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「じゃ、いってきます」
朝8時、目黒蓮は大きなロケ用バッグを肩にかけ、玄関で軽く手を振った。
1泊2日の地方CM撮影のため、関西方面へ。久しぶりの泊まりがけの仕事だった。
「気をつけて。移動多いから、ちゃんと水分とってね」
「うん。帰ったら、また藍さんのご飯、楽しみにしてる」
それは、ごく自然な会話。
けれど藍は、玄関のドアが閉まったあと、リビングのソファに腰を下ろし、深く息を吐いた。
「……いないんだね、本当に」
目黒のいない家。
静けさは、いつもと同じはずだった。
けれど、耳が痛いほどに“静か”だった。
夕方、キッチンに立った藍は、炊飯器を開けてから手を止めた。
いつもなら、2人分を用意していた。
無意識に玄米を計量していた自分に、思わず苦笑する。
「……あ、そっか。ひとり分でいいんだ」
冷蔵庫を開けても、つい「これ、目黒くん好きだったな」と呟いてしまう。
たった数時間なのに、まるで何日も一緒にいた後のような喪失感だった。
でも、ふと思い出す。
ひとりで食卓に座ることが、こんなに寂しいと思えるようになったのは、いつからだったろう?
それは――目黒と暮らし始めてからだ。
その夜、藍は自室のクローゼットの奥にしまっていた段ボールを開けた。
そこには、事故の前に使っていた手帳や、音楽ノート、そして――
一枚の写真
女子高生の制服を着た、自分の姿。
友人たちと笑い合って写っている写真。頬に火傷を負う前の、“何も怖くなかった頃”の自分。
しばらく見つめてから、藍はその写真の裏に目黒の名前を書いた。
「……もう、“今の自分”を見せてもいいかもね」
心のどこかで、ずっと思っていた。
彼が、過去の自分を知っても、今の自分を否定しないと確信できたからこそ、手放せずにいた記憶と向き合う気になれた。
夜23時過ぎ、スマホに通知が届いた。
【目黒】
今日の撮影、無事終わったー!
明日は午前に戻る予定。藍さん、何してた?
藍は一呼吸おいて、返信した。
【藍】
家の片付けしてたよ。
写真とか、昔のノートとか、いろいろ。
【目黒】
……なんか、それ、すごく大事な時間じゃない?
俺のいない間に、何か見つけた?
藍はスマホを見つめて、少し笑った。
【藍】
うん。
目黒くんに、見せてもいいかもしれないって思ったもの。
【目黒】
……それ、すっごいドキドキするやつだ。
翌朝。
目黒が家に戻ると、キッチンからコーヒーの香りが漂っていた。
「おかえり」
振り向いた藍は、エプロン姿。
そしてその顔には――キャップも、マスクもなかった。
「……お、おう……!」
目黒は思わず立ち止まった。
藍は、火傷の跡を隠すことなく、まっすぐ彼を見ていた。
「昨日、ね。思ったの。
もし、過去の私を見せたときに、何か壊れたとしても――
“いまの目黒くん”には、ちゃんと知ってほしいって」
藍は、手にしていた1冊のノートを差し出した。
「これ、事故の直前まで使ってた音楽ノート。
メロディも、歌詞も、全部……“傷つく前の私”がいた場所」
目黒は、そっとそれを受け取った。
中には、ページを埋め尽くすように書かれた歌詞の断片、コード進行、そして“好きな言葉”がぎっしり詰まっていた。
目黒は言った。
「……すごいな。これ全部、藍さんの言葉? 過去の?」
「うん。でも、これも私。今も、ちゃんと続いてる」
その声に、迷いはなかった。
テーブルには、トーストとスクランブルエッグ、サラダ、果物、ヨーグルト。
いつもの和食とは違う、“休日の朝”らしいメニューだった。
「久々にパンにしてみたの。小学生のとき、朝がパンの日ってだけで嬉しくなってたから」
「……俺も。なんかワクワクする」
ふたりは、笑いながら朝食を囲んだ。
静けさの中にも、互いの“日常”が溶け込んでいた。
ふと、藍が尋ねた。
「ねえ、目黒くんは、今の私と、前の私……どっちの方が本物だと思う?」
目黒は、ナイフを置いてから、しっかりと答えた。
「どっちも、本物。
でも……俺は、“目の前の藍さん”が、一番好きだと思う。
だって、ここで笑ってくれるの、今の藍さんだから」
藍は、それ以上何も言わなかった。
ただ、口元を小さく緩めて、コーヒーを一口飲んだ。
朝8時、目黒蓮は大きなロケ用バッグを肩にかけ、玄関で軽く手を振った。
1泊2日の地方CM撮影のため、関西方面へ。久しぶりの泊まりがけの仕事だった。
「気をつけて。移動多いから、ちゃんと水分とってね」
「うん。帰ったら、また藍さんのご飯、楽しみにしてる」
それは、ごく自然な会話。
けれど藍は、玄関のドアが閉まったあと、リビングのソファに腰を下ろし、深く息を吐いた。
「……いないんだね、本当に」
目黒のいない家。
静けさは、いつもと同じはずだった。
けれど、耳が痛いほどに“静か”だった。
夕方、キッチンに立った藍は、炊飯器を開けてから手を止めた。
いつもなら、2人分を用意していた。
無意識に玄米を計量していた自分に、思わず苦笑する。
「……あ、そっか。ひとり分でいいんだ」
冷蔵庫を開けても、つい「これ、目黒くん好きだったな」と呟いてしまう。
たった数時間なのに、まるで何日も一緒にいた後のような喪失感だった。
でも、ふと思い出す。
ひとりで食卓に座ることが、こんなに寂しいと思えるようになったのは、いつからだったろう?
それは――目黒と暮らし始めてからだ。
その夜、藍は自室のクローゼットの奥にしまっていた段ボールを開けた。
そこには、事故の前に使っていた手帳や、音楽ノート、そして――
一枚の写真
女子高生の制服を着た、自分の姿。
友人たちと笑い合って写っている写真。頬に火傷を負う前の、“何も怖くなかった頃”の自分。
しばらく見つめてから、藍はその写真の裏に目黒の名前を書いた。
「……もう、“今の自分”を見せてもいいかもね」
心のどこかで、ずっと思っていた。
彼が、過去の自分を知っても、今の自分を否定しないと確信できたからこそ、手放せずにいた記憶と向き合う気になれた。
夜23時過ぎ、スマホに通知が届いた。
【目黒】
今日の撮影、無事終わったー!
明日は午前に戻る予定。藍さん、何してた?
藍は一呼吸おいて、返信した。
【藍】
家の片付けしてたよ。
写真とか、昔のノートとか、いろいろ。
【目黒】
……なんか、それ、すごく大事な時間じゃない?
俺のいない間に、何か見つけた?
藍はスマホを見つめて、少し笑った。
【藍】
うん。
目黒くんに、見せてもいいかもしれないって思ったもの。
【目黒】
……それ、すっごいドキドキするやつだ。
翌朝。
目黒が家に戻ると、キッチンからコーヒーの香りが漂っていた。
「おかえり」
振り向いた藍は、エプロン姿。
そしてその顔には――キャップも、マスクもなかった。
「……お、おう……!」
目黒は思わず立ち止まった。
藍は、火傷の跡を隠すことなく、まっすぐ彼を見ていた。
「昨日、ね。思ったの。
もし、過去の私を見せたときに、何か壊れたとしても――
“いまの目黒くん”には、ちゃんと知ってほしいって」
藍は、手にしていた1冊のノートを差し出した。
「これ、事故の直前まで使ってた音楽ノート。
メロディも、歌詞も、全部……“傷つく前の私”がいた場所」
目黒は、そっとそれを受け取った。
中には、ページを埋め尽くすように書かれた歌詞の断片、コード進行、そして“好きな言葉”がぎっしり詰まっていた。
目黒は言った。
「……すごいな。これ全部、藍さんの言葉? 過去の?」
「うん。でも、これも私。今も、ちゃんと続いてる」
その声に、迷いはなかった。
テーブルには、トーストとスクランブルエッグ、サラダ、果物、ヨーグルト。
いつもの和食とは違う、“休日の朝”らしいメニューだった。
「久々にパンにしてみたの。小学生のとき、朝がパンの日ってだけで嬉しくなってたから」
「……俺も。なんかワクワクする」
ふたりは、笑いながら朝食を囲んだ。
静けさの中にも、互いの“日常”が溶け込んでいた。
ふと、藍が尋ねた。
「ねえ、目黒くんは、今の私と、前の私……どっちの方が本物だと思う?」
目黒は、ナイフを置いてから、しっかりと答えた。
「どっちも、本物。
でも……俺は、“目の前の藍さん”が、一番好きだと思う。
だって、ここで笑ってくれるの、今の藍さんだから」
藍は、それ以上何も言わなかった。
ただ、口元を小さく緩めて、コーヒーを一口飲んだ。