廻 シクフォニ
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海鳴りが、耳の奥を打つ。
誰も声を上げない。
いや、上げられなかった。
玲央が消えた瞬間から、何かが、確かに変わった。
潮の匂いはさらに甘く、どこか懐かしいようでいて、腐った果実を鼻先に押し付けられたようでもあった。
吐き気が喉の奥を焼く。足元がふらつく。
「……もう、帰ろう」
背中の小柄な影が震えながら言った。
沙耶だ。メンバーの中で最年少、心霊系の動画が好きで、今日の企画に最も乗り気だったはずの少女。
「帰る? 無理だ」
灯真が低く吐き捨てた。
彼の指が震えているのを、夏生は見逃さなかった。
強がりでなければ、もう立っていられないほど、灯真も恐怖に縛られている。
「ここで死ぬのは――七人、なんだよな」
誰かが呟く。
声の主は、もう夏生にも分からなかった。
六人の中に「何か」が紛れ込んでいるのか、それとも自分たちの誰かが、もう人でなくなっているのか。
潮風の中、また――骨を這うような声がした。
「白く染めた柔肌……紫苑の紅が、似合う女だった」
夏生の目の前に、あの女が立っていた。
いつの間にか、海沿いの岩場のすぐ近く。
潮で濡れた髪が肌に張り付いている。目元に流れる紅が、血なのか、化粧なのか分からない。
「……お前、誰だ」
夏生が問う。
女は、くぐもった声で笑った。
「花街に咲いた、七つの花。咲けば枯らされ、枯れれば沈められ、沈められれば……また咲かされる。罪を抱いて、死んでも逃げられない。輪廻に絡め取られ、ひとり、またひとり、道連れにして――」
声が、沙耶の悲鳴にかき消された。
「いない……っ! 美緒がいないっ!!」
振り返ると、確かにもうひとり、いなかった。
誰も気づかなかった。
ほんの数秒、足元を見た瞬間、ほんの数歩、視界をずらしただけで――。
「……二人目、だ」
灯真の声が震える。
彼の目が、海の方角を見ていた。
波打ち際、紫苑色の紅が、暗い海を染めて広がっていく。まるで誰かの首筋を流れ落ちるように。
夏生の耳に、あの声が重なる。
「一逝きすれば忽ちに、芳ぬ吐で満たされた」
「二振りすればまちまちに、溢るる塒を撒かれた」
女が、笑っている。
血を啜るように、哀れむように。
その顔に、どこか覚えがある気がして、夏生の背筋が粟立った。
「お前、まさか……」
「――いいえ。もう、誰でもないの」
女は、顔を覆った。
白粉が剥がれ、爛れた頬が露わになる。
皮膚の下で、蛆のようなものが蠢くのが、見えてしまった。
「ただ、澄んだお前を、求めるだけ」
その言葉に、夏生の心臓が、わずかに震えた。
まるでそれが、優しい愛の告白のように響いたから。
けれど――次の瞬間、頭の奥で鈍い鐘が鳴った。
誰かが次に消える。
七が揃うまで、岬は止まらない。
恐怖ではない。
これは、執着だ。
――愛した誰かの魂が、今もこの岬で、七人を揃えている。
誰も声を上げない。
いや、上げられなかった。
玲央が消えた瞬間から、何かが、確かに変わった。
潮の匂いはさらに甘く、どこか懐かしいようでいて、腐った果実を鼻先に押し付けられたようでもあった。
吐き気が喉の奥を焼く。足元がふらつく。
「……もう、帰ろう」
背中の小柄な影が震えながら言った。
沙耶だ。メンバーの中で最年少、心霊系の動画が好きで、今日の企画に最も乗り気だったはずの少女。
「帰る? 無理だ」
灯真が低く吐き捨てた。
彼の指が震えているのを、夏生は見逃さなかった。
強がりでなければ、もう立っていられないほど、灯真も恐怖に縛られている。
「ここで死ぬのは――七人、なんだよな」
誰かが呟く。
声の主は、もう夏生にも分からなかった。
六人の中に「何か」が紛れ込んでいるのか、それとも自分たちの誰かが、もう人でなくなっているのか。
潮風の中、また――骨を這うような声がした。
「白く染めた柔肌……紫苑の紅が、似合う女だった」
夏生の目の前に、あの女が立っていた。
いつの間にか、海沿いの岩場のすぐ近く。
潮で濡れた髪が肌に張り付いている。目元に流れる紅が、血なのか、化粧なのか分からない。
「……お前、誰だ」
夏生が問う。
女は、くぐもった声で笑った。
「花街に咲いた、七つの花。咲けば枯らされ、枯れれば沈められ、沈められれば……また咲かされる。罪を抱いて、死んでも逃げられない。輪廻に絡め取られ、ひとり、またひとり、道連れにして――」
声が、沙耶の悲鳴にかき消された。
「いない……っ! 美緒がいないっ!!」
振り返ると、確かにもうひとり、いなかった。
誰も気づかなかった。
ほんの数秒、足元を見た瞬間、ほんの数歩、視界をずらしただけで――。
「……二人目、だ」
灯真の声が震える。
彼の目が、海の方角を見ていた。
波打ち際、紫苑色の紅が、暗い海を染めて広がっていく。まるで誰かの首筋を流れ落ちるように。
夏生の耳に、あの声が重なる。
「一逝きすれば忽ちに、芳ぬ吐で満たされた」
「二振りすればまちまちに、溢るる塒を撒かれた」
女が、笑っている。
血を啜るように、哀れむように。
その顔に、どこか覚えがある気がして、夏生の背筋が粟立った。
「お前、まさか……」
「――いいえ。もう、誰でもないの」
女は、顔を覆った。
白粉が剥がれ、爛れた頬が露わになる。
皮膚の下で、蛆のようなものが蠢くのが、見えてしまった。
「ただ、澄んだお前を、求めるだけ」
その言葉に、夏生の心臓が、わずかに震えた。
まるでそれが、優しい愛の告白のように響いたから。
けれど――次の瞬間、頭の奥で鈍い鐘が鳴った。
誰かが次に消える。
七が揃うまで、岬は止まらない。
恐怖ではない。
これは、執着だ。
――愛した誰かの魂が、今もこの岬で、七人を揃えている。