ステージゼロ
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年が明けて、街には少しずつ春の気配が漂い始めていた。 澪の通う高校の校庭にも、梅の花がほころび始めている。 冷たい風の中に、やわらかな陽射しが混ざるようになってきた。
「もうすぐ卒業式だね」
図書室の窓際で、蓮がぽつりと呟いた。 彼は撮影の合間を縫って、また澪に会いに来ていた。 制服姿ではなく、シンプルなパーカーにジーンズ。 けれど、その佇まいは変わらず、静かに澪の隣に寄り添っていた。
「……蓮さんは、卒業式、出られるんですか?」
「うん。なんとかスケジュール調整した。 最後くらい、ちゃんとみんなと過ごしたいしね」
「……よかった」
澪は、ページを閉じて、そっと本を机に置いた。 今日は、何も読めなかった。 文字が目に入ってこないほど、胸がざわついていた。
「……蓮さん、春からは?」
「東京に戻るよ。ドラマの撮影が続くから。 でも、こっちにも時々帰ってくる。家族もいるし、澪ちゃんもいるし」
「……私のこと、まだ……好きですか?」
蓮は、驚いたように目を見開いた。 けれど、すぐに、優しく微笑んだ。
「うん。ずっと、好きだよ。 でも、無理に答えを出さなくていいって思ってた。 澪ちゃんが、ちゃんと自分の気持ちに気づくまで、待とうって」
澪は、深呼吸をした。 胸の奥にあったもやが、少しずつ晴れていくのを感じた。
「……私、蓮さんのこと、好きです。 でも、それが“恋”なのか、“憧れ”なのか、まだわかりません。 ただ、会いたいって思うし、話したいって思う。 それって、きっと――」
「それで、十分だよ」
蓮は、澪の手にそっと触れた。 その手は、少し冷たくて、でも確かに温かかった。
「澪ちゃんが、そうやって言ってくれるだけで、俺は嬉しい。 これから、少しずつでいい。 一緒に、歩いていこうよ」
澪は、頷いた。 その瞬間、図書室の窓の外に、ひらりと花びらが舞った。 まだ冬の名残を残す風の中に、春の訪れを告げるように。
「……春、ですね」
「うん。澪ちゃんの季節だ」
「え?」
「澪って、“水の流れ”って意味でしょ? 春の雪解け水みたいに、静かに、でも確かに進んでいく。 そんなところが、澪ちゃんらしいなって思う」
澪は、少しだけ笑った。 その笑顔は、これまでで一番自然だった。
「……じゃあ、私も、流れてみます。 少しずつでも、前に」
「うん。一緒にね」
二人の手が、そっと重なった。 図書室の静けさの中で、確かな音がした。 それは、春の足音。 そして、二人の未来が始まる音だった。
―完―
「もうすぐ卒業式だね」
図書室の窓際で、蓮がぽつりと呟いた。 彼は撮影の合間を縫って、また澪に会いに来ていた。 制服姿ではなく、シンプルなパーカーにジーンズ。 けれど、その佇まいは変わらず、静かに澪の隣に寄り添っていた。
「……蓮さんは、卒業式、出られるんですか?」
「うん。なんとかスケジュール調整した。 最後くらい、ちゃんとみんなと過ごしたいしね」
「……よかった」
澪は、ページを閉じて、そっと本を机に置いた。 今日は、何も読めなかった。 文字が目に入ってこないほど、胸がざわついていた。
「……蓮さん、春からは?」
「東京に戻るよ。ドラマの撮影が続くから。 でも、こっちにも時々帰ってくる。家族もいるし、澪ちゃんもいるし」
「……私のこと、まだ……好きですか?」
蓮は、驚いたように目を見開いた。 けれど、すぐに、優しく微笑んだ。
「うん。ずっと、好きだよ。 でも、無理に答えを出さなくていいって思ってた。 澪ちゃんが、ちゃんと自分の気持ちに気づくまで、待とうって」
澪は、深呼吸をした。 胸の奥にあったもやが、少しずつ晴れていくのを感じた。
「……私、蓮さんのこと、好きです。 でも、それが“恋”なのか、“憧れ”なのか、まだわかりません。 ただ、会いたいって思うし、話したいって思う。 それって、きっと――」
「それで、十分だよ」
蓮は、澪の手にそっと触れた。 その手は、少し冷たくて、でも確かに温かかった。
「澪ちゃんが、そうやって言ってくれるだけで、俺は嬉しい。 これから、少しずつでいい。 一緒に、歩いていこうよ」
澪は、頷いた。 その瞬間、図書室の窓の外に、ひらりと花びらが舞った。 まだ冬の名残を残す風の中に、春の訪れを告げるように。
「……春、ですね」
「うん。澪ちゃんの季節だ」
「え?」
「澪って、“水の流れ”って意味でしょ? 春の雪解け水みたいに、静かに、でも確かに進んでいく。 そんなところが、澪ちゃんらしいなって思う」
澪は、少しだけ笑った。 その笑顔は、これまでで一番自然だった。
「……じゃあ、私も、流れてみます。 少しずつでも、前に」
「うん。一緒にね」
二人の手が、そっと重なった。 図書室の静けさの中で、確かな音がした。 それは、春の足音。 そして、二人の未来が始まる音だった。
―完―
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