廻 シクフォニ
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海が裂けて、光が咲いた。
紫苑の光。
腐った潮の中に、花の匂いが満ちていく。
夏生の足は、抗えず前へ進む。
後ろから沙耶が泣き叫んでいる。
灯真が、必死に夏生の腕を掴もうとする。
だが、その手が夏生の皮膚をかすめた瞬間――指が、音もなく千切れた。
海の中から、七つの白い腕が伸びてくる。
冷たく、柔らかく、まるで恋人を抱くように、夏生の身体を引きずり込んでいく。
「――やめろっ!!」
灯真の叫びが響く。
だが、すぐにその声は濁った泡に呑まれた。
沙耶の絶叫も、悠斗の荒い息も、すべて海に溶かされていく。
水の中で、夏生の視界に、あの女が浮かんだ。
白く染めた柔肌。紫苑色の紅。
かつて愛し、かつて見捨てた女。
「もう、終わらせましょう」
女の声が、水越しに、骨の芯まで届く。
頬に触れる指が、温かかった。
腐り落ちた皮膚のはずなのに、どこか懐かしい体温があった。
「俺が……全部、終わらせる」
夏生は呟いた。
その言葉に、女の瞳が、僅かに揺れた。
「七が揃えば、岬は笑う」
「けれど――七が揃う前に、岬が沈めば」
夏生は腕を振り上げた。
咄嗟に掴んだのは、灯真の落とした鉄パイプ。
その先端が、女の胸を貫いた。
紫苑の光が、一気に弾ける。
海が、呻き声を上げる。
水の底で蠢いていた七つの影が、悲鳴とも歓喜ともつかぬ声をあげて、泡となって崩れていく。
夏生の身体が、急激に沈んでいく。
肺が焼けるように苦しいのに、不思議と痛みはなかった。
ただ――安らぎだけが、そこにあった。
「澄んだお前を、求めるだけ」
最後に聞いたその声は、泣いているようでもあり、笑っているようでもあった。
そして、岬は、音もなく、海へと崩れ落ちた。
――数日後。
七人岬と呼ばれたその場所は、海底に沈んでいた。
夜な夜な肝試しに訪れていた若者たちは口を揃えて言う。
「なぁ、知ってるか? あの岬、もうないんだって」
「でもさ、夜の海に紫の光が差すとき――」
「耳を澄ますと、囃子みたいな声が聞こえるらしい」
「ひとり、ひとり、また、憑れて逝くだけ――って」
波の音に混じって、確かに聞こえた気がした。
笑うような、泣くような、女の声。
「常闇月虹――終わらぬ輪は、今日も廻る」
海が、静かに揺れた。
紫苑色の光が、底から一筋、空へ伸びていった。
紫苑の光。
腐った潮の中に、花の匂いが満ちていく。
夏生の足は、抗えず前へ進む。
後ろから沙耶が泣き叫んでいる。
灯真が、必死に夏生の腕を掴もうとする。
だが、その手が夏生の皮膚をかすめた瞬間――指が、音もなく千切れた。
海の中から、七つの白い腕が伸びてくる。
冷たく、柔らかく、まるで恋人を抱くように、夏生の身体を引きずり込んでいく。
「――やめろっ!!」
灯真の叫びが響く。
だが、すぐにその声は濁った泡に呑まれた。
沙耶の絶叫も、悠斗の荒い息も、すべて海に溶かされていく。
水の中で、夏生の視界に、あの女が浮かんだ。
白く染めた柔肌。紫苑色の紅。
かつて愛し、かつて見捨てた女。
「もう、終わらせましょう」
女の声が、水越しに、骨の芯まで届く。
頬に触れる指が、温かかった。
腐り落ちた皮膚のはずなのに、どこか懐かしい体温があった。
「俺が……全部、終わらせる」
夏生は呟いた。
その言葉に、女の瞳が、僅かに揺れた。
「七が揃えば、岬は笑う」
「けれど――七が揃う前に、岬が沈めば」
夏生は腕を振り上げた。
咄嗟に掴んだのは、灯真の落とした鉄パイプ。
その先端が、女の胸を貫いた。
紫苑の光が、一気に弾ける。
海が、呻き声を上げる。
水の底で蠢いていた七つの影が、悲鳴とも歓喜ともつかぬ声をあげて、泡となって崩れていく。
夏生の身体が、急激に沈んでいく。
肺が焼けるように苦しいのに、不思議と痛みはなかった。
ただ――安らぎだけが、そこにあった。
「澄んだお前を、求めるだけ」
最後に聞いたその声は、泣いているようでもあり、笑っているようでもあった。
そして、岬は、音もなく、海へと崩れ落ちた。
――数日後。
七人岬と呼ばれたその場所は、海底に沈んでいた。
夜な夜な肝試しに訪れていた若者たちは口を揃えて言う。
「なぁ、知ってるか? あの岬、もうないんだって」
「でもさ、夜の海に紫の光が差すとき――」
「耳を澄ますと、囃子みたいな声が聞こえるらしい」
「ひとり、ひとり、また、憑れて逝くだけ――って」
波の音に混じって、確かに聞こえた気がした。
笑うような、泣くような、女の声。
「常闇月虹――終わらぬ輪は、今日も廻る」
海が、静かに揺れた。
紫苑色の光が、底から一筋、空へ伸びていった。