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初秋の風が、カーテンを揺らしていた。
あの放送から一週間。
「顔出しした歌い手・藍」として、世間は藍を新たに評価しはじめた。
再生回数は日を追うごとに増え、出演依頼も殺到した。
その一方で、目黒蓮も秋クールの主演ドラマの撮影が始まり、現場と家を往復する日々が続いていた。
――だが、ふたりの間には、変化があった。
“見えない境界線”が、少しずつ薄れていったのだ。
お互いが、お互いを「知られたくない過去」としてではなく、「今ここにいる人間」として見つめ合えるようになったから。
ある朝、目黒がリビングに降りてくると、藍が珍しくぼんやりと外を見ていた。
「おはよう、……どうしたの?」
「ん。なんとなく、考えごとしてた」
「めずらしいね。朝ごはん、どうする? 俺がつくろっか」
「ううん、今日は私がつくるよ。目黒くん、昨日も遅かったでしょ?」
「それ言ったら、藍さんだって音楽番組だったじゃん」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
なんてことのない朝。だけど、確かに“共有している時間”だった。
秋の夜。
少し肌寒くなってきたころ、ふたりはリビングのこたつに足を入れて、温かいお茶を飲んでいた。
静かなテレビの音。
時折笑い声が交じる。
けれど、ふたりとも、どこか何かを言いたそうな空気を纏っていた。
目黒が先に口を開いた。
「ねえ、藍さん。
最近、なんとなくだけど……“この生活、いつか終わるのかな”って思うようになった」
藍は、少し驚いた顔をして、手元の湯飲みを見つめた。
「……うん。私も、ちょっとだけ思ってた。
でも、終わるかどうかっていうより、変わっていくんだろうなって」
ふたりは、同時に息を吐いた。
別れ話でもなく、未来の話でもない。
ただ、“今”にある温度を、確認し合っただけだった。
夜も更けた頃。
目黒はふと思い立って、ひとつの質問を投げた。
「……もし、俺がここを出ていったら、藍さんは寂しい?」
その問いは、何気ないようでいて、少し怖いものだった。
藍は、一拍おいて答えた。
「うん。寂しいと思う。……でも、“帰ってくる場所”を残しておいてくれたら、それでいい」
「帰ってくる?」
「私ね、恋愛とかじゃなくて、ただ“誰かが自分の隣にいてくれること”が、昔からずっと欲しかったの。
でもそれって、すごく難しくて、すぐ壊れちゃう」
藍は、こたつの端にあった小さな写真立てを手に取った。
そこには、料理中にふたりで撮った、笑顔の自撮りが入っていた。
「この写真、目黒くんがこっそり撮ったやつでしょ。
でも……気づいてたよ。私」
「バレてたか」
「うん。でも、なんか、ちゃんと“残されたかった”のかもね、私。
誰かの記憶の中に、いたいって思ったの、初めてだったから」
“関係”に名前はなくても
翌朝。
ふたりは静かに食卓を囲んでいた。
ごく普通の朝食。ご飯、味噌汁、卵焼き、焼き海苔。
けれど、空気にはふんわりとした安堵が漂っていた。
「目黒くん」
「うん?」
「私は、この先もっと歌うと思う。
誰かに見られることも、聴かれることも、逃げずに受け止めていこうと思う」
「うん。そうなると思ってた」
「でも――家では、まだ“隠してる私”でいさせてほしいな。
外で誰かの前に立つぶんだけ、家ではただの“藍”でいたい」
目黒は笑った。
「いいと思う。それ、すごくいいと思う」
ふたりの関係は、恋でもなければ、家族でもない。
けれど、誰よりも信じ合い、支え合っていた。
それが“名前のない絆”であることに、もう誰も疑問を抱かなかった。
ある日の深夜。
目黒はふと、藍にこう言った。
「俺さ、たぶんこの先も、ずっと芸能の世界にいると思う。
いろんな人と出会って、いろんな場所に行く。
でも、どこかで“帰りたい場所”があるから、頑張れるんだと思うんだよね」
藍は、ソファの隣で静かに頷いた。
「その“帰りたい場所”って、どこ?」
目黒は、ためらいなく答えた。
「ここ。……藍さんのいる、ここ」
その言葉は、告白じゃなかった。
でも、愛のこもった“居場所の宣言”だった。
藍は、そっと笑って言った。
「うん、ずっといていいよ。
私は、“目黒くんが帰ってくる家”を守ってるつもりで、これからもご飯作るから」
秋が深まり、落ち葉が舞う朝。
ふたりはいつも通りに起き、朝食を囲み、冗談を言い合いながら、一日を始めていた。
目黒は撮影へ。藍はスタジオへ。
けれど、夜には必ず同じ玄関をくぐって、同じ食卓に座っていた。
関係に名前はない。
でも、それは誰よりも“確かな関係”だった。
それを、“幸せ”と呼んでいいなら――
ふたりは、もう何も怖くなかった。
あの放送から一週間。
「顔出しした歌い手・藍」として、世間は藍を新たに評価しはじめた。
再生回数は日を追うごとに増え、出演依頼も殺到した。
その一方で、目黒蓮も秋クールの主演ドラマの撮影が始まり、現場と家を往復する日々が続いていた。
――だが、ふたりの間には、変化があった。
“見えない境界線”が、少しずつ薄れていったのだ。
お互いが、お互いを「知られたくない過去」としてではなく、「今ここにいる人間」として見つめ合えるようになったから。
ある朝、目黒がリビングに降りてくると、藍が珍しくぼんやりと外を見ていた。
「おはよう、……どうしたの?」
「ん。なんとなく、考えごとしてた」
「めずらしいね。朝ごはん、どうする? 俺がつくろっか」
「ううん、今日は私がつくるよ。目黒くん、昨日も遅かったでしょ?」
「それ言ったら、藍さんだって音楽番組だったじゃん」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
なんてことのない朝。だけど、確かに“共有している時間”だった。
秋の夜。
少し肌寒くなってきたころ、ふたりはリビングのこたつに足を入れて、温かいお茶を飲んでいた。
静かなテレビの音。
時折笑い声が交じる。
けれど、ふたりとも、どこか何かを言いたそうな空気を纏っていた。
目黒が先に口を開いた。
「ねえ、藍さん。
最近、なんとなくだけど……“この生活、いつか終わるのかな”って思うようになった」
藍は、少し驚いた顔をして、手元の湯飲みを見つめた。
「……うん。私も、ちょっとだけ思ってた。
でも、終わるかどうかっていうより、変わっていくんだろうなって」
ふたりは、同時に息を吐いた。
別れ話でもなく、未来の話でもない。
ただ、“今”にある温度を、確認し合っただけだった。
夜も更けた頃。
目黒はふと思い立って、ひとつの質問を投げた。
「……もし、俺がここを出ていったら、藍さんは寂しい?」
その問いは、何気ないようでいて、少し怖いものだった。
藍は、一拍おいて答えた。
「うん。寂しいと思う。……でも、“帰ってくる場所”を残しておいてくれたら、それでいい」
「帰ってくる?」
「私ね、恋愛とかじゃなくて、ただ“誰かが自分の隣にいてくれること”が、昔からずっと欲しかったの。
でもそれって、すごく難しくて、すぐ壊れちゃう」
藍は、こたつの端にあった小さな写真立てを手に取った。
そこには、料理中にふたりで撮った、笑顔の自撮りが入っていた。
「この写真、目黒くんがこっそり撮ったやつでしょ。
でも……気づいてたよ。私」
「バレてたか」
「うん。でも、なんか、ちゃんと“残されたかった”のかもね、私。
誰かの記憶の中に、いたいって思ったの、初めてだったから」
“関係”に名前はなくても
翌朝。
ふたりは静かに食卓を囲んでいた。
ごく普通の朝食。ご飯、味噌汁、卵焼き、焼き海苔。
けれど、空気にはふんわりとした安堵が漂っていた。
「目黒くん」
「うん?」
「私は、この先もっと歌うと思う。
誰かに見られることも、聴かれることも、逃げずに受け止めていこうと思う」
「うん。そうなると思ってた」
「でも――家では、まだ“隠してる私”でいさせてほしいな。
外で誰かの前に立つぶんだけ、家ではただの“藍”でいたい」
目黒は笑った。
「いいと思う。それ、すごくいいと思う」
ふたりの関係は、恋でもなければ、家族でもない。
けれど、誰よりも信じ合い、支え合っていた。
それが“名前のない絆”であることに、もう誰も疑問を抱かなかった。
ある日の深夜。
目黒はふと、藍にこう言った。
「俺さ、たぶんこの先も、ずっと芸能の世界にいると思う。
いろんな人と出会って、いろんな場所に行く。
でも、どこかで“帰りたい場所”があるから、頑張れるんだと思うんだよね」
藍は、ソファの隣で静かに頷いた。
「その“帰りたい場所”って、どこ?」
目黒は、ためらいなく答えた。
「ここ。……藍さんのいる、ここ」
その言葉は、告白じゃなかった。
でも、愛のこもった“居場所の宣言”だった。
藍は、そっと笑って言った。
「うん、ずっといていいよ。
私は、“目黒くんが帰ってくる家”を守ってるつもりで、これからもご飯作るから」
秋が深まり、落ち葉が舞う朝。
ふたりはいつも通りに起き、朝食を囲み、冗談を言い合いながら、一日を始めていた。
目黒は撮影へ。藍はスタジオへ。
けれど、夜には必ず同じ玄関をくぐって、同じ食卓に座っていた。
関係に名前はない。
でも、それは誰よりも“確かな関係”だった。
それを、“幸せ”と呼んでいいなら――
ふたりは、もう何も怖くなかった。