夜が明ける頃、藍はふと目を覚ました。
　隣の部屋から漏れてくる微かな音。
　それはギターの弦を掻き鳴らす、Reluの音だった。

　藍は静かに立ち上がり、扉を開ける。
　そこには、何かを抱えるようにしてうずくまるReluの姿があった。

「Relu……」

　声をかけると、彼はゆっくり顔を上げた。
　その瞳には、迷いと決意が同居していた。

「……戻るべきかな、って思ってる」

　その言葉に、藍は一瞬だけ驚き、けれどすぐに頷いた。

「それは、お前が決めることだ。俺は、どっちでも支える」

　Reluは小さく笑った。
　その笑みに、ほんのわずか、昔の彼が滲んでいた。

「俺さ、ずっと怖かったんだ。あの場所に戻って、また誰かを傷つけるんじゃないかって。でも──」

　彼は指を鳴らし、小さなメロディを奏で始める。

「でも、こんな風に思える日が来るなんて、思ってなかった」

　その音は、確かに“希望”の音だった。

　同じ頃──。

　Coe.は深夜のスタジオで、誰もいないモニターに向かって話しかけていた。

「……お前さ、いつまで隠れてるんだよ」

　その声は怒りにも似ていたが、根底には寂しさと祈りがあった。

「僕は……まだ、全部終わったなんて思ってない」

　こったろはその様子を黙って見ていた。
　ゆうは、小さく口ずさみながら、未完成のメロディを繋げていく。
　くには、もう涙は流さなかった。ただ、強く前を見据えていた。

　そして──。

　ある夜、Reluから一通のメッセージが届く。

　それは、たった一言。

『また、話させてくれ』

　画面を見つめたCoe.の目に、微かな光が戻る。

「おかえり、Reluさん」

　そう呟いた声は、もう震えてはいなかった。