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夏が深まり、蝉の声が窓の向こうに響いていた。
目黒蓮はこのところ忙しかった。主演ドラマの撮影に、雑誌の取材、CMキャンペーン……。
シェアハウスに帰ってくるのは日付が変わってからがほとんどで、藍と顔を合わせる時間も減っていた。
けれど、会えない時間ができたからこそ、互いの存在はより深く胸に刻まれるようになっていた。
「ただいまー……」
深夜1時、静まり返ったリビングに声を落とす。返事はない。
キッチンに立ち寄ると、ラップがかけられた食事と、メモが置いてあった。
「目黒くん、おかえりなさい。今日はかぼちゃの冷製ポタージュと、玄米サラダ。
疲れてるときこそ、身体が冷たいものを欲しがるよ。ゆっくり食べてね」
――藍
思わず、ため息混じりに笑う。
「……癒されるなあ、こういうの」
だが、ふと――彼は気づいた。
最近、藍からのメッセージに「また話そうね」とか、「時間できたら教えて」など、“距離を取るような言葉”が増えていたことに。
翌日、仕事の合間に藍から一通のLINEが届いた。
【藍】
ちょっと話したいことがあるんだけど、帰ってきたら時間ある?
目黒はすぐに「あるよ」と返し、撮影後すぐに帰宅した。
「ただいま。……どうしたの?」
ソファに座っていた藍は、手に一枚の封筒を持っていた。
それを目黒に差し出すと、静かに言った。
「テレビ局から、音楽特番のオファーがきたの。
“顔出し出演”で歌ってほしいって。ゴールデンタイムで、生放送」
目黒の手が、止まった。
「……藍さん、出るつもり?」
「迷ってる。すごく、すごく迷ってる。
でも、こういうオファーって、もう来ないかもしれない。
“歌い手・藍”じゃなくて、“表現者としての藍”を、本気で信じてくれてる人がいるって、初めて思えたの」
目黒は、少し黙ってから答えた。
「……応援したい。でも、それって、すごく大きな一歩だよね」
「うん。怖い。今まで隠してきたもの、全部さらけ出すようなものだから。
でも……“誰かの記憶に残る歌”を歌いたいって思った」
数日後――
目黒は早朝の生放送に向け、夜明け前に家を出た。
寝ていた藍に「いってきます」の声をかけるか迷い、結局ドアの前で立ち止まるだけで出ていった。
一方、藍は別の部屋で音楽プロデューサーとオンライン打ち合わせをしていた。
どの照明を使うか、メイクはどうするか、衣装は? カメラワークは?
音だけの世界にいた自分が、いまや“誰かに見られる”ことを前提に動いている。
「……本当にこれでいいのかな」
画面越しに話すプロデューサーの言葉が、遠く感じた。
ある夜、ようやくふたりの時間が合った。
藍がリビングでピアノを弾いていた。目黒はその後ろ姿を静かに見ていた。
「……ねえ」
藍がぽつりと呟いた。
「私、出ようと思う。本番、顔を出して歌う。
逃げてた自分に、終わりを告げたいから」
目黒は、そっと頷いた。
「うん。わかった。……でも俺、ちょっと寂しいな」
「……え?」
「一緒に“秘密”を守ってた時間が、少しだけ終わっちゃう気がして。
でも、それは俺のエゴだね。藍さんが前に進もうとしてるのに」
藍は振り返り、静かに言った。
「……前に進んでも、帰ってくる場所はここだって思ってるよ」
「それ、ずるい」
「ごめん。でも、本当」
ふたりは見つめ合った。
言葉は多くなかったが、確かに“何か”が伝わっていた。
放送当日。
目黒は仕事の合間に控室でスマホを開き、藍の出演する番組をリアルタイムで見ていた。
ステージに立つ藍は、キャップもマスクもしていなかった。
淡い青のワンピース。シンプルな照明。
ただ一人、マイクの前で、まっすぐに歌っていた。
その歌声は、変わらなかった。
むしろ、包み込むようなやさしさと、少しだけ力強さが加わっていた。
SNSではトレンド入り。
「ついに“藍”の素顔!」
「泣いた。顔出しでさらに伝わる優しさ」
「この人の歌には、歴史があるって思った」
テレビ越しにそれを見ていた目黒は、自然と手を合わせた。
「……藍さん、よくやったな」
翌朝、キッチンに立つ藍は、久々に目黒のために朝ごはんを作っていた。
味噌汁の湯気。焦げ目のきれいな焼き鮭。
そして、テーブルの上には一枚の手紙。
「私は、顔を出して歌ったけれど、
それでも心の一番深いところには、目黒くんといた時間がある。
だから、これからも料理を作りたい。
誰かと一緒に、ちゃんと“生きる”ことを忘れないために」
目黒は手紙を読んで、食卓に着いた。
湯気越しに微笑む藍の横顔が、眩しく見えた。
目黒蓮はこのところ忙しかった。主演ドラマの撮影に、雑誌の取材、CMキャンペーン……。
シェアハウスに帰ってくるのは日付が変わってからがほとんどで、藍と顔を合わせる時間も減っていた。
けれど、会えない時間ができたからこそ、互いの存在はより深く胸に刻まれるようになっていた。
「ただいまー……」
深夜1時、静まり返ったリビングに声を落とす。返事はない。
キッチンに立ち寄ると、ラップがかけられた食事と、メモが置いてあった。
「目黒くん、おかえりなさい。今日はかぼちゃの冷製ポタージュと、玄米サラダ。
疲れてるときこそ、身体が冷たいものを欲しがるよ。ゆっくり食べてね」
――藍
思わず、ため息混じりに笑う。
「……癒されるなあ、こういうの」
だが、ふと――彼は気づいた。
最近、藍からのメッセージに「また話そうね」とか、「時間できたら教えて」など、“距離を取るような言葉”が増えていたことに。
翌日、仕事の合間に藍から一通のLINEが届いた。
【藍】
ちょっと話したいことがあるんだけど、帰ってきたら時間ある?
目黒はすぐに「あるよ」と返し、撮影後すぐに帰宅した。
「ただいま。……どうしたの?」
ソファに座っていた藍は、手に一枚の封筒を持っていた。
それを目黒に差し出すと、静かに言った。
「テレビ局から、音楽特番のオファーがきたの。
“顔出し出演”で歌ってほしいって。ゴールデンタイムで、生放送」
目黒の手が、止まった。
「……藍さん、出るつもり?」
「迷ってる。すごく、すごく迷ってる。
でも、こういうオファーって、もう来ないかもしれない。
“歌い手・藍”じゃなくて、“表現者としての藍”を、本気で信じてくれてる人がいるって、初めて思えたの」
目黒は、少し黙ってから答えた。
「……応援したい。でも、それって、すごく大きな一歩だよね」
「うん。怖い。今まで隠してきたもの、全部さらけ出すようなものだから。
でも……“誰かの記憶に残る歌”を歌いたいって思った」
数日後――
目黒は早朝の生放送に向け、夜明け前に家を出た。
寝ていた藍に「いってきます」の声をかけるか迷い、結局ドアの前で立ち止まるだけで出ていった。
一方、藍は別の部屋で音楽プロデューサーとオンライン打ち合わせをしていた。
どの照明を使うか、メイクはどうするか、衣装は? カメラワークは?
音だけの世界にいた自分が、いまや“誰かに見られる”ことを前提に動いている。
「……本当にこれでいいのかな」
画面越しに話すプロデューサーの言葉が、遠く感じた。
ある夜、ようやくふたりの時間が合った。
藍がリビングでピアノを弾いていた。目黒はその後ろ姿を静かに見ていた。
「……ねえ」
藍がぽつりと呟いた。
「私、出ようと思う。本番、顔を出して歌う。
逃げてた自分に、終わりを告げたいから」
目黒は、そっと頷いた。
「うん。わかった。……でも俺、ちょっと寂しいな」
「……え?」
「一緒に“秘密”を守ってた時間が、少しだけ終わっちゃう気がして。
でも、それは俺のエゴだね。藍さんが前に進もうとしてるのに」
藍は振り返り、静かに言った。
「……前に進んでも、帰ってくる場所はここだって思ってるよ」
「それ、ずるい」
「ごめん。でも、本当」
ふたりは見つめ合った。
言葉は多くなかったが、確かに“何か”が伝わっていた。
放送当日。
目黒は仕事の合間に控室でスマホを開き、藍の出演する番組をリアルタイムで見ていた。
ステージに立つ藍は、キャップもマスクもしていなかった。
淡い青のワンピース。シンプルな照明。
ただ一人、マイクの前で、まっすぐに歌っていた。
その歌声は、変わらなかった。
むしろ、包み込むようなやさしさと、少しだけ力強さが加わっていた。
SNSではトレンド入り。
「ついに“藍”の素顔!」
「泣いた。顔出しでさらに伝わる優しさ」
「この人の歌には、歴史があるって思った」
テレビ越しにそれを見ていた目黒は、自然と手を合わせた。
「……藍さん、よくやったな」
翌朝、キッチンに立つ藍は、久々に目黒のために朝ごはんを作っていた。
味噌汁の湯気。焦げ目のきれいな焼き鮭。
そして、テーブルの上には一枚の手紙。
「私は、顔を出して歌ったけれど、
それでも心の一番深いところには、目黒くんといた時間がある。
だから、これからも料理を作りたい。
誰かと一緒に、ちゃんと“生きる”ことを忘れないために」
目黒は手紙を読んで、食卓に着いた。
湯気越しに微笑む藍の横顔が、眩しく見えた。