《仲間視点》

夜明け前の街は、まだ眠りの中にある。街灯が低く光を放ち、歩道に長く影を伸ばしていた。LANは深い息を吐き、スマホを手に持ったまま立ち尽くす。昨日からずっと、Reluの連絡は途絶えたままだ。

「……もう、どこにもいないのか」
手元のスマホ画面に映る未読メッセージの羅列を、LANは何度も確認する。送信したもの、返信を待つもの、全てが灰色に沈んでいる。

Coe.も傍らに立ち、スマホを握りしめる。目は赤く腫れ、眠れなかったことがうかがえる。
「らんらん……もしかしたら、藍さんたちが完全に遮ってるのかな？」
LANは小さく頷く。
「そうや……でも、ここで諦めるわけにはいかない」

昨日、スタジオで配信を終えた後の微妙な違和感を思い返す。昼間のリハ、控室での表情、配信中の短い声……すべてが、Reluの心の叫びを秘めていた。LANは指先でスマホの画面を軽く叩き、声を潜めて呟く。
「俺、あの時、もっと気づけたんじゃないか……？」

その横でCoe.はか細く笑みを浮かべ、首を横に振る。
「僕も……。でも、今は前に進むしかないでしょ」

二人は夜の街を歩き、Reluの痕跡を追った。
通りすがるカフェやコンビニ、空き部屋の前。街の空気はひんやりとして、足音が静かに響く。LANは一つ一つの場所で、手がかりを探すように目を光らせる。

「LANくん、ここで何か見つけられると思う？」
Coe.が小声で尋ねる。
「……わからない。でも、探すしかない」
LANはスマホの懐中ライトをつけ、空き部屋の隅々を照らす。机の上には未完成の曲の断片が置かれており、LANはそれを拾い上げる。

曲のタイトルも、歌詞も未完成。だが、声の掠れやリズムの乱れから、Reluの心境がにじみ出ている。LANは目を閉じ、耳を澄ませる。
「……Relu、お前、こんな気持ちで……」
目の奥が熱くなる。
Coe.もそっとその断片を見つめ、胸の奥で言葉にならない涙をこらえる。

そのとき、LANのスマホに通知が入る。SNSの配信ログだ。コメント欄には「Relu、元気？」「大丈夫？」という文字が一気に流れていた。しかし、それに返信はない。
「……やっぱり、連絡取れない」
LANは声を落とす。

ないこやARKHEも合流し、情報を整理する。手紙や録音メモ、配信ログ、メッセージ履歴……どれも断片的で決定的ではない。LANは地図を広げ、スタジオ、街のカフェ、Reluの自宅周辺をマークする。
「……どこに逃げたんだ……Relu」
手の震えを抑えながら、LANはつぶやく。

夜が深まる。街灯に映る仲間たちの影は長く、孤独に揺れていた。
LANは振り返り、Coe.に声をかける。
「こえちむ、手分けして探そう。可能性がある場所、全部見て回る」
Coe.はうなずき、二人は別々の方向に歩き出す。

途中、街角の公園で、LANはふと思い出す。昼間、Reluが星奈と藍に囲まれ、微笑むことなく距離を取っていた光景。あの時の冷たい視線と、無言の拒絶――今にして思えば、それは自ら仲間を遠ざけようとしていた兆しだった。
「……あの時、気づけへんかった俺が、悪いんだ」
LANは拳を握り、深く息を吸い込む。

Coe.は別ルートでReluの痕跡を探し、カフェのゴミ箱や街灯下に置かれた小さな紙切れ、未完成のメモを拾う。そこには断片的な歌詞や日記の書き込みが残っていた。
「……これも、手がかりになるかな」
胸が締め付けられる。手紙の断片には、Reluの焦燥と孤独、そして藍と星奈への信頼が綴られていた。

仲間たちは夜を徹して探し回る。
スタジオ、駅前、カフェ、空きビル……どこも人影はなく、手がかりも断片的だ。LANは歩きながら、自分の心臓の音を聞く。
「……Relu、お前はどこにいる……？」
問いかけても、返事はない。

そして深夜、LANたちはReluの自宅に最後の手がかりを求めて向かう。
しかし、そこには藍が待ち構えていた。
「LANさん……会わせられへん」
LANは怒りと悲しみで震える。
「Reluの本当の気持ちを、俺は知る権利がある！」
藍は小さくため息をつき、LANを押し返す。
「今は……無理や。Reluを守るためや」

その瞬間、LANは理解する。Reluは完全に姿を消した。
手元の未完成の曲、手紙の断片、配信ログ……すべてが最後の痕跡だ。
「……これが……Reluの意思なんやな」
胸に込み上げる痛みを押さえ、LANは拳を握る。

街は深い闇に包まれ、夜風が冷たく肌を撫でる。
LAN、Coe.、ないこ、ARKHE……仲間たちは静かに立ち尽くす。
その誰もが、心の奥に絶望と同時に決意を抱いていた。
Reluを探す旅は、まだ終わっていない。
だが、彼の痕跡は、夜の闇の中で完全に消えたのだった。

深夜の街を歩きながら、LANは自分の心臓の鼓動に耳を澄ませる。
ひとつ、ひとつ、夜の静寂に混ざる足音。街灯に映る自分たちの影は、まるで不安を引きずるかのように揺れていた。

「LANくん……ここまで探しても、手がかりは……」
Coe.の声が途切れ途切れに響く。疲労と焦燥が混ざり合い、眠気も見え隠れする。

LANは黙って首を振る。
「まだ諦めたらだめだ……Reluは……俺らを信じてるはず」

その信念を胸に、仲間たちは夜の街を分かれ、探索を続ける。
LANはReluの自宅周辺を再度確認し、街灯下に置かれた小さな紙切れや未完成の録音メモを手に取る。
Coe.は駅前のベンチやカフェの隅、空きビルの階段を探る。ARKHEやないこはSNSや配信ログを再度確認し、未読メッセージを洗い直す。

その時、LANは手に取った未完成曲の断片をもう一度再生する。
声の掠れ、間の取り方、歌詞の言葉選び……そこから、Reluの心の揺れが如実に伝わってくる。

「笑う君を守りたいけど
自分の影を見せたくない
一人でも生きられると思わせたい
それが、きっと優しさのつもり」
「信じてくれる人はいる
でも、壊したくない
誰かに頼る弱さを見せる前に
消えることも考える」

「……Relu、お前、こんな気持ちで……」
胸の奥が締め付けられる。

Coe.も別の断片を拾い、歌詞を指でなぞる。
「僕……やっぱり、気づいてやれなかったんだ」
二人の胸に、後悔が重くのしかかる。

ないこは自宅近くのカフェで、手紙の断片を開く。
そこには、Reluの心境と、藍・星奈への信頼が静かに綴られていた。
「……Reluは、俺たちから離れる覚悟を決めてたんだな」
ARKHEも同じメモを解析し、未完成曲との関連性を見出そうと必死になる。

街中の探索を続ける中で、LANはふと立ち止まる。
暗闇の向こうで、微かに聞こえる歩行音。影の揺れ。
「……Relu？」
しかし、影はすぐに消え、夜の闇に溶け込んでしまった。

LANは怒りと焦燥で拳を握る。
「……もう逃がすか！」
Coe.も静かに頷き、決意を新たにする。

藍と星奈は、Reluを守るために巧妙な距離を保ちながら、仲間たちの追跡を妨害する。
LANが角を曲がると、別の路地に出て姿を消してしまう。
星奈がそっと微笑みながら小声で言う。
「……もう少しの間、待ってて……」

その夜、仲間たちはスタジオに戻り、情報を整理する。
未完成曲、手紙の断片、録音メモ、SNSログ……それらを照らし合わせても、Reluの居場所はつかめない。
「……どこまで行ったの、Relu」
LANは地図にマークをつけながら呟く。

Coe.は手元の断片を見つめ、涙をこらえる。
「僕……Reluをこんなに遠くに追いやるつもりじゃなかったのに……」
LANは腕を組み、深く息をつく。
「俺たちは……まだ知らんことがあるはず」

未完成曲の歌詞には、Reluの孤独と焦燥、そして藍と星奈への信頼が散りばめられていた。
仲間たちはそれを解析しながら、Reluの気持ちを少しずつ読み取ろうとする。

夜明けが近づき、街の明かりが少しずつ差し込む。
LANは仲間たちと共に、最後の痕跡を追うために街を回る。
しかし、藍と星奈の妨害は巧妙で、どこまで行ってもReluの姿は掴めない。

未完成の曲、断片的な手紙、録音メモ……小さな痕跡を頼りに、仲間たちはReluの行方を追い続ける。
しかし、夜の街に消えた影の中で、Reluの本当の意思は静かに、確かに隠されていた。