廻 シクフォニ
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――七人岬が、地図から消えて半年が過ぎた。
観光課は「地盤沈下による崩落」と発表した。
地元紙は「近年の異常潮位と地質の緩みが原因」とまとめた。
けれど、地元の人々は誰も信じていない。
あの夜以来、町の海は“おかしい”のだ。
漁師の一人が、桟橋で酒を飲みながらぽつりと話した。
「夜、漁に出るとよ……潮の匂いが、花みてぇなんだよ」
「花?」と聞くと、男は首を振った。
「花なんてよ、海の匂いにゃ混ざらねぇ。なのに、あの岬が沈んでから、夜の海が時々、甘ぇんだ」
そしてこうも言った。
「月が紫に滲む夜にゃ、波の音が変わる。ざざ、ざざ、って普通の音じゃねぇ。まるで……誰かが、笑ってるみてぇな」
町外れの神社では、神主が神前に紫の布をかけて祓いをしている。
理由を聞くと、神主は目を伏せて、ただ一言。
「――あの娘がまだ、逝ききれておらぬのです」
一方で、あの事件を生き延びた沙耶は、東京の病院にいる。
全身の骨折と精神的ショックで、入院が続いていた。
見舞いに来た記者に、彼女はうわごとのように呟く。
「終わったんじゃない……
夏生が、沈めてくれたんじゃない……
ただ、別の場所で……廻ってるだけなの……」
その声は、震えていた。
けれど、目だけはどこか遠くを見つめて、何かを確信しているようでもあった。
夜、病院の窓辺に、海風が吹く。
紫苑の香りが、微かに混じっている。
沙耶はゆっくりと目を閉じて、かすれた声で呟いた。
「夏生……また、逢えるの?」
――その夜、町外れの漁港で、若い漁師が行方不明になった。
船は見つかった。
網も、魚も、そのままだった。
ただ、船縁に、濡れた紫の花びらだけが、ひとひら。
町は静かに、けれど確実に、再び“廻り始めていた”。
観光課は「地盤沈下による崩落」と発表した。
地元紙は「近年の異常潮位と地質の緩みが原因」とまとめた。
けれど、地元の人々は誰も信じていない。
あの夜以来、町の海は“おかしい”のだ。
漁師の一人が、桟橋で酒を飲みながらぽつりと話した。
「夜、漁に出るとよ……潮の匂いが、花みてぇなんだよ」
「花?」と聞くと、男は首を振った。
「花なんてよ、海の匂いにゃ混ざらねぇ。なのに、あの岬が沈んでから、夜の海が時々、甘ぇんだ」
そしてこうも言った。
「月が紫に滲む夜にゃ、波の音が変わる。ざざ、ざざ、って普通の音じゃねぇ。まるで……誰かが、笑ってるみてぇな」
町外れの神社では、神主が神前に紫の布をかけて祓いをしている。
理由を聞くと、神主は目を伏せて、ただ一言。
「――あの娘がまだ、逝ききれておらぬのです」
一方で、あの事件を生き延びた沙耶は、東京の病院にいる。
全身の骨折と精神的ショックで、入院が続いていた。
見舞いに来た記者に、彼女はうわごとのように呟く。
「終わったんじゃない……
夏生が、沈めてくれたんじゃない……
ただ、別の場所で……廻ってるだけなの……」
その声は、震えていた。
けれど、目だけはどこか遠くを見つめて、何かを確信しているようでもあった。
夜、病院の窓辺に、海風が吹く。
紫苑の香りが、微かに混じっている。
沙耶はゆっくりと目を閉じて、かすれた声で呟いた。
「夏生……また、逢えるの?」
――その夜、町外れの漁港で、若い漁師が行方不明になった。
船は見つかった。
網も、魚も、そのままだった。
ただ、船縁に、濡れた紫の花びらだけが、ひとひら。
町は静かに、けれど確実に、再び“廻り始めていた”。