病みクラ すたぽら
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――Reluが藍の家に身を寄せてから、三日が経った。
朝の空気は澄み切っていて、どこまでも青い。だが、その透明さがむしろ不自然に思えるほど、Reluの心は未だ曇り空のままだった。
「……おはよう。もう少し寝てていいんだよ」
藍の声が、台所から柔らかく届く。
「いや、……起きてる。もうずっと」
Reluは、布団の中で目を閉じたまま返事をした。眠れていないのは明らかだった。夜ごとに頭痛と咳がひどくなり、薬の残量が気になって仕方ない。
だが、それでも藍の前では、それを表に出すことはしなかった。
藍は朝食を用意しながら、あえてReluに多くを聞かない。どこで何をしてきたのか、何を考えているのか――そういったことには触れず、ただ“今ここにいるRelu”だけを見ていた。
「ごはん、少しだけでも食べてくれると、嬉しい」
食卓には、卵焼きと味噌汁、少しの白米が並んでいる。
Reluはためらいながら箸を取った。
「……うまい。ちゃんと味する」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ」
ほんの少し、Reluの口元が緩む。
そんな日常のようで非日常な、仮初めの静寂の中で――藍は彼の言動の“わずかな異変”に、少しずつ気づき始めていた。
朝食後、Reluがソファで項垂れているとき、ふいに強い咳が込み上げた。隠すように手を口に当てる。
「……血、出てない?」
藍が問いかけると、Reluはほんの一瞬、目を見開いたが、すぐにそらした。
「出てねぇよ。大袈裟な」
だが、その手のひらには確かに、赤黒い斑点が滲んでいた。
藍はそれ以上は言わず、ただ隣に座り、そっとブランケットを肩にかける。
「君が隠したいなら、俺は追求しない。でも、死ぬまでひとりで戦うって決めてたなら、それは間違いだと思う」
「ひとりで……いいんだよ。俺のことなんか、誰も覚えてなくていい。忘れられる方が、きっと楽だから」
「……そう言いながら、君はずっとスマホを手放せないじゃないか」
Reluははっとして、無意識に握っていたスマホを見た。すでに通知は切っているはずなのに、何かを待つように画面を見つめてしまう。
「……会いたくない。でも、声が……聞きたい」
呟きは、苦しさの混ざった震えを帯びていた。
「君は“悪者になろう”としてるけど、本当は、誰よりも傷つきたくないだけだろ?」
Reluは何も答えなかった。ただ、小さく唇を噛んだ。
その夜、Reluは夢を見た。
誰もいないライブ会場。マイクだけが置かれたステージに、自分一人が立っている。照明が強すぎて、客席の顔が見えない。
声が出ない。喉が張り裂けそうに痛い。
「――どうして黙ってたの?」
観客席から、誰かの声が飛んでくる。
「どうして、逃げたの?」
次々に飛んでくる“声”たちは、ファンのものではなかった。仲間たち――Coe.、くに、こったろ、ゆう……その一人ひとりの声が、突き刺さる。
Reluは、ただ泣くしかなかった。
目が覚めたとき、藍が隣で静かに背中を撫でていた。
「……夢、か?」
「うん。でも、顔がひどく泣いてた」
Reluは黙って、顔をタオルで隠した。声が震えるのを、気づかれたくなかった。
「言葉にできない苦しみってある。でも、俺がここにいるのは、君が黙っていてもいいようにするためだよ」
「……ありがと」
ようやく、搾り出すようにReluはそう言った。
その言葉に、藍は小さく頷く。
そしてその時、Reluのスマホが震えた。
《【新着】こったろ、涙の復帰配信 「Reluに会いたい」》
その通知に、Reluは凍りつく。
仮初めの静寂が、終わろうとしていた。
朝の空気は澄み切っていて、どこまでも青い。だが、その透明さがむしろ不自然に思えるほど、Reluの心は未だ曇り空のままだった。
「……おはよう。もう少し寝てていいんだよ」
藍の声が、台所から柔らかく届く。
「いや、……起きてる。もうずっと」
Reluは、布団の中で目を閉じたまま返事をした。眠れていないのは明らかだった。夜ごとに頭痛と咳がひどくなり、薬の残量が気になって仕方ない。
だが、それでも藍の前では、それを表に出すことはしなかった。
藍は朝食を用意しながら、あえてReluに多くを聞かない。どこで何をしてきたのか、何を考えているのか――そういったことには触れず、ただ“今ここにいるRelu”だけを見ていた。
「ごはん、少しだけでも食べてくれると、嬉しい」
食卓には、卵焼きと味噌汁、少しの白米が並んでいる。
Reluはためらいながら箸を取った。
「……うまい。ちゃんと味する」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ」
ほんの少し、Reluの口元が緩む。
そんな日常のようで非日常な、仮初めの静寂の中で――藍は彼の言動の“わずかな異変”に、少しずつ気づき始めていた。
朝食後、Reluがソファで項垂れているとき、ふいに強い咳が込み上げた。隠すように手を口に当てる。
「……血、出てない?」
藍が問いかけると、Reluはほんの一瞬、目を見開いたが、すぐにそらした。
「出てねぇよ。大袈裟な」
だが、その手のひらには確かに、赤黒い斑点が滲んでいた。
藍はそれ以上は言わず、ただ隣に座り、そっとブランケットを肩にかける。
「君が隠したいなら、俺は追求しない。でも、死ぬまでひとりで戦うって決めてたなら、それは間違いだと思う」
「ひとりで……いいんだよ。俺のことなんか、誰も覚えてなくていい。忘れられる方が、きっと楽だから」
「……そう言いながら、君はずっとスマホを手放せないじゃないか」
Reluははっとして、無意識に握っていたスマホを見た。すでに通知は切っているはずなのに、何かを待つように画面を見つめてしまう。
「……会いたくない。でも、声が……聞きたい」
呟きは、苦しさの混ざった震えを帯びていた。
「君は“悪者になろう”としてるけど、本当は、誰よりも傷つきたくないだけだろ?」
Reluは何も答えなかった。ただ、小さく唇を噛んだ。
その夜、Reluは夢を見た。
誰もいないライブ会場。マイクだけが置かれたステージに、自分一人が立っている。照明が強すぎて、客席の顔が見えない。
声が出ない。喉が張り裂けそうに痛い。
「――どうして黙ってたの?」
観客席から、誰かの声が飛んでくる。
「どうして、逃げたの?」
次々に飛んでくる“声”たちは、ファンのものではなかった。仲間たち――Coe.、くに、こったろ、ゆう……その一人ひとりの声が、突き刺さる。
Reluは、ただ泣くしかなかった。
目が覚めたとき、藍が隣で静かに背中を撫でていた。
「……夢、か?」
「うん。でも、顔がひどく泣いてた」
Reluは黙って、顔をタオルで隠した。声が震えるのを、気づかれたくなかった。
「言葉にできない苦しみってある。でも、俺がここにいるのは、君が黙っていてもいいようにするためだよ」
「……ありがと」
ようやく、搾り出すようにReluはそう言った。
その言葉に、藍は小さく頷く。
そしてその時、Reluのスマホが震えた。
《【新着】こったろ、涙の復帰配信 「Reluに会いたい」》
その通知に、Reluは凍りつく。
仮初めの静寂が、終わろうとしていた。