《Relu視点》

夜の街は静かで、街灯の光が長く影を伸ばしていた。
カバンに荷物を詰め、未完成の手紙とデモ音源を忍ばせる。
机の上には未完成のノートが散らばり、息を潜めたまま残していく。

「Relu、大丈夫？」
星奈の声が、背後から優しく響く。
俺は振り返り、わずかに微笑む。
「うん……大丈夫や。ありがとう、星奈」

藍は荷物の整理を手伝いながら言う。
「LANやCoe.たちが心配してるのは分かるけど、今はこれが最善や」
俺は短く頷く。
胸の奥の小さな声は泣きたがっていたが、押し殺す。

机の上の手紙に目を落とす。
Coe.、LAN、ないこ……一人一人への思いがぎっしり書かれている。
「ほんまは……渡したい」
でも、渡したら消える決意が揺らいでしまう。
だから、すべて残す。
誰かが見つけて、少しでも俺の思いを知ってくれれば、それでいい。

星奈がそっと肩を叩く。
「準備は全部ね。後は移動するだけ」
その声に少し心が軽くなる。
藍も頷き、後方を警戒しながら言う。
「俺たちに任せとけ。Relu、安心して」

荷物をまとめ終えた俺は、未完成の録音機材に目をやる。
声が掠れているのも、息が乱れているのも、全部そのまま残す。
「……また歌える日が来るやろか」
星奈は微笑むだけで、何も言わない。
それが逆に、俺の孤独を実感させる。

部屋を出ると、街の静寂に包まれた夜道が待っていた。
LANやCoe.たちに気づかれないよう、足音を忍ばせながら進む。

星奈が手を差し出し、俺の手を握る。
「Relu、大丈夫。私たちがついてる」
その温もりに、少しだけ心が安らぐ。
藍は少し離れた位置で後方を警戒しながら歩く。
「LANたちにバレんように……絶対、守る」

夜風が頬を撫でる。
街灯に映る三人の影は長く伸び、交錯しながら進む。
孤独と恐怖、そして仲間への思い――複雑な感情が入り混じり、胸が締め付けられる。

途中、未完成の手紙の一枚を取り出し、星奈にそっと渡す。
「……読まんといてや」
星奈は頷き、手紙を胸に抱える。
その姿に少し安心する。

藍は小さく息を吐き、俺の肩に手を置く。
「もうすぐや。怖がらんでええ」
俺は深呼吸し、夜空を見上げる。
光る星たちが、まるで俺たちを導くかのように輝いている。

歩きながら、過去の記憶がふと浮かぶ。
リハーサル中の笑顔、配信の緊張、仲間たちと笑い合った日々……
胸の奥で、これまでの全てが走馬灯のように駆け巡る。

「……自分、ほんまに逃げてええんやろか」
不安が頭をもたげる。
でも、藍と星奈の静かな信頼に支えられ、少しずつ覚悟が固まる。
「……これでええんや。自分のために」

道の角を曲がると、街の明かりが遠ざかり、深い闇が広がる。
足元の影が揺れる。
背後には仲間たちが捜し回っているはず。
でも、今は誰も追えない。
藍と星奈がいる限り、安全だ。

未完成のデモ音源をスマホで再生する。
声は掠れ、リズムもまだ整っていない。
でも、この音に自分の全てが詰まっている。
「……これが、れるの今や」

歩きながら、手紙にもう一度目を通す。
笑顔で見せられなかった気持ち、言えなかった感謝、胸の奥でずっと叫んでいた思い……
全て封じ込め、胸にしまい込む。
そして、誰にも知られないまま、夜の闇に溶け込む。

星奈がそっと手を握り、藍が後方を見張る。
二人に導かれ、俺は静かに街を抜け、姿を消していく。

この夜は、三人だけの時間。
誰にも邪魔されず、誰にも気づかれず――
俺は最後まで、自分の決めた道を選ぶのだ。

胸の奥では、仲間たちへの思いが静かに燃え続けている。
それが、俺を守る力になる。
暗闇の中、俺たちは確かに歩き続けている。