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春の終わりが近づくころ、東京の空は少しだけやわらかくなり、街のざわめきにもどこか落ち着きが漂い始めていた。
そんなある日、阿部のもとに一本の連絡が入った。
「来週の撮影、青龍グループの文化財修復プロジェクトが舞台になるらしいよ」
マネージャーからの連絡だった。
青龍グループ――
それは、青龍星奈の父が総帥を務める、日本でも屈指の財閥系名門。歴史、美術、建築など、文化財の保存・修復にも力を入れている。
「え……じゃあ、もしかして、星奈さんも来るのかな?」
ラウールが目を輝かせる。
「いや、可能性はあるだろ。彼女、たしか財団側の監修役だったよな」
向井が言うと、全員の目が輝いた。
「これはチャンスだな……“自然な形で会える”」
「うん。押しつけがましくなく、ちゃんと一緒に“同じ目線”で過ごせる機会になるかもしれない」
目黒が小さく頷いた。
──
撮影当日。場所は東京郊外にある、明治期の洋館を復元した記念建築だった。
石造りのファサードにステンドグラスの窓、手入れの行き届いた庭園。そこに、まるで風景の一部のように立っていたのは、淡い藤色のスーツを纏った──星奈だった。
彼女は修復に関する資料を抱え、スタッフと短く会話を交わしていた。
背筋は伸び、表情は変わらず無機質。でも、その中に、以前にはなかった“柔らかさ”がほんのわずかにあった。
Snow Manの姿を見ると、彼女は一瞬驚いたように目を見開いた。そしてすぐに、いつもの調子で、軽く会釈を返す。
「……本日もご一緒するとは、存じませんでした」
「僕らも同じく驚きました。お会いできてうれしいです」
阿部が丁寧に頭を下げる。
「前回の詩の話、すごく印象に残ってて……つい、あれから何冊か読み返したんですよ」
深澤が少し照れたように言うと、星奈は短く笑ったような、でもはっきりとしない微笑を返した。
それでも、その表情は今まで見た中でいちばん“近い”ものだった。
──
撮影の合間、星奈は一人、建物裏の静かな庭に出ていた。古い石畳の小径を歩きながら、胸に残る、ある記憶を思い出していた。
――「信じてるよ、星奈。どこにいても、僕は味方だから」
かつての、彼の声。
優しくて、頼りがいがあって、何よりも“嘘をつかない人”だと信じていた。
それなのに、その人は──自分を踏み台にして、父の信頼を裏切った。
「“信じてる”って、あんなに軽く言えるものだったんだな」
星奈は、微笑むどころか、眉一つ動かさずに心の中でつぶやいた。
人を信じることは、傷つくこと。
裏切られる可能性を、自分から引き寄せること。
それが、彼女にとっての“信頼”の定義だった。
──
そのとき、背後から足音がした。
「……すみません。ここ、独り占めしちゃってたかな」
振り返ると、阿部亮平が立っていた。手には分厚い資料が何冊も抱えられていて、どうやら修復に関して調べ物をしていたようだった。
「いえ。どうぞ。……私の方こそ、場違いだったかもしれません」
星奈は視線を逸らさないまま静かに言った。
「そんなことないですよ。ここ、空気がきれいで落ち着きますし」
阿部はゆっくりベンチに腰を下ろす。
「……あの、もしかして以前、何か……人に裏切られたことって、ありますか?」
突然の問いに、星奈の指がピクリと動いた。
しばらくの沈黙の後、彼女は小さく頷いた。
「……ええ。あります」
「すみません、突然。僕……今日、文化財の修復の資料を読んでいて思ったんです。
どんなに傷んでても、“壊れたまま”にしなきゃいけないわけじゃないんですよね。
ちゃんと、時間をかけて、少しずつ直していける」
星奈の目が、少しだけ揺れた。
「……でも、壊れる前の状態には、戻れない」
「ええ。戻れない。でも、だからって、ずっと壊れたままでいたら、その価値も、存在そのものも、誰にも届かなくなってしまう」
阿部はそう言って、静かに星奈の方を見た。
「“元通り”じゃなくていい。“新しい形”でも、“もう一度信じてみたい”と思ってくれたら……嬉しいなって思ってます」
星奈は何も言わなかった。ただ、俯いて、しばらく目を閉じていた。
まるで、心の中で何かを問い直しているように。
そして、ぽつりと言った。
「……そうやって、丁寧に、時間をかけて話す方って……珍しいですね」
阿部は少し笑って答えた。
「急がなくていいと思ってるんです。僕たちは、あなたに“選んで”もらえるように、ゆっくり歩きますから」
──
その日、星奈は初めて、自分からSnow Manのメンバーに向かって「お疲れさまでした」と声をかけた。
ほんの一言。でもそれは、閉ざされた心にできた、ごく小さなひびだった。
そのひびが、いつか光を通すことになる──
その予感が、9人の胸に、確かに芽生えていた。
そんなある日、阿部のもとに一本の連絡が入った。
「来週の撮影、青龍グループの文化財修復プロジェクトが舞台になるらしいよ」
マネージャーからの連絡だった。
青龍グループ――
それは、青龍星奈の父が総帥を務める、日本でも屈指の財閥系名門。歴史、美術、建築など、文化財の保存・修復にも力を入れている。
「え……じゃあ、もしかして、星奈さんも来るのかな?」
ラウールが目を輝かせる。
「いや、可能性はあるだろ。彼女、たしか財団側の監修役だったよな」
向井が言うと、全員の目が輝いた。
「これはチャンスだな……“自然な形で会える”」
「うん。押しつけがましくなく、ちゃんと一緒に“同じ目線”で過ごせる機会になるかもしれない」
目黒が小さく頷いた。
──
撮影当日。場所は東京郊外にある、明治期の洋館を復元した記念建築だった。
石造りのファサードにステンドグラスの窓、手入れの行き届いた庭園。そこに、まるで風景の一部のように立っていたのは、淡い藤色のスーツを纏った──星奈だった。
彼女は修復に関する資料を抱え、スタッフと短く会話を交わしていた。
背筋は伸び、表情は変わらず無機質。でも、その中に、以前にはなかった“柔らかさ”がほんのわずかにあった。
Snow Manの姿を見ると、彼女は一瞬驚いたように目を見開いた。そしてすぐに、いつもの調子で、軽く会釈を返す。
「……本日もご一緒するとは、存じませんでした」
「僕らも同じく驚きました。お会いできてうれしいです」
阿部が丁寧に頭を下げる。
「前回の詩の話、すごく印象に残ってて……つい、あれから何冊か読み返したんですよ」
深澤が少し照れたように言うと、星奈は短く笑ったような、でもはっきりとしない微笑を返した。
それでも、その表情は今まで見た中でいちばん“近い”ものだった。
──
撮影の合間、星奈は一人、建物裏の静かな庭に出ていた。古い石畳の小径を歩きながら、胸に残る、ある記憶を思い出していた。
――「信じてるよ、星奈。どこにいても、僕は味方だから」
かつての、彼の声。
優しくて、頼りがいがあって、何よりも“嘘をつかない人”だと信じていた。
それなのに、その人は──自分を踏み台にして、父の信頼を裏切った。
「“信じてる”って、あんなに軽く言えるものだったんだな」
星奈は、微笑むどころか、眉一つ動かさずに心の中でつぶやいた。
人を信じることは、傷つくこと。
裏切られる可能性を、自分から引き寄せること。
それが、彼女にとっての“信頼”の定義だった。
──
そのとき、背後から足音がした。
「……すみません。ここ、独り占めしちゃってたかな」
振り返ると、阿部亮平が立っていた。手には分厚い資料が何冊も抱えられていて、どうやら修復に関して調べ物をしていたようだった。
「いえ。どうぞ。……私の方こそ、場違いだったかもしれません」
星奈は視線を逸らさないまま静かに言った。
「そんなことないですよ。ここ、空気がきれいで落ち着きますし」
阿部はゆっくりベンチに腰を下ろす。
「……あの、もしかして以前、何か……人に裏切られたことって、ありますか?」
突然の問いに、星奈の指がピクリと動いた。
しばらくの沈黙の後、彼女は小さく頷いた。
「……ええ。あります」
「すみません、突然。僕……今日、文化財の修復の資料を読んでいて思ったんです。
どんなに傷んでても、“壊れたまま”にしなきゃいけないわけじゃないんですよね。
ちゃんと、時間をかけて、少しずつ直していける」
星奈の目が、少しだけ揺れた。
「……でも、壊れる前の状態には、戻れない」
「ええ。戻れない。でも、だからって、ずっと壊れたままでいたら、その価値も、存在そのものも、誰にも届かなくなってしまう」
阿部はそう言って、静かに星奈の方を見た。
「“元通り”じゃなくていい。“新しい形”でも、“もう一度信じてみたい”と思ってくれたら……嬉しいなって思ってます」
星奈は何も言わなかった。ただ、俯いて、しばらく目を閉じていた。
まるで、心の中で何かを問い直しているように。
そして、ぽつりと言った。
「……そうやって、丁寧に、時間をかけて話す方って……珍しいですね」
阿部は少し笑って答えた。
「急がなくていいと思ってるんです。僕たちは、あなたに“選んで”もらえるように、ゆっくり歩きますから」
──
その日、星奈は初めて、自分からSnow Manのメンバーに向かって「お疲れさまでした」と声をかけた。
ほんの一言。でもそれは、閉ざされた心にできた、ごく小さなひびだった。
そのひびが、いつか光を通すことになる──
その予感が、9人の胸に、確かに芽生えていた。