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──それは偶然というには、あまりに出来すぎていた。
文化財修復のプロジェクトを終えた翌週。Snow Manのもとに、新たな取材企画のオファーが舞い込んだ。
テーマは「次世代文化の担い手たち」。その中には、企業の若手経営陣や起業家たちのインタビューが含まれていた。
資料を見た阿部は、ページの一枚をめくって手が止まった。
「……あれ」
「どうした?」
隣にいた岩本がのぞきこむ。
阿部が指をさした先には、ある一人の男の名前と顔写真があった。
「響堂 仁」──日本の新興IT企業を率いる、若き実業家。28歳」
「この人……星奈さんの話に出てきた、“裏切った誰か”と同じ名前だ」
「顔、見たことあるかも。何かの表彰式で話してた……“青龍グループに若くして関わった天才”って紹介されてた」
「でも今は、完全に決別したらしいよ。企業買収の件で揉めて、青龍側からは“永久に関係を絶った”とまで言われてる」
一瞬、楽屋に静かな空気が流れた。
「──ってことは、もしかして……その響堂って人が、星奈さんを裏切った“相手”なんじゃ……」
ラウールがつぶやく。
「……でも、星奈さんから聞いたわけじゃない」
深澤が静かに制した。
「俺たちが勝手に結論出すのは違うよな。信じてもらいたいなら、尚更、急いじゃダメだ」
目黒が真剣な顔で言った。
「うん。真実は向こうから語ってくれるその時まで、俺らは“そばにいる”だけでいい」
渡辺も頷いた。
──
翌日、9人は撮影現場で再び星奈と顔を合わせた。
その日は、老舗の美術館での特別番組。
星奈はまたしても監修役として控室にいたが、前よりもほんの少し、彼女の佇まいには柔らかさがにじんでいた。
「おはようございます」
最初に声をかけたのは、佐久間だった。
「今日は“古代の神話”がテーマなんですよね? 楽しみです!」
佐久間のいつもの明るさに、星奈の目元がわずかに緩む。
「ええ。特にこの館にあるギリシア神話の壁画は、来月修復が始まる予定なので……今の姿を見られるのは貴重です」
「えっ! それってすごい!」
向井も食いつく。
「ねぇ、星奈さんって、そういう“消えてしまうかもしれないもの”が、怖かったりします?」
ふいに、ラウールが真剣な顔で問いかけた。
「……怖い、ですか」
「うん。思い出とか、関係とか、人の感情とか……“壊れる”ってわかってても、それでも守ろうとしたことって、ありますか?」
その質問に、星奈はしばらく黙っていた。
スタッフの声が遠くに聞こえる。廊下を誰かが歩く音。そんな雑音の中、星奈の小さな声がようやく落ちた。
「……あります。たった一人だけ。でも──その人は、私の信じたものをすべて……壊して去っていきました」
数秒の沈黙。9人は何も言わなかった。
ただ、彼女の言葉を受け止め、表情も変えずに、立ち尽くしていた。
やがて、星奈は続けた。
「“信じる”という行為は、ある意味で……相手に自分のすべてを差し出すことです。
けれど、それを利用された瞬間──もう二度と、誰にも心を明け渡すことはできなくなる」
「……それでも、また誰かを信じられるようになったら、すごく素敵だと思います」
それは、阿部の小さな声だった。
星奈は、その顔をゆっくりと見つめた。
「どうして……そんなふうに言えるんですか?」
阿部は優しく微笑んで答えた。
「自分も、誰かを信じてもらえるような人になりたいからです。
信じる側になるだけじゃなく、“信じてもらえる自分”でありたい──そう思って生きてます」
それは、誰かを癒すための言葉ではなかった。
自分自身の“誓い”だった。
そのとき、星奈の目がわずかに揺れた。
ほんのわずか。
だが、それは確かに、“閉ざされた扉が音を立てて動いた”ような感覚だった。
──
その夜、青龍星奈は自宅の書斎で、古びた手紙の束を見つめていた。
その中に一通だけ、破られずに残された便箋がある。
差出人の名は──響堂 仁。
彼女はその封を開かずに、机の引き出しへそっと戻した。
まだ、開ける勇気はなかった。
でも、いつか開くかもしれない。
今日、あの人たちの中にあった“信じたいという眼差し”が、星奈の中にその余地を芽生えさせていた。
文化財修復のプロジェクトを終えた翌週。Snow Manのもとに、新たな取材企画のオファーが舞い込んだ。
テーマは「次世代文化の担い手たち」。その中には、企業の若手経営陣や起業家たちのインタビューが含まれていた。
資料を見た阿部は、ページの一枚をめくって手が止まった。
「……あれ」
「どうした?」
隣にいた岩本がのぞきこむ。
阿部が指をさした先には、ある一人の男の名前と顔写真があった。
「響堂 仁」──日本の新興IT企業を率いる、若き実業家。28歳」
「この人……星奈さんの話に出てきた、“裏切った誰か”と同じ名前だ」
「顔、見たことあるかも。何かの表彰式で話してた……“青龍グループに若くして関わった天才”って紹介されてた」
「でも今は、完全に決別したらしいよ。企業買収の件で揉めて、青龍側からは“永久に関係を絶った”とまで言われてる」
一瞬、楽屋に静かな空気が流れた。
「──ってことは、もしかして……その響堂って人が、星奈さんを裏切った“相手”なんじゃ……」
ラウールがつぶやく。
「……でも、星奈さんから聞いたわけじゃない」
深澤が静かに制した。
「俺たちが勝手に結論出すのは違うよな。信じてもらいたいなら、尚更、急いじゃダメだ」
目黒が真剣な顔で言った。
「うん。真実は向こうから語ってくれるその時まで、俺らは“そばにいる”だけでいい」
渡辺も頷いた。
──
翌日、9人は撮影現場で再び星奈と顔を合わせた。
その日は、老舗の美術館での特別番組。
星奈はまたしても監修役として控室にいたが、前よりもほんの少し、彼女の佇まいには柔らかさがにじんでいた。
「おはようございます」
最初に声をかけたのは、佐久間だった。
「今日は“古代の神話”がテーマなんですよね? 楽しみです!」
佐久間のいつもの明るさに、星奈の目元がわずかに緩む。
「ええ。特にこの館にあるギリシア神話の壁画は、来月修復が始まる予定なので……今の姿を見られるのは貴重です」
「えっ! それってすごい!」
向井も食いつく。
「ねぇ、星奈さんって、そういう“消えてしまうかもしれないもの”が、怖かったりします?」
ふいに、ラウールが真剣な顔で問いかけた。
「……怖い、ですか」
「うん。思い出とか、関係とか、人の感情とか……“壊れる”ってわかってても、それでも守ろうとしたことって、ありますか?」
その質問に、星奈はしばらく黙っていた。
スタッフの声が遠くに聞こえる。廊下を誰かが歩く音。そんな雑音の中、星奈の小さな声がようやく落ちた。
「……あります。たった一人だけ。でも──その人は、私の信じたものをすべて……壊して去っていきました」
数秒の沈黙。9人は何も言わなかった。
ただ、彼女の言葉を受け止め、表情も変えずに、立ち尽くしていた。
やがて、星奈は続けた。
「“信じる”という行為は、ある意味で……相手に自分のすべてを差し出すことです。
けれど、それを利用された瞬間──もう二度と、誰にも心を明け渡すことはできなくなる」
「……それでも、また誰かを信じられるようになったら、すごく素敵だと思います」
それは、阿部の小さな声だった。
星奈は、その顔をゆっくりと見つめた。
「どうして……そんなふうに言えるんですか?」
阿部は優しく微笑んで答えた。
「自分も、誰かを信じてもらえるような人になりたいからです。
信じる側になるだけじゃなく、“信じてもらえる自分”でありたい──そう思って生きてます」
それは、誰かを癒すための言葉ではなかった。
自分自身の“誓い”だった。
そのとき、星奈の目がわずかに揺れた。
ほんのわずか。
だが、それは確かに、“閉ざされた扉が音を立てて動いた”ような感覚だった。
──
その夜、青龍星奈は自宅の書斎で、古びた手紙の束を見つめていた。
その中に一通だけ、破られずに残された便箋がある。
差出人の名は──響堂 仁。
彼女はその封を開かずに、机の引き出しへそっと戻した。
まだ、開ける勇気はなかった。
でも、いつか開くかもしれない。
今日、あの人たちの中にあった“信じたいという眼差し”が、星奈の中にその余地を芽生えさせていた。