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その日は、空がまるで春の終わりを惜しむように淡く滲んでいた。
昼下がりの撮影現場。メンバーが休憩に入る中、星奈は静かに事務テーブルで資料を見つめていた。
ふと、その肩に、やさしい声が届く。
「……一緒に、昼ごはん、どうですか?」
見ると、阿部がにこやかにコンビニ袋を掲げていた。
「買いすぎちゃって。よかったら、分けます」
星奈は迷った。でも、ほんの一瞬だけ、頷いた。
──
控室のベンチ。ふたり並んで黙々とおにぎりを食べる。
阿部は無理に話題を振らない。ただ、咀嚼の合間に微笑みを絶やさず、目線を時々外に向けていた。
そんな“静かな安心感”が、星奈には妙に心地よかった。
「……昔、あんなに静かな時間を過ごせる人が、周りにいなかったんです」
ふと、星奈がつぶやく。
阿部は箸を止め、黙って続きを待つ。
「いつも、誰かが私に何かを期待していて、私がそれに応える。……それが、普通だった。でも……気づいたら、誰もいなくなってて」
「期待するだけの人って、実は、すごく遠いんですよね。近いふりをして、手は届かない」
「……ええ、まさに」
思わず口元が緩む星奈を見て、阿部の目もふわりとやさしく笑った。
「俺たちは、期待してないです」
「……?」
「あなたがどんな人でも、どんな選択をしても、“そうなんだ”って受け止めるだけ。だから……少しずつ、でいいですよ」
──その言葉は、どんな花束よりあたたかかった。
「……信じてみても、いいですか?」
星奈のその問いに、阿部は何のためらいもなく頷いた。
「もちろんです。何回でも、何日かかっても」
──
その夜、星奈の家のポストに、一通の封筒が届いていた。
表には、筆跡で書かれた文字。
「青龍星奈様」
差出人の名前はなかったが、開封してすぐにわかった。
──響堂仁からだった。
星奈
君がまだ僕を憎んでいるなら、それで構わない。
ただひとつ、あのとき何も説明せずに君を突き放したことは、今でも後悔している。
君の才能に嫉妬していた。怖かったんだよ、自分が君に追い抜かれるのが。
“あれは便利な助手だ”──あれは、最低の自己防衛だった。
本当はずっと、君の純粋さと、感性の鋭さに救われていた。
君が今、どこかで誰かと新しい時間を過ごしているなら、それが僕の償いになる。
響堂仁
──
手紙を読み終えた星奈は、静かに封筒を閉じた。
涙は流れなかった。
ただ、心のどこかにずっとあった重たい扉が、やっと音を立てて“閉まった”気がした。
「もう……戻らなくて、いい」
過去に。
──
次の日。
スタジオ入り口で、深澤が星奈を見つけて大きく手を振った。
「おはようございます! 今日はね、差し入れがすごいのよ!」
「え?」
「宮舘シェフ特製・朝焼きクロワッサンです!」
「朝から焼いたんだぜ……俺らのために!」
佐久間がオーバーに両手を広げ、ラウールが笑いながら首をかしげる。
「え、俺の分あるよね?」
「星奈さんの分が最優先で確保されております」
阿部が即座に返すと、メンバーがわっと笑った。
その中心で、星奈はふと立ち止まり、目を伏せる。
そして──
「……ありがとう、ございます」
そう言って、初めて自分から皆の輪に足を踏み入れた。
一歩、また一歩。
過去からの距離が、確実に“今”を歩き始めていた。
昼下がりの撮影現場。メンバーが休憩に入る中、星奈は静かに事務テーブルで資料を見つめていた。
ふと、その肩に、やさしい声が届く。
「……一緒に、昼ごはん、どうですか?」
見ると、阿部がにこやかにコンビニ袋を掲げていた。
「買いすぎちゃって。よかったら、分けます」
星奈は迷った。でも、ほんの一瞬だけ、頷いた。
──
控室のベンチ。ふたり並んで黙々とおにぎりを食べる。
阿部は無理に話題を振らない。ただ、咀嚼の合間に微笑みを絶やさず、目線を時々外に向けていた。
そんな“静かな安心感”が、星奈には妙に心地よかった。
「……昔、あんなに静かな時間を過ごせる人が、周りにいなかったんです」
ふと、星奈がつぶやく。
阿部は箸を止め、黙って続きを待つ。
「いつも、誰かが私に何かを期待していて、私がそれに応える。……それが、普通だった。でも……気づいたら、誰もいなくなってて」
「期待するだけの人って、実は、すごく遠いんですよね。近いふりをして、手は届かない」
「……ええ、まさに」
思わず口元が緩む星奈を見て、阿部の目もふわりとやさしく笑った。
「俺たちは、期待してないです」
「……?」
「あなたがどんな人でも、どんな選択をしても、“そうなんだ”って受け止めるだけ。だから……少しずつ、でいいですよ」
──その言葉は、どんな花束よりあたたかかった。
「……信じてみても、いいですか?」
星奈のその問いに、阿部は何のためらいもなく頷いた。
「もちろんです。何回でも、何日かかっても」
──
その夜、星奈の家のポストに、一通の封筒が届いていた。
表には、筆跡で書かれた文字。
「青龍星奈様」
差出人の名前はなかったが、開封してすぐにわかった。
──響堂仁からだった。
星奈
君がまだ僕を憎んでいるなら、それで構わない。
ただひとつ、あのとき何も説明せずに君を突き放したことは、今でも後悔している。
君の才能に嫉妬していた。怖かったんだよ、自分が君に追い抜かれるのが。
“あれは便利な助手だ”──あれは、最低の自己防衛だった。
本当はずっと、君の純粋さと、感性の鋭さに救われていた。
君が今、どこかで誰かと新しい時間を過ごしているなら、それが僕の償いになる。
響堂仁
──
手紙を読み終えた星奈は、静かに封筒を閉じた。
涙は流れなかった。
ただ、心のどこかにずっとあった重たい扉が、やっと音を立てて“閉まった”気がした。
「もう……戻らなくて、いい」
過去に。
──
次の日。
スタジオ入り口で、深澤が星奈を見つけて大きく手を振った。
「おはようございます! 今日はね、差し入れがすごいのよ!」
「え?」
「宮舘シェフ特製・朝焼きクロワッサンです!」
「朝から焼いたんだぜ……俺らのために!」
佐久間がオーバーに両手を広げ、ラウールが笑いながら首をかしげる。
「え、俺の分あるよね?」
「星奈さんの分が最優先で確保されております」
阿部が即座に返すと、メンバーがわっと笑った。
その中心で、星奈はふと立ち止まり、目を伏せる。
そして──
「……ありがとう、ございます」
そう言って、初めて自分から皆の輪に足を踏み入れた。
一歩、また一歩。
過去からの距離が、確実に“今”を歩き始めていた。