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静寂が包む朝のリビングに、決まって最初に現れるのは星奈だった。
5時ちょうど、秒単位の正確さでドアが開く。
Tシャツにジャージ、髪を一つに束ねた彼女が、何の物音も立てずにキッチンで水を飲み、ストレッチを始める。
その後は1時間のランニング、シャワーを浴び、朝食を用意するわけでもなく、ただ静かにノートパソコンに向かってタイピングを始める。
「……もう、何人目撃したんやろな、あの無音ランニング」
道枝が欠伸をしながらキッチンに現れる。
目黒は黙ったまま、コーヒーを口に運ぶ。
「星奈ちゃん、朝からずっと集中してるんやな」
「……そうだな。なんか、規則正しいってレベル超えてる」
星奈は視線だけでこちらをちらりと見ると、また画面に意識を戻す。
この日常が始まってまだ一週間ほどだ。
だが、目黒と道枝の間にはすでに、明確な違和感が共有されていた。
彼女の動きは無駄がなさすぎた。歩き方一つ、立ち方一つが研ぎ澄まされていて、まるで訓練された兵士のようだった。
それでも生活自体は穏やかだった。
暴力的でもなければ、感情的でもない。
ただひたすら、静かに、正確に、規律正しく生きているだけ。
……それが逆に怖い。
大学の講義も彼女は遅れず、真面目で、必要最低限の発言しかしない。
教授や他の学生と会話することもほとんどない。
だが一度だけ、目黒は見てしまった。
キャンパス裏の小道で、上級生らしき男が星奈に話しかけていた。
気さくな口調。からかうような雰囲気。
星奈はただ無言で立ち尽くしていたが、次の瞬間、その男の顔色がサッと青ざめて、慌てて立ち去った。
「……何があったんだ、あれ」
目黒はその場から遠目に様子を見ていたが、言いようのない不安を覚えていた。
夜、リビングでの会話。
「なぁ、目黒。最近さ……星奈ちゃん、マジで何者なんやろって思うことない?」
「あるよ。正直、関わり方がわからない」
「俺、昨日見ちゃってん。星奈ちゃん、駅前で酔っ払いに絡まれててんけど……あっという間にその男、壁に叩きつけられてた」
「……怪我は?」
「してた。顔面血だらけ。てか、星奈ちゃんはそのまま何事もなかったかのように立ち去ってた」
目黒はコーヒーを置いた。
「それ、普通じゃないな」
道枝は真剣な顔でうなずいた。
「星奈ちゃん、なんか隠してる……って思う。てか、俺ら、知らんでいいことに首突っ込んでへんか?」
「……でも、見て見ぬふりもできないよな」
その時だった。
玄関の扉が開く音。
星奈が帰宅した。
手にはスーパーの袋。淡々と中身を冷蔵庫に入れ、彼らに背を向けたままこう言った。
「……今夜は、外に出るな」
「え?」
「理由は聞かないで。頼む」
そう言って、星奈は部屋へと戻っていった。
残された二人は、何も言えなかった。
ただ、その背中に滲む“戦場の匂い”に、息を呑んだだけだった。
5時ちょうど、秒単位の正確さでドアが開く。
Tシャツにジャージ、髪を一つに束ねた彼女が、何の物音も立てずにキッチンで水を飲み、ストレッチを始める。
その後は1時間のランニング、シャワーを浴び、朝食を用意するわけでもなく、ただ静かにノートパソコンに向かってタイピングを始める。
「……もう、何人目撃したんやろな、あの無音ランニング」
道枝が欠伸をしながらキッチンに現れる。
目黒は黙ったまま、コーヒーを口に運ぶ。
「星奈ちゃん、朝からずっと集中してるんやな」
「……そうだな。なんか、規則正しいってレベル超えてる」
星奈は視線だけでこちらをちらりと見ると、また画面に意識を戻す。
この日常が始まってまだ一週間ほどだ。
だが、目黒と道枝の間にはすでに、明確な違和感が共有されていた。
彼女の動きは無駄がなさすぎた。歩き方一つ、立ち方一つが研ぎ澄まされていて、まるで訓練された兵士のようだった。
それでも生活自体は穏やかだった。
暴力的でもなければ、感情的でもない。
ただひたすら、静かに、正確に、規律正しく生きているだけ。
……それが逆に怖い。
大学の講義も彼女は遅れず、真面目で、必要最低限の発言しかしない。
教授や他の学生と会話することもほとんどない。
だが一度だけ、目黒は見てしまった。
キャンパス裏の小道で、上級生らしき男が星奈に話しかけていた。
気さくな口調。からかうような雰囲気。
星奈はただ無言で立ち尽くしていたが、次の瞬間、その男の顔色がサッと青ざめて、慌てて立ち去った。
「……何があったんだ、あれ」
目黒はその場から遠目に様子を見ていたが、言いようのない不安を覚えていた。
夜、リビングでの会話。
「なぁ、目黒。最近さ……星奈ちゃん、マジで何者なんやろって思うことない?」
「あるよ。正直、関わり方がわからない」
「俺、昨日見ちゃってん。星奈ちゃん、駅前で酔っ払いに絡まれててんけど……あっという間にその男、壁に叩きつけられてた」
「……怪我は?」
「してた。顔面血だらけ。てか、星奈ちゃんはそのまま何事もなかったかのように立ち去ってた」
目黒はコーヒーを置いた。
「それ、普通じゃないな」
道枝は真剣な顔でうなずいた。
「星奈ちゃん、なんか隠してる……って思う。てか、俺ら、知らんでいいことに首突っ込んでへんか?」
「……でも、見て見ぬふりもできないよな」
その時だった。
玄関の扉が開く音。
星奈が帰宅した。
手にはスーパーの袋。淡々と中身を冷蔵庫に入れ、彼らに背を向けたままこう言った。
「……今夜は、外に出るな」
「え?」
「理由は聞かないで。頼む」
そう言って、星奈は部屋へと戻っていった。
残された二人は、何も言えなかった。
ただ、その背中に滲む“戦場の匂い”に、息を呑んだだけだった。