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夜のスタジオに、まだ熱が残っていた。
鏡張りの壁には練習で滲んだ汗の飛沫が映り、床には踏み鳴らされた靴跡が無数に刻まれている。音楽はすでに止んでいるのに、どこか空気はざわついていた。
リハーサルを終えた九人は散り散りに椅子へ腰を下ろす。誰もが呼吸を整え、ペットボトルの水を一口含む。だが、そこにかつては必ず座っていた藍の姿は、もうどこにもない。
いつもなら、全員が気づかぬほど自然に輪の中にいて、さりげなく冗談を飛ばし、時に厳しい目をして「そこ、もう一回合わせよう」と言ってくれる存在だった。
「……ねぇ、やっぱり変じゃない?」
沈黙を破ったのはラウールだった。まだ十代の彼にとって、藍の存在は特別に大きかった。兄のようで、時に姉のようで、そして誰よりも彼を理解してくれた。藍に褒められるだけで、舞台に立つ勇気をもらえた。
「連絡、まったくつかないんだろ?」
渡辺翔太の低い声が響く。彼は指先でスマホを弄びながら、何度も画面を開いては閉じる。そこには既読のつかないメッセージが山のように積み上がっていた。短い「元気?」という言葉から、長文で吐き出した思いまで──どれも藍に届いた形跡はない。
「藍、何か言いたいことがあったんじゃないか……?」
阿部亮平が、誰にともなく呟いた。合理的に物事を整理しようとする彼でさえ、この突然の失踪には説明がつけられなかった。藍はきっと、理由もなく姿を消す人間ではない。必ず何か抱えていたはずだ。
深澤辰哉は、ただ黙って視線を落とした。藍と一番長く話していたのは、自分かもしれない。くだらない冗談を言っては笑わせ、時には裏でこぼした不安や愚痴を聞いてもらった。だが、そのどれもが「本音」だったのかどうか。今となっては分からなかった。
「俺たち……もっと信じてやれなかったのかな」
佐久間大輔が、珍しく静かな声を落とした。いつもなら大声で笑い、場を盛り上げる彼の瞳が、赤く滲んでいる。藍がいれば「さっくん、元気すぎ!」と笑って突っ込んでくれるはずだった。その声が、今はもう聞こえない。
岩本照は、強く拳を膝に打ちつけるように置いた。リーダーとして、誰よりも藍を守る立場にあったはずだ。それなのに、突然姿を消されるまで何も気づけなかった。自分がもっと目を配っていれば──そう思うたび、怒りと悔しさが全身を締めつける。
「照……」
宮館涼太が声をかけようとする。だが、その言葉は最後まで続かなかった。藍の消失は、彼の中で「言葉にできない空白」として残っていた。優雅で穏やかな館様でさえ、口を閉ざすしかなかった。
──藍を失ってから、Snow Manはずっと心に穴を抱えたままだった。
曲を踊っても、笑顔を作っても、観客の拍手を浴びても、その中心には冷たい空洞がある。藍はその穴を埋める唯一の存在だったのだ。
数日後、稽古後の休憩室。向井康二が、耐えきれないといった様子で椅子から立ち上がった。
「探そうや」
関西訛りの声が、妙に響いた。
「勝手にいなくなったんかもしれん。俺らに迷惑かけんようにって思ったんかもしれん。でも……ほっとけへんやろ。俺らの大事な仲間やんか」
康二の言葉に、全員の視線が集まる。
確かに、待っているだけでは藍は戻ってこない。連絡が途絶え、痕跡が消えてしまった以上、こちらから掴みに行かなければならない。
「でも、どこに行ったか手掛かりもない」阿部が冷静に言った。
「ないなら、作ればいいだろ」岩本が短く言い切った。その瞳は迷いなく前を見ていた。
照の声には、決意が込められていた。誰よりも傷つき、誰よりも悔やんでいる彼だからこそ、その言葉は誰よりも重く響く。
「俺たちで藍を探すんだ」
その日から、Snow Manは少しずつ動き出した。
藍がよく通っていたカフェ。夜の稽古終わりに一人で立ち寄っていた公園。打ち合わせで広げていたノートに書かれた細かい演出のメモ。些細な情報を一つひとつ拾い集め、消えた仲間の足跡を追いかける。
「藍、ほんまにここで座ってたんかな……」康二は公園のベンチに腰を下ろして、夜空を見上げる。隣でラウールも同じように座り、静かに呟いた。
「絶対に見つける。何があっても」
少年の瞳には涙が滲んでいたが、それ以上に強い光が宿っていた。
Snow Manは、再び一つの方向を向き始めた。
それは「デビュー」や「成功」ではなく──ただ一人の大切な仲間「藍」を、再び取り戻すための旅の始まりだった。
鏡張りの壁には練習で滲んだ汗の飛沫が映り、床には踏み鳴らされた靴跡が無数に刻まれている。音楽はすでに止んでいるのに、どこか空気はざわついていた。
リハーサルを終えた九人は散り散りに椅子へ腰を下ろす。誰もが呼吸を整え、ペットボトルの水を一口含む。だが、そこにかつては必ず座っていた藍の姿は、もうどこにもない。
いつもなら、全員が気づかぬほど自然に輪の中にいて、さりげなく冗談を飛ばし、時に厳しい目をして「そこ、もう一回合わせよう」と言ってくれる存在だった。
「……ねぇ、やっぱり変じゃない?」
沈黙を破ったのはラウールだった。まだ十代の彼にとって、藍の存在は特別に大きかった。兄のようで、時に姉のようで、そして誰よりも彼を理解してくれた。藍に褒められるだけで、舞台に立つ勇気をもらえた。
「連絡、まったくつかないんだろ?」
渡辺翔太の低い声が響く。彼は指先でスマホを弄びながら、何度も画面を開いては閉じる。そこには既読のつかないメッセージが山のように積み上がっていた。短い「元気?」という言葉から、長文で吐き出した思いまで──どれも藍に届いた形跡はない。
「藍、何か言いたいことがあったんじゃないか……?」
阿部亮平が、誰にともなく呟いた。合理的に物事を整理しようとする彼でさえ、この突然の失踪には説明がつけられなかった。藍はきっと、理由もなく姿を消す人間ではない。必ず何か抱えていたはずだ。
深澤辰哉は、ただ黙って視線を落とした。藍と一番長く話していたのは、自分かもしれない。くだらない冗談を言っては笑わせ、時には裏でこぼした不安や愚痴を聞いてもらった。だが、そのどれもが「本音」だったのかどうか。今となっては分からなかった。
「俺たち……もっと信じてやれなかったのかな」
佐久間大輔が、珍しく静かな声を落とした。いつもなら大声で笑い、場を盛り上げる彼の瞳が、赤く滲んでいる。藍がいれば「さっくん、元気すぎ!」と笑って突っ込んでくれるはずだった。その声が、今はもう聞こえない。
岩本照は、強く拳を膝に打ちつけるように置いた。リーダーとして、誰よりも藍を守る立場にあったはずだ。それなのに、突然姿を消されるまで何も気づけなかった。自分がもっと目を配っていれば──そう思うたび、怒りと悔しさが全身を締めつける。
「照……」
宮館涼太が声をかけようとする。だが、その言葉は最後まで続かなかった。藍の消失は、彼の中で「言葉にできない空白」として残っていた。優雅で穏やかな館様でさえ、口を閉ざすしかなかった。
──藍を失ってから、Snow Manはずっと心に穴を抱えたままだった。
曲を踊っても、笑顔を作っても、観客の拍手を浴びても、その中心には冷たい空洞がある。藍はその穴を埋める唯一の存在だったのだ。
数日後、稽古後の休憩室。向井康二が、耐えきれないといった様子で椅子から立ち上がった。
「探そうや」
関西訛りの声が、妙に響いた。
「勝手にいなくなったんかもしれん。俺らに迷惑かけんようにって思ったんかもしれん。でも……ほっとけへんやろ。俺らの大事な仲間やんか」
康二の言葉に、全員の視線が集まる。
確かに、待っているだけでは藍は戻ってこない。連絡が途絶え、痕跡が消えてしまった以上、こちらから掴みに行かなければならない。
「でも、どこに行ったか手掛かりもない」阿部が冷静に言った。
「ないなら、作ればいいだろ」岩本が短く言い切った。その瞳は迷いなく前を見ていた。
照の声には、決意が込められていた。誰よりも傷つき、誰よりも悔やんでいる彼だからこそ、その言葉は誰よりも重く響く。
「俺たちで藍を探すんだ」
その日から、Snow Manは少しずつ動き出した。
藍がよく通っていたカフェ。夜の稽古終わりに一人で立ち寄っていた公園。打ち合わせで広げていたノートに書かれた細かい演出のメモ。些細な情報を一つひとつ拾い集め、消えた仲間の足跡を追いかける。
「藍、ほんまにここで座ってたんかな……」康二は公園のベンチに腰を下ろして、夜空を見上げる。隣でラウールも同じように座り、静かに呟いた。
「絶対に見つける。何があっても」
少年の瞳には涙が滲んでいたが、それ以上に強い光が宿っていた。
Snow Manは、再び一つの方向を向き始めた。
それは「デビュー」や「成功」ではなく──ただ一人の大切な仲間「藍」を、再び取り戻すための旅の始まりだった。