病みクラ すたぽら
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Reluはその夜、藍に何も告げずに外出した。
言い訳も、目的も、置き手紙すらない。
藍がそれに気づいたのは、朝のことだった。
「……Relu?」
呼びかけに返事はない。
布団は乱れたまま、脱ぎ捨てられたTシャツが床に落ちている。
静寂だけが、残されていた。
***
Reluが向かったのは、東京。
そこにはすたぽらが初めてMV撮影をしたスタジオがあった。
夜の高速バスに揺られながら、彼はスマホの電源を切っていた。
連絡が来ても、見るつもりはなかった。
(ここで全部終わらせる。……俺が全部、壊す)
到着した朝、懐かしい空気が肺に満ちた。
薄く曇った空。灰色の街。誰も彼を認識しない雑踏。
その中にまぎれた彼は、まるで“存在しない者”のようだった。
Reluは、スタジオの壁の前に立ち尽くした。
一枚の封筒を取り出す。
**“すたぽらへ”**とだけ書かれた封筒の中は――空だった。
(言葉なんて、もういらない。俺が消えても、何も残らないのが一番いい)
Reluはそのまま、その手紙をポストに投げ入れた。
届け先も記載していないそれは、誰にも届かない“空白の手紙”。
その虚無こそ、彼の遺志だった。
***
その頃、藍は必死にReluを探していた。
行き先も、交通手段も手がかりはない。
スマホのGPSもオフにされている。
唯一の手がかり――
キッチンカウンターに置かれた、くしゃくしゃのレシート。
そこには、高速バスの名前が印字されていた。
「……東京、か?」
藍はすぐに荷物をまとめ、同じバス会社の時刻表を調べた。
出発から逆算して、Reluが向かったであろう目的地を割り出していく。
(間に合ってくれ。あいつが、完全に“壊れる”前に)
***
都内某所、音楽制作会社の一室――
Coe.はスタッフとの会議中、突如スマホに通知が届いた。
【Reluの目撃情報が出ています。現在、都内にいる可能性が高いです】
「……!」
彼の目が見開かれる。
「すいません、ちょっと抜けます!」
誰の言葉も待たず、会議室を飛び出す。
走りながら、Reluの行きそうな場所を脳内で検索する。
(Relu、お前……今さら何しようとしてんだよ)
***
そして、その日――
渋谷のスクランブル交差点で、ひとりの青年が、偶然にもカメラに映った。
フードを深くかぶり、マスクで顔を隠した姿。
けれど、ファンは見逃さなかった。
「Reluに似てる」
「本人じゃないか」
瞬く間にその映像が拡散される。
タグが飛び交い、トレンドが再びReluで埋め尽くされていく。
ネットは騒然とし始める。
《本人?》《また逃げた?》《なにがしたいの?》
そんな喧騒の中――
Reluは、たったひとつの選択肢を握っていた。
「……俺が死ねば、全部終わるよな?」
その呟きは、誰にも届かない。
いや――ただひとり、彼の声を聞き逃さなかった人間がいた。
「Relu!」
その声に、Reluが振り返る。
そこには――ぜえぜえと息を切らせて立っている、藍の姿があった。
「お前、なんで……」
Reluの声が震える。
「探したに決まってるだろ。お前が、俺の前から消えると思ったから」
Reluは、かすかに笑った。
「……俺、もう終わりでいいと思ってた」
「バカ」
藍は一歩、Reluに近づく。
「お前が壊したいって思ってるものは、お前が作ったもんだろ。壊すんじゃなくて――どうして、守るって選ばないんだよ」
Reluの手から、ポケットの中のカッターが滑り落ちる。
カツン、と乾いた音がした。
(……俺は)
唇を噛んだその瞳に、初めて“迷い”が差した。
「Relu、帰ろう。まだ終わってない。……終わらせたくない」
Reluは、小さく頷いた。
誰も知らない東京の片隅で――
たったひとつ、確かな“居場所”が、彼を救い上げた。
言い訳も、目的も、置き手紙すらない。
藍がそれに気づいたのは、朝のことだった。
「……Relu?」
呼びかけに返事はない。
布団は乱れたまま、脱ぎ捨てられたTシャツが床に落ちている。
静寂だけが、残されていた。
***
Reluが向かったのは、東京。
そこにはすたぽらが初めてMV撮影をしたスタジオがあった。
夜の高速バスに揺られながら、彼はスマホの電源を切っていた。
連絡が来ても、見るつもりはなかった。
(ここで全部終わらせる。……俺が全部、壊す)
到着した朝、懐かしい空気が肺に満ちた。
薄く曇った空。灰色の街。誰も彼を認識しない雑踏。
その中にまぎれた彼は、まるで“存在しない者”のようだった。
Reluは、スタジオの壁の前に立ち尽くした。
一枚の封筒を取り出す。
**“すたぽらへ”**とだけ書かれた封筒の中は――空だった。
(言葉なんて、もういらない。俺が消えても、何も残らないのが一番いい)
Reluはそのまま、その手紙をポストに投げ入れた。
届け先も記載していないそれは、誰にも届かない“空白の手紙”。
その虚無こそ、彼の遺志だった。
***
その頃、藍は必死にReluを探していた。
行き先も、交通手段も手がかりはない。
スマホのGPSもオフにされている。
唯一の手がかり――
キッチンカウンターに置かれた、くしゃくしゃのレシート。
そこには、高速バスの名前が印字されていた。
「……東京、か?」
藍はすぐに荷物をまとめ、同じバス会社の時刻表を調べた。
出発から逆算して、Reluが向かったであろう目的地を割り出していく。
(間に合ってくれ。あいつが、完全に“壊れる”前に)
***
都内某所、音楽制作会社の一室――
Coe.はスタッフとの会議中、突如スマホに通知が届いた。
【Reluの目撃情報が出ています。現在、都内にいる可能性が高いです】
「……!」
彼の目が見開かれる。
「すいません、ちょっと抜けます!」
誰の言葉も待たず、会議室を飛び出す。
走りながら、Reluの行きそうな場所を脳内で検索する。
(Relu、お前……今さら何しようとしてんだよ)
***
そして、その日――
渋谷のスクランブル交差点で、ひとりの青年が、偶然にもカメラに映った。
フードを深くかぶり、マスクで顔を隠した姿。
けれど、ファンは見逃さなかった。
「Reluに似てる」
「本人じゃないか」
瞬く間にその映像が拡散される。
タグが飛び交い、トレンドが再びReluで埋め尽くされていく。
ネットは騒然とし始める。
《本人?》《また逃げた?》《なにがしたいの?》
そんな喧騒の中――
Reluは、たったひとつの選択肢を握っていた。
「……俺が死ねば、全部終わるよな?」
その呟きは、誰にも届かない。
いや――ただひとり、彼の声を聞き逃さなかった人間がいた。
「Relu!」
その声に、Reluが振り返る。
そこには――ぜえぜえと息を切らせて立っている、藍の姿があった。
「お前、なんで……」
Reluの声が震える。
「探したに決まってるだろ。お前が、俺の前から消えると思ったから」
Reluは、かすかに笑った。
「……俺、もう終わりでいいと思ってた」
「バカ」
藍は一歩、Reluに近づく。
「お前が壊したいって思ってるものは、お前が作ったもんだろ。壊すんじゃなくて――どうして、守るって選ばないんだよ」
Reluの手から、ポケットの中のカッターが滑り落ちる。
カツン、と乾いた音がした。
(……俺は)
唇を噛んだその瞳に、初めて“迷い”が差した。
「Relu、帰ろう。まだ終わってない。……終わらせたくない」
Reluは、小さく頷いた。
誰も知らない東京の片隅で――
たったひとつ、確かな“居場所”が、彼を救い上げた。