い詰めたせいで、彼女の命の炎が小さくなっているなんて…考えたくない」ALKHEは、普段の冷徹な仮面を脱ぎ捨て、ただの傷ついた青年の顔になっていた。


一方、海辺の旅館。シクフォニのメンバーは、星奈の体調管理に全力を尽くしていた。

LANが、星奈の部屋の温度や湿度をこまめにチェックし、すちは外の物音に常に気を配っていた。

「星奈ちゃん、落ち着いた？少しでも、眠れるなら寝てね」みことが優しく声をかける。

星奈は弱々しく微笑んだ。「ありがとう、みんな。…VOISINGの、みんなが…会いに来るの？」

暇72が、迷いなく頷いた。「来る。彼らは心から後悔している。俺が保証する。ただ、彼らには君の病気のことは伝えていない。彼らを安心させてあげるためにも、少しだけ、元気なフリをしてくれないか？」

星奈は目を閉じ、静かに涙を流した。彼女は、彼らの謝罪を受け入れる覚悟も、拒否する力もなかった。ただ、かつて心を許した仲間たちが、自分のために遠路はるばる来てくれるという事実に、心がわずかに揺れていた。

雨乃こさめが、星奈の耳元で囁いた。「星奈ちゃんは、青い龍だよ。どんな嵐の中でも、光を失わない。こさめたちは、#se星奈＃ちゃんと一緒にいるからね」

その時、暇72のスマホに、ないこからのメッセージが届いた。

『予定通り、四時間後には到着します。全員揃っています。星奈に、心からの謝罪をさせてください』

暇72は、海岸線から吹き付ける冷たい潮風を感じながら、決意を新たにした。

「もうすぐだな。光の黄色と、対立の赤、青、緑、白、黒…すべての色が、この海辺で交差する」

17人のワゴン車が海岸線に近づくにつれて、彼らの心臓の鼓動は早まった。彼らは、謝罪の言葉を何度も頭の中で繰り返していた。彼らに与えられた猶予は、星奈の命の炎が消える前の、最後のチャンスだった。彼らは、もう二度と、彼女を裏切る過ちを繰り返さないと誓っていた。