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夜の空気がひんやりと肌を撫でる。
「──っくし!」
くしゃみをひとつ、控えめにしてから、Coe.は膝を抱えなおす。夜風に晒されるにはまだ少し早い春の夜。ベランダに出るには上着が必要だったと反省しつつ、それでも室内に戻る気にはなれなかった。
「……あの音、また聴こえてる」
自分の部屋の上──Reluの部屋からかすかに聴こえてくる、ギターの音。
ゆっくりと進行するコード、静かに鳴るリズム。それが心地よくて、Coe.はこうして夜な夜な、耳を澄ませてしまう。
(Reluくん、また曲作ってるのかな……)
この音に気づいたのは、2週間ほど前。深夜に目を覚ましたとき、ふと耳にした音があまりに優しくて、それ以来、聴きたいときはベランダに出るようになっていた。
ギターの音は、言葉以上にReluの感情が乗っている気がする。
普段は言わないこと、言えないこと。そのすべてが、あの音に混ざってる気がするのだ。
そんな夜だった。
「──なんや、寒ないんか」
背後から聞き慣れた関西弁が飛び込んできて、Coe.は肩を跳ねさせる。
「れ、Reluくん!? なんでここに……?」
「夜にお前の部屋の灯りだけついとったら、そら気になるやろ。しかもベランダ出とるとか」
Reluはフード付きのパーカーを羽織ったラフな格好で、手にはマグカップを持っていた。どうやら自室からそのまま下りてきたらしい。
「……それ、ココア?」
「おう。温まるやろ。お前にも持ってきたるわ」
「え、あ、うん……ありがとう……」
ぽかんとしたまま頷くと、Reluは無言で階段を引き返していった。
(やば……見られてた……)
冷たい夜風より、Reluに見つかったことの方がずっと心拍を上げていた。
けれど、数分後に戻ってきたReluが差し出してくれたココアは、Coe.の手を芯から温めてくれた。
「飲め。甘めにしといた」
「……ありがと、Reluくん」
ふーっと息を吹きかけてから、一口すする。甘くて、ほっとする味。飲んだ瞬間に、思わず笑みがこぼれる。
「うまい……!」
「そらよかった」
横に腰を下ろしたReluは、自分のココアに口をつけながら夜空を見上げた。星がまばらに浮かぶ空。こうして隣に並んで座っているだけで、何もいらない気がする。
「さっきの……曲、また作ってたの?」
Coe.が問いかけると、Reluはほんの少しだけ目を細めた。
「聴こえとったんか。やっぱ音漏れとるなあ」
「うん……でも、嫌じゃないよ。すごく、好き」
「……そか」
それ以上は何も言わず、Reluは静かに視線を落とした。その横顔が夜の影に溶けて、いつもより柔らかく見える。
「どんな曲? また、誰かに向けてるの?」
「いや……今回は、自分に、かもな」
「Reluくんに?」
「──自分、いろいろ背負いすぎやって、最近LANに言われてな」
Coe.は小さく目を見開いた。Reluが、LANの名前を出すのは珍しい。
「LANくん?」
「そう。『お前は頼られることに慣れすぎて、自分のこと後回しにしてる』ってな。……まぁ、アイツらしい心配の仕方や」
照れくさそうに言いながら、Reluは小さく息を吐いた。
「でも、LANの言うことは、たまには聞いといた方がええなって。そう思ったから、今はちょっと、自分に向けて曲を作っとる」
「……Reluくん、えらいね」
「なんや急に」
「ううん。そうやって、自分のこともちゃんと大事にしてるReluくん、僕はすごく素敵だなって思っただけ」
Reluの横顔が、ほんの一瞬揺れたように見えた。
「お前……ほんま、たまにズルいこと言うな」
「え? ズルい?」
「人が聞いたら、照れるに決まっとるやろ……」
「ふふ、照れてるReluくん、かわいい」
「可愛ない!」
Reluがぷいと顔を背けるのが可愛くて、Coe.はにこにこと笑った。
「──なあ、Coe.」
「ん?」
「今度、お前に歌ってほしい曲、作ってもええ?」
Coe.は息をのんだ。
「僕に……?」
「お前にしか歌えへん曲、ひとつ思いついてて。もしええなら、やけど」
胸の奥が、じんと熱くなった。
「……うん。僕、Reluくんの歌、歌いたい。僕の声で、届けたい」
そう言った瞬間、Reluの口元が、ふっと笑みに変わった。
夜風はまだ冷たいけれど、心の奥底は、火が灯ったように温かい。
音に混ざった秘密は、少しずつ、ふたりの間で色づいていく。
「──っくし!」
くしゃみをひとつ、控えめにしてから、Coe.は膝を抱えなおす。夜風に晒されるにはまだ少し早い春の夜。ベランダに出るには上着が必要だったと反省しつつ、それでも室内に戻る気にはなれなかった。
「……あの音、また聴こえてる」
自分の部屋の上──Reluの部屋からかすかに聴こえてくる、ギターの音。
ゆっくりと進行するコード、静かに鳴るリズム。それが心地よくて、Coe.はこうして夜な夜な、耳を澄ませてしまう。
(Reluくん、また曲作ってるのかな……)
この音に気づいたのは、2週間ほど前。深夜に目を覚ましたとき、ふと耳にした音があまりに優しくて、それ以来、聴きたいときはベランダに出るようになっていた。
ギターの音は、言葉以上にReluの感情が乗っている気がする。
普段は言わないこと、言えないこと。そのすべてが、あの音に混ざってる気がするのだ。
そんな夜だった。
「──なんや、寒ないんか」
背後から聞き慣れた関西弁が飛び込んできて、Coe.は肩を跳ねさせる。
「れ、Reluくん!? なんでここに……?」
「夜にお前の部屋の灯りだけついとったら、そら気になるやろ。しかもベランダ出とるとか」
Reluはフード付きのパーカーを羽織ったラフな格好で、手にはマグカップを持っていた。どうやら自室からそのまま下りてきたらしい。
「……それ、ココア?」
「おう。温まるやろ。お前にも持ってきたるわ」
「え、あ、うん……ありがとう……」
ぽかんとしたまま頷くと、Reluは無言で階段を引き返していった。
(やば……見られてた……)
冷たい夜風より、Reluに見つかったことの方がずっと心拍を上げていた。
けれど、数分後に戻ってきたReluが差し出してくれたココアは、Coe.の手を芯から温めてくれた。
「飲め。甘めにしといた」
「……ありがと、Reluくん」
ふーっと息を吹きかけてから、一口すする。甘くて、ほっとする味。飲んだ瞬間に、思わず笑みがこぼれる。
「うまい……!」
「そらよかった」
横に腰を下ろしたReluは、自分のココアに口をつけながら夜空を見上げた。星がまばらに浮かぶ空。こうして隣に並んで座っているだけで、何もいらない気がする。
「さっきの……曲、また作ってたの?」
Coe.が問いかけると、Reluはほんの少しだけ目を細めた。
「聴こえとったんか。やっぱ音漏れとるなあ」
「うん……でも、嫌じゃないよ。すごく、好き」
「……そか」
それ以上は何も言わず、Reluは静かに視線を落とした。その横顔が夜の影に溶けて、いつもより柔らかく見える。
「どんな曲? また、誰かに向けてるの?」
「いや……今回は、自分に、かもな」
「Reluくんに?」
「──自分、いろいろ背負いすぎやって、最近LANに言われてな」
Coe.は小さく目を見開いた。Reluが、LANの名前を出すのは珍しい。
「LANくん?」
「そう。『お前は頼られることに慣れすぎて、自分のこと後回しにしてる』ってな。……まぁ、アイツらしい心配の仕方や」
照れくさそうに言いながら、Reluは小さく息を吐いた。
「でも、LANの言うことは、たまには聞いといた方がええなって。そう思ったから、今はちょっと、自分に向けて曲を作っとる」
「……Reluくん、えらいね」
「なんや急に」
「ううん。そうやって、自分のこともちゃんと大事にしてるReluくん、僕はすごく素敵だなって思っただけ」
Reluの横顔が、ほんの一瞬揺れたように見えた。
「お前……ほんま、たまにズルいこと言うな」
「え? ズルい?」
「人が聞いたら、照れるに決まっとるやろ……」
「ふふ、照れてるReluくん、かわいい」
「可愛ない!」
Reluがぷいと顔を背けるのが可愛くて、Coe.はにこにこと笑った。
「──なあ、Coe.」
「ん?」
「今度、お前に歌ってほしい曲、作ってもええ?」
Coe.は息をのんだ。
「僕に……?」
「お前にしか歌えへん曲、ひとつ思いついてて。もしええなら、やけど」
胸の奥が、じんと熱くなった。
「……うん。僕、Reluくんの歌、歌いたい。僕の声で、届けたい」
そう言った瞬間、Reluの口元が、ふっと笑みに変わった。
夜風はまだ冷たいけれど、心の奥底は、火が灯ったように温かい。
音に混ざった秘密は、少しずつ、ふたりの間で色づいていく。