Reluの死から、1ヶ月が経った。

世間の騒ぎは徐々に落ち着いていったが、すたぽらの中では、Reluの存在が色濃く残り続けていた。

それぞれが、違う形で「喪失」と向き合っていた。

くには、Reluが遺したリリックノートを繰り返し読み返していた。
こったろは、Reluの歌を自分の声で何度も歌っては、泣いていた。
ゆうは、筋トレの時間が倍になり、時折部屋でひとり声を上げて泣いていた。
Coe.は、黙々と新しい曲を書いていた。Reluの“魂”を感じながら。

彼らは、Reluの死によって止まりかけたグループの鼓動を、また少しずつ動かそうとしていた。

ある日、藍のもとに、Coe.から一通の手紙が届いた。

丁寧な字で綴られていたのは、Reluの最期の記録に対する感謝と、藍自身への敬意だった。

君がいたから、Reluは最後まで“Relu”でいられたんだと思う。
どうか、君自身も、あの時間を悔やまないでほしい。
僕たちは、君に会えて良かったと思っている。

藍は、読みながらふっと笑った。

「……ずるいな、Coe.。君までそんなこと言ったら、俺はもう、前を向くしかないじゃないか」

その週末、すたぽらは久しぶりに全員で集まり、配信を行うことを決めた。

タイトルは《Starlight Memorial》。

Reluを失ったことを語る配信など、最初は誰も望んでいなかった。
けれど――Reluが残した音楽が、世界にどう響いていたか。
Reluが最後まで誰を思っていたか。
その“想い”を、ちゃんと受け取ったということを伝えたかった。

画面の向こうにいるファンへ。
そして、空の向こうにいるReluへ。

配信が始まる直前、Coe.がつぶやいた。

「今日だけは、泣いてもいいかな」

「俺もや。……ずっと、強がってたしな」

「ゆさんも、泣くかも。いや、泣くね……たぶん」

「でも、ちゃんと伝えたいよな。……ありがとうって」

誰も口には出さなかったが、みんながReluのことを考えていた。

配信は、Reluの代表曲をライブ形式で披露する内容だった。

その合間には、Reluとの思い出や裏話を交えたトークも行われた。

画面には、リアルタイムで数十万の視聴者が集まり、コメント欄はReluへの「ありがとう」で埋まっていた。

最後に、Coe.が一歩前へ出て、こう言った。

「Reluは、もうここにはいません。でも、彼の音楽は、今もここにあります。
彼が愛したこのグループを、僕たちは、これからも大切に続けていきます」

続けて、こったろ、くに、ゆうもそれぞれの言葉で、Reluへの思いを伝えた。

そしてラスト。Reluが最後に残した楽曲「Starlight Endroll」を、四人で歌った。

Reluのパートは、オリジナルのまま流された。

それが、Reluが「生きた証」だった。

Coe.が歌い終えたあと、静かな沈黙の中、ゆうが小さな声で呟いた。

「……Relu、聞いてた？」

その言葉に、誰も答えなかったが――
そのとき、画面の向こうの星空に、ひとつだけ流れ星が走った。

配信の最後、画面にはこう表示された。

ありがとう、Relu。
君は、今でも僕たちの“光”です。

その夜、藍はひとりで海沿いを歩いていた。

Reluと過ごしたあの家から見える海。

彼は、ポケットからイヤホンを取り出して、耳に差し込んだ。

再生したのは、「Starlight Endroll」。

波音に混じるReluの声が、優しく空へと還っていく。

「……おかえり、Relu」

彼の瞳に、涙はなかった。

けれどその声は、確かに温かかった。