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《Relu視点》
病院の廊下は、やけに白かった。
どこまでも続く直線、壁も床も天井も、まるで色を失ったみたいに無機質で、自分の視界を締めつけてくる。
足音だけが、やけに響く。自分のものなのに、まるで誰か知らない人間の音のようで、耳障りに思えた。
呼ばれた名前は、間違いなくれる自身のものだった。
診察室に入ると、医者の顔が見えた。白衣に隠れた表情は、どこか冷静すぎて、人の心に触れることを恐れているようにさえ見えた。
いや、そう見えたのは僕の心がざわついていたからだろう。
「Reluさん――検査の結果が出ました」
淡々と告げられた言葉。その後に続いた説明は、医療用語が多すぎて、正直半分も頭に入らなかった。
ただ、一つだけはっきりと耳に残った言葉がある。
――余命、一年。
頭の中が真っ白になった。
笑い飛ばそうとした。冗談やろ、って。いつもの調子で「ほんまかいな、ドッキリちゃうん?」って口にしかけた。
でも、声が出なかった。喉が固まったみたいに動かない。
自分は歌い手だ。まだ二十代の半ば。これからもっと歌を届けて、もっと大きなステージに立って――そう思っていた矢先だった。
病名も、治療法も、医者は丁寧に説明してくれていたはずだ。でも耳に入ってくるのは遠い雑音みたいで、言葉の輪郭さえつかめなかった。
「……一年、ですか」
やっとの思いで声を絞り出すと、医者は無言で頷いた。その瞬間、現実が体中に染みこんでいくような、冷たい感覚に襲われた。
診察室を出ても、自分の足はしばらく動かなかった。
廊下の椅子に腰を下ろし、俯いたまま拳を握る。爪が掌に食い込む。痛みが現実を突きつけてくる。
「余命一年」。言葉の重みが、全身を押し潰すようにのしかかってきた。
――どうしよう。
真っ先に浮かんだのは「仲間たちの顔」だった。
Coe.、くに、こったろ、ゆう。すたぽらの仲間。
LAN、いるま、こさめ、暇72、すち、みこと。
ないこ、If、ゆうすけ、りうら、初兎、ほとけ。
ARKHE、うるみや、しの、かなめ、しゃるろ、れむ。
そして、藍と星奈。
みんなの笑顔が頭の中で駆けめぐる。
その笑顔が、生きる力をくれていた。
でも――れるは、その笑顔を裏切らなきゃいけない。
病院を出ると、外の空気は夏の匂いがした。
蝉の声がやかましいほど響き、街の喧騒がいつも通り流れている。
世界は何も変わっていない。なのに、自分だけが取り残されていく。
「……一年、か」
声に出してみると、それはやけに軽い響きだった。
本当に一年後に死ぬなんて、信じられるはずもない。
でも、医者の表情は真剣で、嘘ではなかった。
自分はポケットからスマホを取り出し、録音アプリを起動した。
無意識にそうしていた。
そして、小さく鼻歌を歌った。
♬
途切れ途切れのメロディ。歌詞は浮かばない。
ただ、その瞬間の感情を音にして残さずにはいられなかった。
――これが、最後の一年を刻む最初の一音になるのかもしれない。
家までの道のりは、やけに長く感じた。
車の窓の外を流れていく街並みも、信号待ちの人混みも、ぜんぶが遠い世界の出来事みたいで。
自分だけが透明人間になったみたいに、そこに存在してるのに誰からも見えない気がした。
病院を出た瞬間から、胸の奥に重たい石が沈んでいる。
それを取り出そうとしても、掴んだ手ごと飲み込まれてしまいそうで、どうしようもなかった。
──一年。
たったそれだけで、俺の時間は終わる。
頭ではわかっていても、心は拒絶している。
「嘘だ」って何度も叫びたくなる。
だけど、医者の真剣な眼差しと、机に並べられた検査結果の数字が、残酷な現実を否応なしに突きつけてくる。
「……俺、どうしたらええんやろな」
声に出してみても、答えてくれる人はもちろんいない。
家に着いても、扉の前でしばらく立ち尽くした。
鍵を差し込む手が震える。中には、笑って迎えてくれる人がいるのに。
藍と星奈。二人は自分にとってかけがえのない存在や。だからこそ、この真実を伝えなあかん。でも、伝えた瞬間に彼女たちの笑顔を壊してしまう。
覚悟を決めて、扉を開けた。
「おかえり、れる」
リビングから顔を出した星奈が、ふわりと微笑む。
その笑顔を見た瞬間、胸が張り裂けそうになった。
「おう……ただいま」
なんとか笑みを返したけど、声はかすれていた。
ソファには#藍が#座っていて、ノートパソコンを閉じながらこちらを見つめてくる。
「どうしたん? 顔色、めっちゃ悪いで」
関西弁のイントネーションが自然に滲む。自分よりもれるのことを見抜いてしまう人やから、隠しきれないのは分かってた。
「……ちょっと、話したいことがあるんや」
二人の表情が一瞬で真剣になる。
震える指先を膝の上で握りしめながら、呼吸を整えた。
「病院で……余命、言われた。一年くらいしか、もたへんって」
リビングに沈黙が落ちる。時計の秒針の音がやけに響いて、耳を突いた。
「……え?」
最初に声を漏らしたのは星奈だった。
笑顔が固まったまま、信じられないって顔で俺を見つめてる。
藍は、すぐには言葉を返さなかった。ただ視線を逸らさず、俺の目の奥を覗き込むみたいに見つめてきた。
その目に涙が滲んでいくのが、俺には見えてしまった。
「なんで……」
星奈がかすれた声でつぶやく。
「なんでそんな大事なこと、今まで黙ってたの……?」
「今日、初めて知ったんや」
自分の声も震えていた。
「ほんまはな、誰にも言わんと抱え込もうかとも思った。でも……お前ら二人には、隠したくなかった」
藍がゆっくり立ち上がり、俺の正面に来る。
「れる……ほんまなん?」
「……ああ」
その一言を認めた瞬間、藍の頬を涙がつうっと流れた。
強いはずの人が泣くのを見たら、自分の決意も揺らぎそうになる。
でも、ここで言わなあかん。
本当の願いを。
「お願いがあるんや。自分、この一年……みんなに嫌われたい」
星奈と藍が同時にれるを見返した。
「は……?」
「何言うてんねん……」
必死に言葉を紡ぐ。
「自分がいなくなったとき、みんなが悲しむんは嫌なんや。せやから、わざと嫌われて、突き放したい。そうすれば、少しは楽になるやろ」
藍は顔をしかめ、唇を噛む。
「そんなん、あんまりや……」
「わかってる。でも、そうせなあかん。二人には協力してほしい」
星奈は泣きながら首を横に振る。
「そんなの間違ってるよ……れるを嫌うなんて、私できない……」
自分も泣きそうやった。ほんまは一番そばにいてほしい。愛されていたい。
けど、未来を思えば、残せる最後の優しさはこれしかないんや。
「頼む。藍、星奈……支えてくれ」
沈黙の中で、二人の涙の音だけが落ちていた。
「頼む……」
言葉を絞り出した瞬間、喉が焼けるように痛んだ。
この一年の中で、一番残酷なお願いをしてるってわかってる。わかってるけど、それでも言わなあかんかった。
藍はしばらく拳を握り締めていた。拳が白くなるほど強く。
やがて、震える声で言った。
「……お前、ほんまに最低やな」
その言葉は、刃みたいに胸に突き刺さる。
でも、藍の瞳には怒りよりも悲しみが滲んでいた。
「でもな、れるが選んだ道なら……俺は最後まで隣におる。お前がどんな決断しても、俺は……裏切らん」
涙をぬぐいもせず、そう言い切ってくれた藍の強さに、俺は逆に崩れそうになった。
次に星奈が口を開いた。
「……私は、嫌。れるを嫌うなんて、できない」
声が震えて、喉が詰まりそうに細い声だった。
「でも……れるが望むなら、私、隣で支える。嫌うフリだって、演じる。……心の中で、ずっと好きなままでいいなら」
星奈の涙がソファのクッションを濡らしていく。
その姿を見て、胸がちぎれるように痛かった。
「ありがとう……ほんまに、ありがとう」
かろうじて絞り出せた声は、涙混じりで震えていた。
三人はしばらく言葉を失ったまま、ただそこに座っていた。
秒針の音が進むたびに、「一年」という限られた時間が現実味を帯びて迫ってくる。
深呼吸をして、二人に向き直る。
「具体的に、どう動くか考えなあかん」
声に力を込めると、藍も星奈も真剣な眼差しを向けてきた。
「まずは、配信やライブで距離を作る。今まで通りには接せん。すたぽらのメンバーにも、冷たくする」
言葉にするたび、自分が自分を切り刻んでるみたいや。
「その上で……藍と星奈は、かばうんやなくて、守る。仲間たちが真実に辿りつかんように、壁になってくれ」
藍は眉を寄せて腕を組む。
「つまり……俺らが憎まれ役になるっちゅうことか」
「そうや。二人には辛い思いさせるけど……一人じゃ無理や」
星奈はまだ涙を拭けずにいたけど、小さく頷いた。
「……わかった。れるの覚悟、受け止める」
藍もため息をついて、天井を仰ぐ。
「しゃあないな。……最後まで一緒に背負ったるわ」
二人の言葉に、込み上げるものを抑えられなかった。
「ほんまに……ありがとう。お前らがおらんかったら、自分、きっと潰れてた」
三人で手を重ねたその瞬間、確かに自分らは「共犯者」になった。
運命に抗うんやなく、受け入れて形を変えていくための、残酷で優しい共犯者に。
その夜、眠れなかった。
ノートを開き、震える手でペンを握った。
そこに書き殴ったのは、まだ曲にもならない未完成のフレーズ。
《嫌われてでも守りたい
嘘を重ねてでも届けたい》
紙の上に残った文字を見つめて、涙が滲んだ。
きっと最後まで完成しないままの曲になる。
でも、それでもいい。
この言葉は、この一年のすべてを映す証になるから。
病院の廊下は、やけに白かった。
どこまでも続く直線、壁も床も天井も、まるで色を失ったみたいに無機質で、自分の視界を締めつけてくる。
足音だけが、やけに響く。自分のものなのに、まるで誰か知らない人間の音のようで、耳障りに思えた。
呼ばれた名前は、間違いなくれる自身のものだった。
診察室に入ると、医者の顔が見えた。白衣に隠れた表情は、どこか冷静すぎて、人の心に触れることを恐れているようにさえ見えた。
いや、そう見えたのは僕の心がざわついていたからだろう。
「Reluさん――検査の結果が出ました」
淡々と告げられた言葉。その後に続いた説明は、医療用語が多すぎて、正直半分も頭に入らなかった。
ただ、一つだけはっきりと耳に残った言葉がある。
――余命、一年。
頭の中が真っ白になった。
笑い飛ばそうとした。冗談やろ、って。いつもの調子で「ほんまかいな、ドッキリちゃうん?」って口にしかけた。
でも、声が出なかった。喉が固まったみたいに動かない。
自分は歌い手だ。まだ二十代の半ば。これからもっと歌を届けて、もっと大きなステージに立って――そう思っていた矢先だった。
病名も、治療法も、医者は丁寧に説明してくれていたはずだ。でも耳に入ってくるのは遠い雑音みたいで、言葉の輪郭さえつかめなかった。
「……一年、ですか」
やっとの思いで声を絞り出すと、医者は無言で頷いた。その瞬間、現実が体中に染みこんでいくような、冷たい感覚に襲われた。
診察室を出ても、自分の足はしばらく動かなかった。
廊下の椅子に腰を下ろし、俯いたまま拳を握る。爪が掌に食い込む。痛みが現実を突きつけてくる。
「余命一年」。言葉の重みが、全身を押し潰すようにのしかかってきた。
――どうしよう。
真っ先に浮かんだのは「仲間たちの顔」だった。
Coe.、くに、こったろ、ゆう。すたぽらの仲間。
LAN、いるま、こさめ、暇72、すち、みこと。
ないこ、If、ゆうすけ、りうら、初兎、ほとけ。
ARKHE、うるみや、しの、かなめ、しゃるろ、れむ。
そして、藍と星奈。
みんなの笑顔が頭の中で駆けめぐる。
その笑顔が、生きる力をくれていた。
でも――れるは、その笑顔を裏切らなきゃいけない。
病院を出ると、外の空気は夏の匂いがした。
蝉の声がやかましいほど響き、街の喧騒がいつも通り流れている。
世界は何も変わっていない。なのに、自分だけが取り残されていく。
「……一年、か」
声に出してみると、それはやけに軽い響きだった。
本当に一年後に死ぬなんて、信じられるはずもない。
でも、医者の表情は真剣で、嘘ではなかった。
自分はポケットからスマホを取り出し、録音アプリを起動した。
無意識にそうしていた。
そして、小さく鼻歌を歌った。
♬
途切れ途切れのメロディ。歌詞は浮かばない。
ただ、その瞬間の感情を音にして残さずにはいられなかった。
――これが、最後の一年を刻む最初の一音になるのかもしれない。
家までの道のりは、やけに長く感じた。
車の窓の外を流れていく街並みも、信号待ちの人混みも、ぜんぶが遠い世界の出来事みたいで。
自分だけが透明人間になったみたいに、そこに存在してるのに誰からも見えない気がした。
病院を出た瞬間から、胸の奥に重たい石が沈んでいる。
それを取り出そうとしても、掴んだ手ごと飲み込まれてしまいそうで、どうしようもなかった。
──一年。
たったそれだけで、俺の時間は終わる。
頭ではわかっていても、心は拒絶している。
「嘘だ」って何度も叫びたくなる。
だけど、医者の真剣な眼差しと、机に並べられた検査結果の数字が、残酷な現実を否応なしに突きつけてくる。
「……俺、どうしたらええんやろな」
声に出してみても、答えてくれる人はもちろんいない。
家に着いても、扉の前でしばらく立ち尽くした。
鍵を差し込む手が震える。中には、笑って迎えてくれる人がいるのに。
藍と星奈。二人は自分にとってかけがえのない存在や。だからこそ、この真実を伝えなあかん。でも、伝えた瞬間に彼女たちの笑顔を壊してしまう。
覚悟を決めて、扉を開けた。
「おかえり、れる」
リビングから顔を出した星奈が、ふわりと微笑む。
その笑顔を見た瞬間、胸が張り裂けそうになった。
「おう……ただいま」
なんとか笑みを返したけど、声はかすれていた。
ソファには#藍が#座っていて、ノートパソコンを閉じながらこちらを見つめてくる。
「どうしたん? 顔色、めっちゃ悪いで」
関西弁のイントネーションが自然に滲む。自分よりもれるのことを見抜いてしまう人やから、隠しきれないのは分かってた。
「……ちょっと、話したいことがあるんや」
二人の表情が一瞬で真剣になる。
震える指先を膝の上で握りしめながら、呼吸を整えた。
「病院で……余命、言われた。一年くらいしか、もたへんって」
リビングに沈黙が落ちる。時計の秒針の音がやけに響いて、耳を突いた。
「……え?」
最初に声を漏らしたのは星奈だった。
笑顔が固まったまま、信じられないって顔で俺を見つめてる。
藍は、すぐには言葉を返さなかった。ただ視線を逸らさず、俺の目の奥を覗き込むみたいに見つめてきた。
その目に涙が滲んでいくのが、俺には見えてしまった。
「なんで……」
星奈がかすれた声でつぶやく。
「なんでそんな大事なこと、今まで黙ってたの……?」
「今日、初めて知ったんや」
自分の声も震えていた。
「ほんまはな、誰にも言わんと抱え込もうかとも思った。でも……お前ら二人には、隠したくなかった」
藍がゆっくり立ち上がり、俺の正面に来る。
「れる……ほんまなん?」
「……ああ」
その一言を認めた瞬間、藍の頬を涙がつうっと流れた。
強いはずの人が泣くのを見たら、自分の決意も揺らぎそうになる。
でも、ここで言わなあかん。
本当の願いを。
「お願いがあるんや。自分、この一年……みんなに嫌われたい」
星奈と藍が同時にれるを見返した。
「は……?」
「何言うてんねん……」
必死に言葉を紡ぐ。
「自分がいなくなったとき、みんなが悲しむんは嫌なんや。せやから、わざと嫌われて、突き放したい。そうすれば、少しは楽になるやろ」
藍は顔をしかめ、唇を噛む。
「そんなん、あんまりや……」
「わかってる。でも、そうせなあかん。二人には協力してほしい」
星奈は泣きながら首を横に振る。
「そんなの間違ってるよ……れるを嫌うなんて、私できない……」
自分も泣きそうやった。ほんまは一番そばにいてほしい。愛されていたい。
けど、未来を思えば、残せる最後の優しさはこれしかないんや。
「頼む。藍、星奈……支えてくれ」
沈黙の中で、二人の涙の音だけが落ちていた。
「頼む……」
言葉を絞り出した瞬間、喉が焼けるように痛んだ。
この一年の中で、一番残酷なお願いをしてるってわかってる。わかってるけど、それでも言わなあかんかった。
藍はしばらく拳を握り締めていた。拳が白くなるほど強く。
やがて、震える声で言った。
「……お前、ほんまに最低やな」
その言葉は、刃みたいに胸に突き刺さる。
でも、藍の瞳には怒りよりも悲しみが滲んでいた。
「でもな、れるが選んだ道なら……俺は最後まで隣におる。お前がどんな決断しても、俺は……裏切らん」
涙をぬぐいもせず、そう言い切ってくれた藍の強さに、俺は逆に崩れそうになった。
次に星奈が口を開いた。
「……私は、嫌。れるを嫌うなんて、できない」
声が震えて、喉が詰まりそうに細い声だった。
「でも……れるが望むなら、私、隣で支える。嫌うフリだって、演じる。……心の中で、ずっと好きなままでいいなら」
星奈の涙がソファのクッションを濡らしていく。
その姿を見て、胸がちぎれるように痛かった。
「ありがとう……ほんまに、ありがとう」
かろうじて絞り出せた声は、涙混じりで震えていた。
三人はしばらく言葉を失ったまま、ただそこに座っていた。
秒針の音が進むたびに、「一年」という限られた時間が現実味を帯びて迫ってくる。
深呼吸をして、二人に向き直る。
「具体的に、どう動くか考えなあかん」
声に力を込めると、藍も星奈も真剣な眼差しを向けてきた。
「まずは、配信やライブで距離を作る。今まで通りには接せん。すたぽらのメンバーにも、冷たくする」
言葉にするたび、自分が自分を切り刻んでるみたいや。
「その上で……藍と星奈は、かばうんやなくて、守る。仲間たちが真実に辿りつかんように、壁になってくれ」
藍は眉を寄せて腕を組む。
「つまり……俺らが憎まれ役になるっちゅうことか」
「そうや。二人には辛い思いさせるけど……一人じゃ無理や」
星奈はまだ涙を拭けずにいたけど、小さく頷いた。
「……わかった。れるの覚悟、受け止める」
藍もため息をついて、天井を仰ぐ。
「しゃあないな。……最後まで一緒に背負ったるわ」
二人の言葉に、込み上げるものを抑えられなかった。
「ほんまに……ありがとう。お前らがおらんかったら、自分、きっと潰れてた」
三人で手を重ねたその瞬間、確かに自分らは「共犯者」になった。
運命に抗うんやなく、受け入れて形を変えていくための、残酷で優しい共犯者に。
その夜、眠れなかった。
ノートを開き、震える手でペンを握った。
そこに書き殴ったのは、まだ曲にもならない未完成のフレーズ。
《嫌われてでも守りたい
嘘を重ねてでも届けたい》
紙の上に残った文字を見つめて、涙が滲んだ。
きっと最後まで完成しないままの曲になる。
でも、それでもいい。
この言葉は、この一年のすべてを映す証になるから。
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