番外編
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「……ごめん、こんな時間に」
それは、静かな雨の夜だった。
目黒が夜中の撮影で外に出ていたその日。
玄関のチャイムが、午後9時過ぎに控えめに鳴った。
扉を開けると、傘を畳みながら阿部亮平が立っていた。
白いTシャツにパーカー、湿った前髪。どこか、心ごと雨に濡れているような顔だった。
「急に行っても大丈夫かなって思って。……迷惑だったら、帰るよ」
藍は首を横に振った。
「大丈夫です。……お入りください」
リビングのテーブル。
阿部は、用意されたハーブティーを両手で包み込むように持っていた。
カモミールとレモンバームの香りが、ふわりと空気に広がる。
「……目黒には、言ってない。来たことも、話すつもりない」
「はい。私からも、話しませんよ」
それ以上、藍は何も聞かなかった。
ただ静かに、相手が言葉を取り出すのを待っていた。
しばらくして、阿部がぽつりと口を開いた。
「俺……最近、たぶんちょっと“壊れてる”かもしれない」
藍は、ただ一度、目を向けた。
それでも沈黙を守った。
「撮影もレギュラーも、どれもやりがいあるし、手応えもある。
でも……“嬉しい”って感じる感覚が、ちょっとずつ薄くなってきてて」
彼の声は、すごく静かだった。
「朝起きて、ちゃんと笑って、ちゃんと喋って、ちゃんと働いて。
でもその間ずっと、“透明な膜の中にいるような感覚”があるんだ」
冷静な人ほど、危うい
「……“ちゃんとしてる”ことに、疲れてるんですね」
藍は、そう呟いた。
「阿部さんは、きっと“できる”人なんです。だから、誰も“無理してる”とは思わない。
でも、“冷静”って、一番“壊れてることに気づかれにくい”んです」
阿部は、うつむいたまま小さく笑った。
「……それ、俺が誰かに言ったことある台詞に似てる」
「じゃあ、今日だけはそれを“自分に”言ってください」
藍は、小さなタッパーをテーブルに出した。
中には、手作りのくるみとバナナのオートミールクッキーが詰められていた。
「よく噛んで食べてください。脳が“甘いものと咀嚼”で安心するようにできてるので。
あと、呼吸が浅くなってるときは、甘みが少し強いもののほうが、心に届きやすいです」
阿部はクッキーを一口かじり、ゆっくりと噛んだ。
ほんのり甘く、でもどこか優しい味がした。
「……こういうの、誰かに渡されたのって、いつぶりだろう」
「本当はね、目黒に言ってもよかったのかもしれない。
でも、アイツが変わってくの見てて……“大事なもの、増えたんだな”って思ったら、踏み込みたくなくて」
藍は、ほんの少し笑った。
「それでも来てくれたのは、“一線”を感じてたから、ですか?」
「……そう。
俺は、たぶんあなたを“安全な距離にいる人”として信頼したんだと思う。
“感情”じゃなく、“安心”を感じる相手って、実はすごく少ない」
藍は、そっとうなずいた。
「それでも……いつでも、来ていいですよ。
“安心するために寄る場所”って、あっていいと思うので」
傘を差しながら帰り支度をする阿部に、藍は静かに言った。
「今日、よく来てくれましたね」
その言葉に、阿部は一瞬驚いたように立ち止まった。
そして――
「うん。……俺も、来てよかったと思ってる」
雨はまだ止んでいなかったけれど、阿部の表情は、ほんの少しやわらいでいた。
翌日、収録スタジオの控室で――
目黒「……昨日、何してた?」
阿部「……ちょっと、雨宿りしてた」
目黒「ふーん。いいとこ、あった?」
阿部「……うん。温かくて、静かな場所」
目黒は、にやりと笑った。
「……俺の家、人気だね」
阿部もまた、笑って返した。
それは、静かな雨の夜だった。
目黒が夜中の撮影で外に出ていたその日。
玄関のチャイムが、午後9時過ぎに控えめに鳴った。
扉を開けると、傘を畳みながら阿部亮平が立っていた。
白いTシャツにパーカー、湿った前髪。どこか、心ごと雨に濡れているような顔だった。
「急に行っても大丈夫かなって思って。……迷惑だったら、帰るよ」
藍は首を横に振った。
「大丈夫です。……お入りください」
リビングのテーブル。
阿部は、用意されたハーブティーを両手で包み込むように持っていた。
カモミールとレモンバームの香りが、ふわりと空気に広がる。
「……目黒には、言ってない。来たことも、話すつもりない」
「はい。私からも、話しませんよ」
それ以上、藍は何も聞かなかった。
ただ静かに、相手が言葉を取り出すのを待っていた。
しばらくして、阿部がぽつりと口を開いた。
「俺……最近、たぶんちょっと“壊れてる”かもしれない」
藍は、ただ一度、目を向けた。
それでも沈黙を守った。
「撮影もレギュラーも、どれもやりがいあるし、手応えもある。
でも……“嬉しい”って感じる感覚が、ちょっとずつ薄くなってきてて」
彼の声は、すごく静かだった。
「朝起きて、ちゃんと笑って、ちゃんと喋って、ちゃんと働いて。
でもその間ずっと、“透明な膜の中にいるような感覚”があるんだ」
冷静な人ほど、危うい
「……“ちゃんとしてる”ことに、疲れてるんですね」
藍は、そう呟いた。
「阿部さんは、きっと“できる”人なんです。だから、誰も“無理してる”とは思わない。
でも、“冷静”って、一番“壊れてることに気づかれにくい”んです」
阿部は、うつむいたまま小さく笑った。
「……それ、俺が誰かに言ったことある台詞に似てる」
「じゃあ、今日だけはそれを“自分に”言ってください」
藍は、小さなタッパーをテーブルに出した。
中には、手作りのくるみとバナナのオートミールクッキーが詰められていた。
「よく噛んで食べてください。脳が“甘いものと咀嚼”で安心するようにできてるので。
あと、呼吸が浅くなってるときは、甘みが少し強いもののほうが、心に届きやすいです」
阿部はクッキーを一口かじり、ゆっくりと噛んだ。
ほんのり甘く、でもどこか優しい味がした。
「……こういうの、誰かに渡されたのって、いつぶりだろう」
「本当はね、目黒に言ってもよかったのかもしれない。
でも、アイツが変わってくの見てて……“大事なもの、増えたんだな”って思ったら、踏み込みたくなくて」
藍は、ほんの少し笑った。
「それでも来てくれたのは、“一線”を感じてたから、ですか?」
「……そう。
俺は、たぶんあなたを“安全な距離にいる人”として信頼したんだと思う。
“感情”じゃなく、“安心”を感じる相手って、実はすごく少ない」
藍は、そっとうなずいた。
「それでも……いつでも、来ていいですよ。
“安心するために寄る場所”って、あっていいと思うので」
傘を差しながら帰り支度をする阿部に、藍は静かに言った。
「今日、よく来てくれましたね」
その言葉に、阿部は一瞬驚いたように立ち止まった。
そして――
「うん。……俺も、来てよかったと思ってる」
雨はまだ止んでいなかったけれど、阿部の表情は、ほんの少しやわらいでいた。
翌日、収録スタジオの控室で――
目黒「……昨日、何してた?」
阿部「……ちょっと、雨宿りしてた」
目黒「ふーん。いいとこ、あった?」
阿部「……うん。温かくて、静かな場所」
目黒は、にやりと笑った。
「……俺の家、人気だね」
阿部もまた、笑って返した。