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土曜日の夜。
雨の気配を含んだ風が、そっと窓を揺らしていた。
目黒蓮は珍しくオフだった。藍もまた、今夜はレコーディングを入れていない。
ふたりが家に揃って、ゆっくりと時間を共有できる夜は、これが初めてだった。
リビングのテーブルには、手書きのメニューが置かれていた。
*今夜のごはん*
・鮭の塩麹焼き
・かぼちゃの煮物
・切り干し大根と人参の炒め煮
・雑穀米ごはん
・しじみと三つ葉の味噌汁
その横に、付箋で一言。
「今日は“声なし”で食べてみよう。音がない時間に、何が残るか、試してみたくて」
目黒は驚いた。けれど、すぐに笑みがこぼれた。
「なるほど……音じゃなくて、気配で感じるってやつか」
いつものように、藍はキッチンに立ち、料理を丁寧に皿へと盛りつけていた。
キャップの下の横顔は落ち着いていて、けれど少しだけ、緊張を帯びているようにも見えた。
無言の食卓
「いただきます」も交わさず、ただ軽くアイコンタクトをして、箸を取る。
言葉を交わさないと、味に意識が集中することに、目黒はすぐに気づいた。
塩麹の鮭は、ふっくらと焼き上がり、ほのかに甘い。
かぼちゃは、芯までしっとり煮込まれていて、出汁の香りが口に広がる。
そして何より――静けさが、心地よかった。
音楽も、テレビも、スマホもない。
ただ、箸の音。味噌汁を啜る音。
ふたりの息遣いだけが空間を満たしている。
目黒は、ふと藍を見た。
彼女もまた、静かにごはんを口に運びながら、わずかに目を細めていた。
まるで、自分が作った料理の“余韻”に耳を澄ましているかのように。
この沈黙が、妙に心に染みた。
いつもは言葉や笑いが満ちている食卓。
でも今夜は、“静寂”という名の会話がふたりを包んでいた。
食後の余韻
食器を片付け終わったあとも、ふたりはまだ言葉を交わさなかった。
リビングのソファに座り、藍がアイスティーを淹れる。
目黒はその手元を見ていた。流れるような所作。指の動き。静かに傾けられるポット。
そのひとつひとつに、歌声のような“リズム”があった。
ティーカップを差し出された目黒は、小さく頭を下げる。
藍も同じように、目を細めて応えた。
やがて、ふたりは並んでソファに座り、何も言わず、時間が流れていくのを感じていた。
時計の針が動く音。風が窓をなでる音。
日常の中に溶け込んでいくふたりの沈黙。
目黒は思った。
こんなに“無言”で人と一緒にいられるのは、藍が初めてだ、と。
深夜、藍の告白
22時を過ぎたころ、藍がそっと立ち上がった。
そして、キッチンカウンターに置いてあったノートパソコンを開いた。
「録音、する?」
声を出さず、口の動きだけで目黒がそう言うと、藍は首を横に振った。
そして、代わりにメモ用紙を一枚差し出した。
「今日、歌いたい気分じゃないんだ。でも、話はしたい」
目黒は驚いた。
それはつまり、言葉を交わすことを“許してくれた”ということだ。
この数時間、ふたりは沈黙を守ってきた。
けれど今、藍は静けさの中から、ゆっくりと出てこようとしていた。
「話って……?」
藍は、少し間を置いて、声を出した。
とても小さく、けれどしっかりとした声で。
「私ね……本当は、人と食卓を囲むのが怖かったの」
目黒は息を飲んだ。
「事故の後、顔のことで避けられたこともあるし、同情されるのも嫌だった。
だから、料理の仕事もずっと“裏方”だけ。
人の前でごはんを作って、一緒に食べるなんて、考えたことなかった」
目黒は、ゆっくりと彼女の目を見た。
藍は、帽子のツバを少しだけ上げていた。
それでも、その下の表情ははっきりとは見えなかった。
「でも、目黒くんと食べる時間は……変だった。
言葉がなくても、否定される気がしなかった」
その声は、揺れていた。
けれど、芯のある声だった。
「ありがとう、って言いたかった。
私、初めて“また誰かと一緒にごはん食べたい”って思えたの」
目黒は、少し迷ってから、静かに言った。
「俺も……藍さんのごはん食べてから、自分のことを大事にしたいって思えるようになった。
ちゃんと食べて、ちゃんと休んで、ちゃんと歌って――そういう自分でいたいって」
ふたりは、しばらく目を合わせていた。
そして、声も言葉も必要のない“何か”が、間に確かにあった。
その夜、目黒は日記にこう書いた。
「言葉がないって、こんなに豊かな時間になるんだな。
藍さんの料理は、やっぱり音楽と同じだった。
音がなくても、ちゃんと心が満たされた」
そして、藍もまた、自分の制作ノートに書き残していた。
「沈黙の中で、初めて誰かとつながれた。
それが、こんなふうに静かな食卓から始まるなんて、思ってもみなかった」
雨の気配を含んだ風が、そっと窓を揺らしていた。
目黒蓮は珍しくオフだった。藍もまた、今夜はレコーディングを入れていない。
ふたりが家に揃って、ゆっくりと時間を共有できる夜は、これが初めてだった。
リビングのテーブルには、手書きのメニューが置かれていた。
*今夜のごはん*
・鮭の塩麹焼き
・かぼちゃの煮物
・切り干し大根と人参の炒め煮
・雑穀米ごはん
・しじみと三つ葉の味噌汁
その横に、付箋で一言。
「今日は“声なし”で食べてみよう。音がない時間に、何が残るか、試してみたくて」
目黒は驚いた。けれど、すぐに笑みがこぼれた。
「なるほど……音じゃなくて、気配で感じるってやつか」
いつものように、藍はキッチンに立ち、料理を丁寧に皿へと盛りつけていた。
キャップの下の横顔は落ち着いていて、けれど少しだけ、緊張を帯びているようにも見えた。
無言の食卓
「いただきます」も交わさず、ただ軽くアイコンタクトをして、箸を取る。
言葉を交わさないと、味に意識が集中することに、目黒はすぐに気づいた。
塩麹の鮭は、ふっくらと焼き上がり、ほのかに甘い。
かぼちゃは、芯までしっとり煮込まれていて、出汁の香りが口に広がる。
そして何より――静けさが、心地よかった。
音楽も、テレビも、スマホもない。
ただ、箸の音。味噌汁を啜る音。
ふたりの息遣いだけが空間を満たしている。
目黒は、ふと藍を見た。
彼女もまた、静かにごはんを口に運びながら、わずかに目を細めていた。
まるで、自分が作った料理の“余韻”に耳を澄ましているかのように。
この沈黙が、妙に心に染みた。
いつもは言葉や笑いが満ちている食卓。
でも今夜は、“静寂”という名の会話がふたりを包んでいた。
食後の余韻
食器を片付け終わったあとも、ふたりはまだ言葉を交わさなかった。
リビングのソファに座り、藍がアイスティーを淹れる。
目黒はその手元を見ていた。流れるような所作。指の動き。静かに傾けられるポット。
そのひとつひとつに、歌声のような“リズム”があった。
ティーカップを差し出された目黒は、小さく頭を下げる。
藍も同じように、目を細めて応えた。
やがて、ふたりは並んでソファに座り、何も言わず、時間が流れていくのを感じていた。
時計の針が動く音。風が窓をなでる音。
日常の中に溶け込んでいくふたりの沈黙。
目黒は思った。
こんなに“無言”で人と一緒にいられるのは、藍が初めてだ、と。
深夜、藍の告白
22時を過ぎたころ、藍がそっと立ち上がった。
そして、キッチンカウンターに置いてあったノートパソコンを開いた。
「録音、する?」
声を出さず、口の動きだけで目黒がそう言うと、藍は首を横に振った。
そして、代わりにメモ用紙を一枚差し出した。
「今日、歌いたい気分じゃないんだ。でも、話はしたい」
目黒は驚いた。
それはつまり、言葉を交わすことを“許してくれた”ということだ。
この数時間、ふたりは沈黙を守ってきた。
けれど今、藍は静けさの中から、ゆっくりと出てこようとしていた。
「話って……?」
藍は、少し間を置いて、声を出した。
とても小さく、けれどしっかりとした声で。
「私ね……本当は、人と食卓を囲むのが怖かったの」
目黒は息を飲んだ。
「事故の後、顔のことで避けられたこともあるし、同情されるのも嫌だった。
だから、料理の仕事もずっと“裏方”だけ。
人の前でごはんを作って、一緒に食べるなんて、考えたことなかった」
目黒は、ゆっくりと彼女の目を見た。
藍は、帽子のツバを少しだけ上げていた。
それでも、その下の表情ははっきりとは見えなかった。
「でも、目黒くんと食べる時間は……変だった。
言葉がなくても、否定される気がしなかった」
その声は、揺れていた。
けれど、芯のある声だった。
「ありがとう、って言いたかった。
私、初めて“また誰かと一緒にごはん食べたい”って思えたの」
目黒は、少し迷ってから、静かに言った。
「俺も……藍さんのごはん食べてから、自分のことを大事にしたいって思えるようになった。
ちゃんと食べて、ちゃんと休んで、ちゃんと歌って――そういう自分でいたいって」
ふたりは、しばらく目を合わせていた。
そして、声も言葉も必要のない“何か”が、間に確かにあった。
その夜、目黒は日記にこう書いた。
「言葉がないって、こんなに豊かな時間になるんだな。
藍さんの料理は、やっぱり音楽と同じだった。
音がなくても、ちゃんと心が満たされた」
そして、藍もまた、自分の制作ノートに書き残していた。
「沈黙の中で、初めて誰かとつながれた。
それが、こんなふうに静かな食卓から始まるなんて、思ってもみなかった」