──あれから三年が経った。

　Coe.は、北海道に戻っていた。

　すたぽらとして活動していた時代とはまるで違う、静かな日々。
　都会の喧騒も、トレンド入りの通知音も、もうここにはない。

　それでも、彼は毎朝、机に向かう。
　ペンを手に取り、言葉を綴る。
　歌詞でも、詩でも、小説でもない。
　これは、祈りだ。

　「忘れたくないだけなんだよな……」

　誰に言うでもなく呟いた声は、部屋の壁に吸い込まれていく。

　Reluがあの最後の配信で見せた「素顔」を、Coe.は今も忘れられなかった。
　あの時、自分はリーダーとして、何ができたのだろう。

　「僕は……間違えなかったかな」

　自問自答する日々。
　それでも、あの頃に火を灯してくれたものは確かに存在していた。

　それを次の世代に繋ぎたいと、彼は思っていた。

　だから今、Coe.は地元の高校で非常勤講師をしている。
　音楽の授業では、技術よりも「想い」を教えていた。
　
　「メロディーは、心の言葉です。間違えてもいい。けど、嘘はダメ」

　生徒たちは最初、戸惑いながらも、次第に彼の授業に引き込まれていった。

　教室の片隅で、Coe.はふと空を見上げる。
　あの頃の仲間たちは、今、どこで何をしているだろうか。

　彼のスマホには、もうグループのグループチャットは存在しない。
　けれど、時々思い出したように、個別で誰かがメッセージをくれる。

　「元気してる？」「風邪ひいてない？」「変わらずイチゴ好きか？」

　──小さな火は、まだどこかで灯っている。

　Coe.は今日も、生徒たちの音に耳を澄ませる。

　小さな祈りが、未来に届くことを信じて。