story
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
梅雨が明けた翌朝、蝉の声がどこかで鳴き始めていた。
いつもより少し早く目が覚めた目黒蓮は、久しぶりにキッチンから漂う香ばしい香りに誘われて階段を降りていった。
リビングのドアを開けると、そこには――
見慣れない光景があった。
朝日が差し込むキッチン。
淡い光に照らされながら、藍がエプロン姿で卵を焼いていた。
そしてその横顔は――いつもキャップの下に隠れていたその顔が、今、はっきりと露わになっていた。
驚いた。けれど、それ以上に――目が離せなかった。
藍は、穏やかな目元をしていた。
左の頬には、小さな火傷の跡。けれど、それは目黒にとって“傷”ではなかった。
その表情は、彼がこれまで音や食事の奥に見てきた“藍”そのものだった。
藍は、ふと気づいて振り返った。
そして――一瞬、息を呑んだ。
「……っ、ごめん。起こしちゃった?」
咄嗟に顔を隠すように、藍は髪を下ろし、キャップを手に取った。
けれど目黒は、ゆっくりと首を横に振った。
「隠さなくていいよ。……びっくりはしたけど、でも、それだけ」
「……本当に、何も言わないんだね」
「うん。だって、藍さんは藍さんでしょ」
その言葉に、藍はしばらく黙っていた。
そして、小さくため息を吐いたあと、キャップをかぶらずに、もう一度フライパンに向き直った。
「……朝ごはん、食べる?」
「食べる」
ふたりは、そのまま無言で朝食を囲んだ。
焼きたてのだし巻き卵、ひじきの煮物、白米、味噌汁。
食べながら、目黒はずっと考えていた。
“見えてしまった”という罪悪感よりも、“やっと出会えた”という実感のほうが、大きかったことを。
食後、藍は洗い物をしながら言った。
「さっきのは……見せるつもりじゃなかったんだ。
でも、逃げるのも違うって、思った」
「俺、見られて嫌がるような顔じゃなかったと思うけど」
「……でも、見られたくなかったの。
好きで隠してたわけじゃない。だけど、人の目が怖くなったの、昔から」
目黒は、グラスを手に取りながら言った。
「それでも今日、見せてくれたこと……俺は、すごく嬉しかったよ」
藍はふっと笑って、ぽつりとこぼした。
「目黒くんって、ずるいよね。優しすぎる」
「よく言われる」
「だよね」
ふたりは、少しだけ笑った。
けれど、そこには確かな“揺れ”があった。
それから数日後。
ふたりはいつも通り、黙々と夕食を囲んでいた。
けれど、その静寂の中には、前とは違う気配が流れていた。
藍は、相変わらずキャップをかぶっていた。
でも目黒は知っている。その下にある素顔も、言葉にできない感情も。
「この前、顔を見た日……藍さん、怖かった?」
目黒の問いに、藍は箸を止めた。
「……うん。少しだけ。でも、それ以上に、自分でも驚いたことがあった」
「何?」
「見られても、壊れなかった。
それどころか……どこかで、“ようやく見てもらえた”って、ホッとした自分がいたの」
目黒は、真っ直ぐ藍を見た。
「それって、俺に対して……信頼してくれてたってこと?」
「たぶん、そう。無意識にだけど」
その瞬間、テーブルの上に広がっていた“静寂”が、少し温度を持った。
週末、目黒は珍しく自分から提案した。
「今度、藍さんのレシピで料理教えてくれない?」
「……いいけど、私、教えるの厳しいよ?」
「それでもいい。自分で作ってみたいんだ。
藍さんの味って、食べるだけじゃもったいないから」
藍は少し驚いたように目を見開き、それから頷いた。
「じゃあ、日曜の朝、和食の基本からね」
「うわ、本格的だ……でも、楽しみにしてる」
そしてその日曜。
ふたりはエプロンをつけて、並んでキッチンに立った。
藍が見せる調味料の使い方、包丁の動かし方、火加減の調整。
すべてが静かで、美しかった。
目黒は、何よりその“手”に見とれていた。
傷跡があっても、それでも誰かを癒す料理を作れる――その事実に、胸が熱くなった。
料理が完成し、テーブルに並べられた。
鯖の味噌煮、小松菜のおひたし、豆腐の味噌汁、炊きたての白米。
「うまっ……! え、俺、ほんとに作った? 藍さんの指導すごすぎる」
「目黒くんが覚えるの早いだけ。
でも……嬉しいね。一緒に作って食べるって、こういうことだったんだ」
ふたりは笑いながら、箸を進めていた。
いつの間にか、“見られたくない顔”も、“食卓の沈黙”も、すべてがふたりにとって自然なものになっていた。
いつもより少し早く目が覚めた目黒蓮は、久しぶりにキッチンから漂う香ばしい香りに誘われて階段を降りていった。
リビングのドアを開けると、そこには――
見慣れない光景があった。
朝日が差し込むキッチン。
淡い光に照らされながら、藍がエプロン姿で卵を焼いていた。
そしてその横顔は――いつもキャップの下に隠れていたその顔が、今、はっきりと露わになっていた。
驚いた。けれど、それ以上に――目が離せなかった。
藍は、穏やかな目元をしていた。
左の頬には、小さな火傷の跡。けれど、それは目黒にとって“傷”ではなかった。
その表情は、彼がこれまで音や食事の奥に見てきた“藍”そのものだった。
藍は、ふと気づいて振り返った。
そして――一瞬、息を呑んだ。
「……っ、ごめん。起こしちゃった?」
咄嗟に顔を隠すように、藍は髪を下ろし、キャップを手に取った。
けれど目黒は、ゆっくりと首を横に振った。
「隠さなくていいよ。……びっくりはしたけど、でも、それだけ」
「……本当に、何も言わないんだね」
「うん。だって、藍さんは藍さんでしょ」
その言葉に、藍はしばらく黙っていた。
そして、小さくため息を吐いたあと、キャップをかぶらずに、もう一度フライパンに向き直った。
「……朝ごはん、食べる?」
「食べる」
ふたりは、そのまま無言で朝食を囲んだ。
焼きたてのだし巻き卵、ひじきの煮物、白米、味噌汁。
食べながら、目黒はずっと考えていた。
“見えてしまった”という罪悪感よりも、“やっと出会えた”という実感のほうが、大きかったことを。
食後、藍は洗い物をしながら言った。
「さっきのは……見せるつもりじゃなかったんだ。
でも、逃げるのも違うって、思った」
「俺、見られて嫌がるような顔じゃなかったと思うけど」
「……でも、見られたくなかったの。
好きで隠してたわけじゃない。だけど、人の目が怖くなったの、昔から」
目黒は、グラスを手に取りながら言った。
「それでも今日、見せてくれたこと……俺は、すごく嬉しかったよ」
藍はふっと笑って、ぽつりとこぼした。
「目黒くんって、ずるいよね。優しすぎる」
「よく言われる」
「だよね」
ふたりは、少しだけ笑った。
けれど、そこには確かな“揺れ”があった。
それから数日後。
ふたりはいつも通り、黙々と夕食を囲んでいた。
けれど、その静寂の中には、前とは違う気配が流れていた。
藍は、相変わらずキャップをかぶっていた。
でも目黒は知っている。その下にある素顔も、言葉にできない感情も。
「この前、顔を見た日……藍さん、怖かった?」
目黒の問いに、藍は箸を止めた。
「……うん。少しだけ。でも、それ以上に、自分でも驚いたことがあった」
「何?」
「見られても、壊れなかった。
それどころか……どこかで、“ようやく見てもらえた”って、ホッとした自分がいたの」
目黒は、真っ直ぐ藍を見た。
「それって、俺に対して……信頼してくれてたってこと?」
「たぶん、そう。無意識にだけど」
その瞬間、テーブルの上に広がっていた“静寂”が、少し温度を持った。
週末、目黒は珍しく自分から提案した。
「今度、藍さんのレシピで料理教えてくれない?」
「……いいけど、私、教えるの厳しいよ?」
「それでもいい。自分で作ってみたいんだ。
藍さんの味って、食べるだけじゃもったいないから」
藍は少し驚いたように目を見開き、それから頷いた。
「じゃあ、日曜の朝、和食の基本からね」
「うわ、本格的だ……でも、楽しみにしてる」
そしてその日曜。
ふたりはエプロンをつけて、並んでキッチンに立った。
藍が見せる調味料の使い方、包丁の動かし方、火加減の調整。
すべてが静かで、美しかった。
目黒は、何よりその“手”に見とれていた。
傷跡があっても、それでも誰かを癒す料理を作れる――その事実に、胸が熱くなった。
料理が完成し、テーブルに並べられた。
鯖の味噌煮、小松菜のおひたし、豆腐の味噌汁、炊きたての白米。
「うまっ……! え、俺、ほんとに作った? 藍さんの指導すごすぎる」
「目黒くんが覚えるの早いだけ。
でも……嬉しいね。一緒に作って食べるって、こういうことだったんだ」
ふたりは笑いながら、箸を進めていた。
いつの間にか、“見られたくない顔”も、“食卓の沈黙”も、すべてがふたりにとって自然なものになっていた。