秋の彼岸、昼と夜の長さが等しくなる日。人々が墓前で線香を焚き、生者と死者の境界が薄れると言われるその日、少女・葵は、地元の小さな神社へと続く古道に立っていた。道は細く、両脇には背の高い彼岸花が、まるで炎のように咲き乱れていた。

「彼岸の道を 大名行列」

不意に、遠くから微かな音が聞こえた。それは、鼓の低い響きと、何かの金属が擦れるような、ぞっとする音だった。

葵には、昔から“見える”ものがあった。だが、今宵の行列は、今まで目にしたどの亡霊や妖とも違っていた。それは、時代錯誤な豪華絢爛さを纏い、闇そのものを引き連れているようだった。

道の曲がり角から姿を現したのは、まさしく大名行列。しかし、駕籠は宙に浮き、付き従う侍たちは影のように薄く、その顔は夜の帳に溶けていた。先頭を歩く、異様に背の高い影が、緩慢な動作で立ち止まった。その者が葵に顔を向けた瞬間、葵の心臓は石のように固まった。

「これこれお嬢さん 私が見えるか？」

その声は、現世の空気ではなく、遠い泉の底から湧き上がってきたかのように響いた。葵は息を殺したまま、ただ頷くことしかできなかった。

「恐れ称えよ 現と黄泉の 狭間の声を 今響け群青」

行列の周囲の空気が、深い群青色に染まり始めた。それは夜の色ではなく、地球の外側の、底知れぬ宇宙の色だった。行列の主、あるいは支配者のようなその者は、葵の恐怖を餌にするかのように、ゆっくりと悦に入った。

「途切れぬ人の群れよ 我らにひれ伏すがいい」

それは要求ではなく、既に確定した運命の宣告だった。行列は、この小さな彼岸の道から、人間たちが暮らす街へと、まるで潮が満ちるように進み始めた。