「Relu、起きてる？」

朝、少し遅めの時間。藍が優しく声をかけると、布団の中から「ん……」というくぐもった声が返ってきた。

「ごめん、ちょっとだけ話したいことがあって」

Reluはしばらく目をこすってから、寝ぼけた表情で起き上がる。

「んー……なんや、朝から神妙な顔して」

「……すたぽらのメンバーから連絡があった」

その言葉に、Reluの瞳の奥が一瞬だけ、強く揺れた。

「やっぱり……“R”の正体、バレたんやな」

「うん。でも、誰も怒ってない。むしろ、すごく心配してる。こったろが、『会いたい』って」

Reluは、しばらく黙っていた。藍はその沈黙を邪魔せず、静かに隣に座る。

「……今、会ったら……あいつら、泣いてまうやろ」

「そうだね。でも、泣くってことは、それだけ想ってるってことだよ」

Reluは目を伏せ、唇を噛んだ。

「なあ、藍。俺、もう長くはないって分かってて……またあいつらの前に出たら、それって――“期待”させてまうんちゃうか」

「期待させてもいいじゃん。それを“希望”に変えるかどうかは、Reluがどう生きるかで決まる」

「……生きる、か」

その頃、すたぽらのメンバーたちは北海道のとある町に向かっていた。Reluの過去を辿る手がかりを、藍のSNS投稿の背景から読み取り、地道に調べ上げていた。

「この写真……背景の街灯のデザインが、この町のと一致してる」

「Reluがよく作詞してた場所って、たしか港が近くにあるって言ってたな。じゃあ――」

「藍って人のアカウント、更新止まってるけど……どうもこの辺りに住んでるっぽい」

Reluに会いたいという想いだけが、彼らを突き動かしていた。

そして、ついに。

「……あれ、Relu……？」

港の堤防の向こうで、一人の男が風に吹かれて立っていた。

白いパーカーにキャップ。うなだれる肩。細くなった背中。

その姿は、紛れもなく――

「れるち！！」

声を上げたのはくにだった。

Reluは驚いて振り返る。

「……お前ら、なんで……！」

こったろが走り寄ってきて、肩を掴んだ。

「やっと、会えた……！」

Reluは言葉を失い、震えた唇を噛みしめていた。

「なんで……なんで来たんや……！ 俺は……死ぬんやぞ……！」

「それでもいい。お前が何を抱えてても、Reluは俺たちの仲間だ！ ずっと……俺たちの“光”だった！」

Coe.の言葉に、Reluの目から大粒の涙がこぼれた。

「俺……怖かったんや。みんなの前で弱っていくの、見られるのが……それでも……こんなに――」

「お前が弱くても、壊れかけてても、俺たちは一緒にいるから。Reluがどんな終わりを選んでも、ひとりにさせない！」

その言葉に、Reluは崩れるようにその場にしゃがみ込んだ。

「……ごめん……ありがとう……ほんまに、ごめんな……！」

藍が少し離れた場所からその光景を見つめていた。

そっと目を閉じ、呟く。

「よかったな……Relu」

風が吹き抜け、雲の隙間から差す光が、5人とひとりを優しく包んだ。

それは、まるで最後の春が訪れたことを告げるような、あたたかな光だった。