死刑執行までの1週間
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朝食のパンを喉に押し込むようにして飲み込んだあと、九条蒼は静かに手を組んだ。時計はない。だが、廊下の音、日の差し込み方、刑務官の足取りでなんとなく時間がわかるようになっていた。
扉の外から、声がした。
「弁護士が来ています。」
それだけで心拍が跳ね上がる。昨日、要望を出したばかりだ。来てくれた。それだけで、少し体の力が抜けた。
独房の扉が開き、手錠をかけられた。いつもの手順。だが、今日はそれが異様に冷たく感じる。面会室までは、約二十歩。何度も歩いたはずの距離が、今日はやけに遠かった。
ガラス越しに現れたのは、記憶よりも少し痩せた彼女だった。
「…九条さん。」
「藤崎先生。」
新人弁護士・藤崎遥。若く、頼りなくもあったが、どこか熱を持った眼差しをしていた。事件当初から担当についてくれたが、控訴審以降は、次第に連絡も減っていた。──諦められたと思っていた。
「すみません。連絡、もっと早く入れるべきでした。…昨日、執行が通告されたんですね。」
「うん。あと七日だって。」
蒼は、静かに答えた。その目には、怒りも、悲しみも、もう浮かんでいなかった。
「…それでも、私は諦めていません。」
遥は鞄からファイルを取り出すと、ガラス越しに一枚のコピーを見せた。供述調書の一部、そして――そこにあった証言。
「この証言、覚えていますか? 被害者の母親の供述です。」
「ええ。何度も読みましたよ。」
「この中に、時間の矛盾があります。事件当日の“夕方5時に見た”という証言、でもその時点で彼女は警察署にいた記録があるんです。」
蒼の眉が、かすかに動いた。
「証拠が?」
「まだ“可能性”の段階です。でも、追いかけます。」
蒼は口を結んだ。希望を持つことが怖かった。希望は、裏切られるから。だが、目の前の遥の顔は、本気だった。
「……ありがとう。」
それだけを絞り出すと、沈黙が訪れた。
遥が、机の上の小型マイクをそっと見た。
「九条さん、まだ諦めていないなら、私も動きます。必ず、あなたをここから出す。」
「……死刑囚の言葉として、覚えていてください。」
「いいえ。」
遥は、首を横に振った。
「私は、“教師”の言葉として、受け取ります。」
面会は15分で終了した。ガラスの向こうの彼女の姿が遠ざかっていく中、蒼はようやく目を閉じた。
心の奥に、わずかに灯った光。それが、また裏切りでないことを、願うしかなかった。
明日は、死刑囚としての3日目。
死まで、あと五日。
扉の外から、声がした。
「弁護士が来ています。」
それだけで心拍が跳ね上がる。昨日、要望を出したばかりだ。来てくれた。それだけで、少し体の力が抜けた。
独房の扉が開き、手錠をかけられた。いつもの手順。だが、今日はそれが異様に冷たく感じる。面会室までは、約二十歩。何度も歩いたはずの距離が、今日はやけに遠かった。
ガラス越しに現れたのは、記憶よりも少し痩せた彼女だった。
「…九条さん。」
「藤崎先生。」
新人弁護士・藤崎遥。若く、頼りなくもあったが、どこか熱を持った眼差しをしていた。事件当初から担当についてくれたが、控訴審以降は、次第に連絡も減っていた。──諦められたと思っていた。
「すみません。連絡、もっと早く入れるべきでした。…昨日、執行が通告されたんですね。」
「うん。あと七日だって。」
蒼は、静かに答えた。その目には、怒りも、悲しみも、もう浮かんでいなかった。
「…それでも、私は諦めていません。」
遥は鞄からファイルを取り出すと、ガラス越しに一枚のコピーを見せた。供述調書の一部、そして――そこにあった証言。
「この証言、覚えていますか? 被害者の母親の供述です。」
「ええ。何度も読みましたよ。」
「この中に、時間の矛盾があります。事件当日の“夕方5時に見た”という証言、でもその時点で彼女は警察署にいた記録があるんです。」
蒼の眉が、かすかに動いた。
「証拠が?」
「まだ“可能性”の段階です。でも、追いかけます。」
蒼は口を結んだ。希望を持つことが怖かった。希望は、裏切られるから。だが、目の前の遥の顔は、本気だった。
「……ありがとう。」
それだけを絞り出すと、沈黙が訪れた。
遥が、机の上の小型マイクをそっと見た。
「九条さん、まだ諦めていないなら、私も動きます。必ず、あなたをここから出す。」
「……死刑囚の言葉として、覚えていてください。」
「いいえ。」
遥は、首を横に振った。
「私は、“教師”の言葉として、受け取ります。」
面会は15分で終了した。ガラスの向こうの彼女の姿が遠ざかっていく中、蒼はようやく目を閉じた。
心の奥に、わずかに灯った光。それが、また裏切りでないことを、願うしかなかった。
明日は、死刑囚としての3日目。
死まで、あと五日。