病みクラ すたぽら
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――Reluの「失踪」から、三週間が経過していた。
すたぽらの公式アカウントは、いまだ彼について明言を避けていた。
「体調不良」「活動一時休止」――曖昧な言葉だけが、ファンの不安をかき立てていく。
Coe.は、その日もデスクに座っていた。
書きかけの楽曲ファイル。空欄のままのリリック。
進まない。筆が、まったく進まない。
(Relu、お前がいないだけで、なんでこんなに何もできなくなるんだよ……)
画面の端に、新着メッセージが表示された。
From:運営スタッフ
【そろそろReluさんの代役を考えるべきではないか、という声も出ています。】
その一文に、Coe.の手が止まった。
(……代役? 何言ってんだ、あいつは“欠けてる”んじゃない。今も、すたぽらの一員だろ……)
そう思う一方で、何も言い返せない自分がいた。
リーダーとして、答えを出さなきゃいけないのは自分なのに。
誰にも相談できず、誰の言葉も信用できず、ただひたすらに――孤独だった。
同じ頃、ゆうは自室で机に突っ伏していた。
SNSに投稿すれば「現実見ろ」、
沈黙を貫けば「無責任」。
「なんで……ゆさんが責められんの」
涙も、もう出なかった。
代わりに、空っぽの胸がきしむ。
ふとスマホを手に取ると、Xに浮かぶ新たなトレンドワードが目に入った。
《#Reluの居場所》《#すたぽら解散しろ》
(なんで誰も……黙っててくれないの)
くにもまた、動画編集ソフトを開いたまま、うずくまっていた。
Reluの声が入った素材を、どこにも使えない。
でも、消すこともできない。
(Relu……どこにいるんだよ)
その問いは、画面の中の誰にも届かなかった。
一方で、こったろは動いていた。
スタッフと、運営と、何度も連絡を取っていた。
配信の収益、今後の予定、復帰プラン、対応文書。
だが、彼の提案は何度も却下された。
「事態が落ち着くまで、動かない方が得策です」
「火に油を注ぐことになりますので」
(得策……? そんなもののために、俺たちの仲間を“いなかったこと”にするのかよ)
怒りが喉元まで込み上げる。
でも、それを口にしたら、
“またすたぽらの誰かが問題を起こした”と扱われるだけなのだと知っていた。
そして、ついにある日。
ネットニュースに、ひとつの記事が上がった。
《Relu、精神疾患で活動不能か?関係者が語る「限界だった」》
もちろん、事実無根だった。
だが――
まるでそれが真実であるかのように、言葉が独り歩きし始める。
《やっぱ病んでたんだ》《じゃあ仕方ない》《むしろ逃げて正解》
偽善と正義と同情の皮をかぶった“正当化”が、彼を飲み込んでいく。
(そんな言葉、誰もReluのために言ってるわけじゃない)
Coe.は、音もなく呟いた。
(全部、自分が納得するためだけに、勝手に“理由”を作ってるだけだ)
もはや、Reluの真実を知る者は限られていた。
そして、その中で唯一彼のそばにいる藍もまた、複雑な沈黙を抱えていた。
古びた家の食卓で、いつものようにふたりは座っていた。
「ニュース、見たよ」
Reluが言う。
「俺が精神的に壊れてた、っていう噂」
藍は、少しだけ苦笑して返した。
「……否定することでもないよね。確かに、今の君は普通じゃない」
「……まあ、そうかも」
Reluはマグを置いた。
「でも、“偽善”が一番ムカつくんだよな。“心配してます”とか、“辛かったよね”とかさ。そんな言葉、俺が消えてから言っても意味ねえだろ」
「偽善は、時に人を救うこともある」
「救われたこと、ないけどな」
Reluは目を細めて、火の揺らぎを見つめた。
「藍。……俺さ、どうやったら全部壊せるかな。俺がいなくなったって、すたぽらは前に進むんだよ。そうじゃなきゃダメだろ?」
「……君の本音は、それじゃないんじゃないか」
Reluは答えなかった。
ただ、少しだけ笑った。その笑みは、まるで燃え残った火種のように、かすかに揺れていた。
そして――その夜、ついに“彼”が動き出す。
次なる崩壊を引き寄せる“行動”を、誰にも言わずに、ただ一人で。
すたぽらの公式アカウントは、いまだ彼について明言を避けていた。
「体調不良」「活動一時休止」――曖昧な言葉だけが、ファンの不安をかき立てていく。
Coe.は、その日もデスクに座っていた。
書きかけの楽曲ファイル。空欄のままのリリック。
進まない。筆が、まったく進まない。
(Relu、お前がいないだけで、なんでこんなに何もできなくなるんだよ……)
画面の端に、新着メッセージが表示された。
From:運営スタッフ
【そろそろReluさんの代役を考えるべきではないか、という声も出ています。】
その一文に、Coe.の手が止まった。
(……代役? 何言ってんだ、あいつは“欠けてる”んじゃない。今も、すたぽらの一員だろ……)
そう思う一方で、何も言い返せない自分がいた。
リーダーとして、答えを出さなきゃいけないのは自分なのに。
誰にも相談できず、誰の言葉も信用できず、ただひたすらに――孤独だった。
同じ頃、ゆうは自室で机に突っ伏していた。
SNSに投稿すれば「現実見ろ」、
沈黙を貫けば「無責任」。
「なんで……ゆさんが責められんの」
涙も、もう出なかった。
代わりに、空っぽの胸がきしむ。
ふとスマホを手に取ると、Xに浮かぶ新たなトレンドワードが目に入った。
《#Reluの居場所》《#すたぽら解散しろ》
(なんで誰も……黙っててくれないの)
くにもまた、動画編集ソフトを開いたまま、うずくまっていた。
Reluの声が入った素材を、どこにも使えない。
でも、消すこともできない。
(Relu……どこにいるんだよ)
その問いは、画面の中の誰にも届かなかった。
一方で、こったろは動いていた。
スタッフと、運営と、何度も連絡を取っていた。
配信の収益、今後の予定、復帰プラン、対応文書。
だが、彼の提案は何度も却下された。
「事態が落ち着くまで、動かない方が得策です」
「火に油を注ぐことになりますので」
(得策……? そんなもののために、俺たちの仲間を“いなかったこと”にするのかよ)
怒りが喉元まで込み上げる。
でも、それを口にしたら、
“またすたぽらの誰かが問題を起こした”と扱われるだけなのだと知っていた。
そして、ついにある日。
ネットニュースに、ひとつの記事が上がった。
《Relu、精神疾患で活動不能か?関係者が語る「限界だった」》
もちろん、事実無根だった。
だが――
まるでそれが真実であるかのように、言葉が独り歩きし始める。
《やっぱ病んでたんだ》《じゃあ仕方ない》《むしろ逃げて正解》
偽善と正義と同情の皮をかぶった“正当化”が、彼を飲み込んでいく。
(そんな言葉、誰もReluのために言ってるわけじゃない)
Coe.は、音もなく呟いた。
(全部、自分が納得するためだけに、勝手に“理由”を作ってるだけだ)
もはや、Reluの真実を知る者は限られていた。
そして、その中で唯一彼のそばにいる藍もまた、複雑な沈黙を抱えていた。
古びた家の食卓で、いつものようにふたりは座っていた。
「ニュース、見たよ」
Reluが言う。
「俺が精神的に壊れてた、っていう噂」
藍は、少しだけ苦笑して返した。
「……否定することでもないよね。確かに、今の君は普通じゃない」
「……まあ、そうかも」
Reluはマグを置いた。
「でも、“偽善”が一番ムカつくんだよな。“心配してます”とか、“辛かったよね”とかさ。そんな言葉、俺が消えてから言っても意味ねえだろ」
「偽善は、時に人を救うこともある」
「救われたこと、ないけどな」
Reluは目を細めて、火の揺らぎを見つめた。
「藍。……俺さ、どうやったら全部壊せるかな。俺がいなくなったって、すたぽらは前に進むんだよ。そうじゃなきゃダメだろ?」
「……君の本音は、それじゃないんじゃないか」
Reluは答えなかった。
ただ、少しだけ笑った。その笑みは、まるで燃え残った火種のように、かすかに揺れていた。
そして――その夜、ついに“彼”が動き出す。
次なる崩壊を引き寄せる“行動”を、誰にも言わずに、ただ一人で。