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教室に差し込む西陽は、どこか残酷なほど赤く、長く伸びた影が黒板の端まで届いていた。
──今日は、退屈だった。
そう思いながらCoe.は窓辺の席に肘をつき、ぼんやりと運動場を眺めていた。体育の授業も、英語のテストも、全部“いつも通り”。変わらない日常は嫌いじゃないけど、最近は少しだけ、その“いつも通り”が鬱陶しく感じることもある。
「こえ氏ー、購買行かないの?」
くにおが教室の後ろから声をかけてきた。Coe.は首だけ振って答える。「うん、いいや。今日はイチゴサンドないって言ってたし」
「またそれかよ。毎日そればっか食ってるな」
くには笑って言いながらも、特に何かを言い足すことなく、別の男子数人と連れ立って教室を出ていった。
Coe.は軽く息を吐いた。陽射しが瞼に差し込み、目を細める。
──教室にはまだ何人か残っている。ゆうは机に突っ伏してスマホをいじっていた。こったろは隣の席でぼーっと窓の外を見ている。Reluの姿もあった。教室の隅、廊下に近い一番後ろの席で、何かノートに書き込んでいる。
その姿を、Coe.は少しだけ意識していた。昔から、どこか不思議なやつだった。関西弁でズケズケものを言うくせに、人一倍気遣いが細かい。なにかの楽器や作詞作曲が得意で、文化祭のバンド演奏もほとんどReluの作品だった。
──けど、最近。
Reluはちょっと、変だった。
前よりも口数が減っていたし、みんなで話す輪にも入らなくなっていた。Coe.は気にはなっていたけれど、それを言葉にするのが少し面倒で、ずっと黙っていた。
「おーい、Relu」
そう呼びかけたのは、教室の後ろにいた女子の一人だった。名前は……確か、川上とかそんな感じの子だったはず。Reluは返事をせず、ノートから顔を上げることもなかった。
「無視ー?」
クスクスと数人の女子が笑う。その笑い声に、Coe.はほんの少しだけ眉をひそめた。
──なにか、変だ。
その時、ガタン、と椅子を引く音がして、Reluが立ち上がった。無言で教室を出ていこうとしたその背中を、女子の一人が大げさに「ねえ、話くらい聞きなよ」と声を張る。
Reluは一瞬立ち止まったが、やがてゆっくりと歩き出した。
「なにあれ」「マジで感じ悪くない?」「うちらのこと無視?」
小さなささやき声と、それに紛れた笑いが、教室の空気を少しずつ歪ませていく。
Coe.は、思わずその笑い声を見つめていた。くにおと目が合い、くにおは少し困ったような顔をしていたが、すぐに「しょうがないよな、ああいう態度じゃ」と肩をすくめて見せた。
──その瞬間だった。
「キャアアアアッ!!」
甲高い悲鳴が、廊下の奥から響いた。
一瞬、教室が静まりかえる。次の瞬間、椅子を引く音や叫び声が交錯し、何人かが窓際に駆け寄った。
「え?今のって……」「誰か叫んだよね?」「どっちの方から?」
数秒後、女子の一人が青ざめた顔で教室に駆け戻ってきた。
「Reluくんが……カッター持ってた! 川上さんが手、切られたって……!」
空気が、凍る。
Coe.の脳内が真っ白になった。隣で何かを言っているこったろの声も、耳に届かない。
「Reluが……そんな……?」
ありえない、そう思うのに、教室の中の誰もが、その言葉をすんなり受け入れていった。ざわめく声が波紋のように広がり、真実かどうかを確かめようともせずに、「やっぱりあいつ変だったもんね」と、誰かが言った。
くにも、苦笑いを浮かべてつぶやいた。
「まぁ……最近、あいつずっと不機嫌そうだったしな。なんか……怖かったよな、ちょっと」
Coe.は曖昧に頷いてしまった。
その瞬間だった。自分の中で、Reluを信じる気持ちより、周囲と同調する安堵が勝ってしまった。
誰かが「教師呼んでこい!」と叫ぶ声。川上は泣きながら「怖かった、Reluくんが突然……」と訴える。震える声と、わざとらしい震えを混ぜたようなその姿を、誰も疑おうとしない。
──それが、最初の『カッターキャー』だった。
その後、放課後の廊下。
掲示板前で、一人の男子が立ち止まっていた。彼の耳に、クラスの女子たちがひそひそと交わす噂話が届く。
「ねえ、あのReluくんってヤバくない?」「女の子にカッター向けるなんて、ありえない……」
彼──藍は、目を伏せて静かに立ち止まる。
「……Reluが?」
低くつぶやいたその声に、混じるのは驚きではなかった。違和感と、不信。誰よりも早く“それはおかしい”と気づいた人間の声音。
その瞳は、真実を求めていた。
──今日は、退屈だった。
そう思いながらCoe.は窓辺の席に肘をつき、ぼんやりと運動場を眺めていた。体育の授業も、英語のテストも、全部“いつも通り”。変わらない日常は嫌いじゃないけど、最近は少しだけ、その“いつも通り”が鬱陶しく感じることもある。
「こえ氏ー、購買行かないの?」
くにおが教室の後ろから声をかけてきた。Coe.は首だけ振って答える。「うん、いいや。今日はイチゴサンドないって言ってたし」
「またそれかよ。毎日そればっか食ってるな」
くには笑って言いながらも、特に何かを言い足すことなく、別の男子数人と連れ立って教室を出ていった。
Coe.は軽く息を吐いた。陽射しが瞼に差し込み、目を細める。
──教室にはまだ何人か残っている。ゆうは机に突っ伏してスマホをいじっていた。こったろは隣の席でぼーっと窓の外を見ている。Reluの姿もあった。教室の隅、廊下に近い一番後ろの席で、何かノートに書き込んでいる。
その姿を、Coe.は少しだけ意識していた。昔から、どこか不思議なやつだった。関西弁でズケズケものを言うくせに、人一倍気遣いが細かい。なにかの楽器や作詞作曲が得意で、文化祭のバンド演奏もほとんどReluの作品だった。
──けど、最近。
Reluはちょっと、変だった。
前よりも口数が減っていたし、みんなで話す輪にも入らなくなっていた。Coe.は気にはなっていたけれど、それを言葉にするのが少し面倒で、ずっと黙っていた。
「おーい、Relu」
そう呼びかけたのは、教室の後ろにいた女子の一人だった。名前は……確か、川上とかそんな感じの子だったはず。Reluは返事をせず、ノートから顔を上げることもなかった。
「無視ー?」
クスクスと数人の女子が笑う。その笑い声に、Coe.はほんの少しだけ眉をひそめた。
──なにか、変だ。
その時、ガタン、と椅子を引く音がして、Reluが立ち上がった。無言で教室を出ていこうとしたその背中を、女子の一人が大げさに「ねえ、話くらい聞きなよ」と声を張る。
Reluは一瞬立ち止まったが、やがてゆっくりと歩き出した。
「なにあれ」「マジで感じ悪くない?」「うちらのこと無視?」
小さなささやき声と、それに紛れた笑いが、教室の空気を少しずつ歪ませていく。
Coe.は、思わずその笑い声を見つめていた。くにおと目が合い、くにおは少し困ったような顔をしていたが、すぐに「しょうがないよな、ああいう態度じゃ」と肩をすくめて見せた。
──その瞬間だった。
「キャアアアアッ!!」
甲高い悲鳴が、廊下の奥から響いた。
一瞬、教室が静まりかえる。次の瞬間、椅子を引く音や叫び声が交錯し、何人かが窓際に駆け寄った。
「え?今のって……」「誰か叫んだよね?」「どっちの方から?」
数秒後、女子の一人が青ざめた顔で教室に駆け戻ってきた。
「Reluくんが……カッター持ってた! 川上さんが手、切られたって……!」
空気が、凍る。
Coe.の脳内が真っ白になった。隣で何かを言っているこったろの声も、耳に届かない。
「Reluが……そんな……?」
ありえない、そう思うのに、教室の中の誰もが、その言葉をすんなり受け入れていった。ざわめく声が波紋のように広がり、真実かどうかを確かめようともせずに、「やっぱりあいつ変だったもんね」と、誰かが言った。
くにも、苦笑いを浮かべてつぶやいた。
「まぁ……最近、あいつずっと不機嫌そうだったしな。なんか……怖かったよな、ちょっと」
Coe.は曖昧に頷いてしまった。
その瞬間だった。自分の中で、Reluを信じる気持ちより、周囲と同調する安堵が勝ってしまった。
誰かが「教師呼んでこい!」と叫ぶ声。川上は泣きながら「怖かった、Reluくんが突然……」と訴える。震える声と、わざとらしい震えを混ぜたようなその姿を、誰も疑おうとしない。
──それが、最初の『カッターキャー』だった。
その後、放課後の廊下。
掲示板前で、一人の男子が立ち止まっていた。彼の耳に、クラスの女子たちがひそひそと交わす噂話が届く。
「ねえ、あのReluくんってヤバくない?」「女の子にカッター向けるなんて、ありえない……」
彼──藍は、目を伏せて静かに立ち止まる。
「……Reluが?」
低くつぶやいたその声に、混じるのは驚きではなかった。違和感と、不信。誰よりも早く“それはおかしい”と気づいた人間の声音。
その瞳は、真実を求めていた。
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