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Reluが姿を消してから、すでに三週間が経っていた。
すたぽらのグループチャットは、今ではほとんど動かなくなっている。
ぽっかりと空いた穴に、誰も触れられない。
いや――触れたくなかったのかもしれない。
だが、その静寂を破るように、Coe.はついに立ち上がった。
「……僕は、もう限界だ」
深夜のスタジオ、静まり返った空間で、Coe.はぽつりと呟いた。
目の前にいるのは、こったろとくに。
「Reluさんがいなくなってから、何もかもが停滞してる。動画の投稿も止まってるし、ファンからも毎日問い合わせが来てる。でもそれ以上に、僕……あいつのことが、ずっと心配なんだ」
くには、顎に手を当てていた。
「……連絡、返ってこないんだよな。既読すらつかない。いきなり、あんなひどいこと言って姿を消して、それっきりって……。普通じゃないだろ」
こったろは眉を下げたまま、小さく頷いた。
「れるちがいないと、どこか体の一部がなくなったみたいなんだ。何をやっても楽しくない……。言葉も、歌も、響かない」
Coe.はスマホを手に取り、画面を見せた。
そこには、以前のReluの投稿。
その場所は、確かに見覚えがある――。
「この背景、たぶん、郊外の山の方だと思う。僕、昔旅行で行ったことがあるんだ。確か、近くに静かなペンション街があった。藍って人が、そこに住んでるって聞いたことがある」
「藍……?」
「Reluさんの過去の配信に、一回だけ名前が出てた。すごく落ち込んでた時に、“あいつだけは助けてくれた”って」
こったろが息を呑んだ。
「もしかして……れるち、今、そこに?」
「わからない。でも、行ってみる価値はある」
くにがすっと立ち上がる。
「……行こう。黙って待ってるだけなんて、もう嫌だ」
Coe.は頷いた。
「Reluさんが何を隠してるのか、何を考えてるのか。ちゃんと、僕たちが聞かなきゃいけないと思うんだ。あいつの口から、全部」
それぞれの心に、Reluへの想いが膨れ上がっていく。
冷たく突き放されたあの言葉たちは、どうしても「嘘」にしか思えなかった。
「嫌いになんて、なれるわけないだろ……」
くにの言葉が、夜のスタジオにこだました。
その頃。
Reluは、藍の部屋のベランダから遠くの空を眺めていた。
秋が深まり、冷たい風が肌を刺す。
「……そろそろ、来るかもな」
「なにが?」
隣にいた藍が問いかけると、Reluは口角だけで笑った。
「過去や」
「きっと、もうすぐ――俺を、迎えに来る」
Reluの声は、風に混じって遠くへ消えた。
だが、その胸の内では、逃げることも、隠すことも、もう限界だと――どこかで悟っていた。
ーーーーーーーー
Reluが朝早く目を覚ましたとき、藍はすでにキッチンで朝食の支度をしていた。
湯気の立つ味噌汁の匂いが、優しく鼻腔をくすぐる。
それは、どこか懐かしい匂いだった。
Reluは寝ぼけた声で呟いた。
「……藍、よう起きとるな」
「君の咳が聞こえたから。熱はない?」
「んー、ちょっとだるいくらいや」
「今日はゆっくり休もう。昨日の夜、眠れてなかっただろ」
Reluは答えず、ソファに腰を下ろす。
まるで――嵐の前の静けさのような朝だった。
その同じ頃。
北海道の郊外にあるバス停に、一台のタクシーが停まった。
中から降りてきたのは、Coe.、くに、そしてこったろ。
「……本当に、このあたりなんだね?」
Coe.が確認するように言うと、くにが頷いた。
「藍って人、近くで小さな本屋をやってるらしい。情報、合ってればの話だけど……」
「行ってみる価値はあるさ」
こったろが、冷たい風に襟を立てながら静かに答えた。
彼らの目には、はっきりとした決意があった。
Reluと藍の過ごす静かな町。
その入り口に、確かに「過去」が到着しようとしていた。
***
昼下がり。
Reluは、体調が落ち着いてきたのを感じて、ふらりと外へ出た。
マスクをして、ニット帽を深く被る。
藍は少し心配そうな顔をしたが、「近所一周くらいなら」と送り出してくれた。
Reluは足取りも軽く、小さな雑木林の遊歩道を歩いた。
吐く息は白く、遠くには子供たちの遊ぶ声が聞こえる。
――その時だった。
「……Relu?」
背後から聞こえたその声は、夢のように懐かしかった。
Reluはその場に立ち尽くす。
「……なんで……」
ゆっくり振り返ると、そこには――Coe.、くに、こったろの三人がいた。
「本当に……いたんだね」
Coe.の目が、潤んでいた。
Reluは思わず顔を背け、帽子を深くかぶった。
「なんで……来たんや」
「そっちこそ、なんで黙っていなくなったんだよ!」
くにが珍しく声を荒げた。
「ひどいこと、いっぱい言って……全部、嘘だったのかよ……!」
Reluは、ぎゅっと拳を握る。
だが、言葉が出てこない。
なにかを喉に詰まらせたように、ただ黙っていた。
「……帰れや」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
「俺のことはもうええ。関係ないやろ」
「関係なくなんて、あるわけない!」
Coe.が声を上げる。
「僕たちは……“すたぽら”は、ずっと一緒だったじゃないか!」
Reluは、ゆっくりと三人の顔を見た。
その表情に、嘘はなかった。
ただ、会いたくて。
ただ、戻ってきてほしくて。
その一心で、ここまで来たのだ。
Reluの喉が震える。
だが、次の瞬間――
「Relu!」
背後から、もう一つの声が飛んだ。
藍だった。
Reluを探して駆けつけた藍が、彼の隣に立ち、三人を見据える。
「君たちは……Reluの仲間だね」
Coe.たちは頷く。
「Reluは、今とても不安定だ。戻るには、まだ少し時間が必要なんだ。だから――今日は、帰ってほしい」
くにが、歯を食いしばる。
「帰れないよ……こんな状態で、帰れるわけないだろ……!」
こったろも、藍をまっすぐ見つめた。
「れるちは、僕たちの大切な仲間なんだ。奪いにきたわけじゃない。ただ、もう一度……話がしたいんだ」
Reluが小さく声を出した。
「……もう、ええ。俺が言う」
藍を制するように前へ出ると、Reluは三人の前に立った。
風が、帽子を揺らす。
Reluの目は、真っ直ぐだった。
「……俺、余命、半年って言われた」
静寂が降りた。
三人の顔から、一瞬で血の気が引いた。
「え……?」
「うそ、だろ……」
「Relu……」
Reluは、目を伏せながら続ける。
「だから、みんなには嫌われたかった。悲しんでほしくなかった。俺が死んでも、“あいつは最低なやつやったな”って思ってほしかった。そしたら、楽やと思ったんや……」
でも、とReluは続けた。
「……無理やった。藍だけは、最後まで俺を見捨ててくれんかった。俺を……人として見てくれた」
藍はReluの肩に手を置いた。
「だからこそ、今、君がこうして立っていられる。ね?」
三人は、言葉を失ったまま、Reluを見つめていた。
その目には、涙が溜まっていた。
Reluは、少しだけ笑った。
「……会えて、嬉しかった。ほんまに、ありがとうな」
そして、静かにこう言った。
「でも、帰ってくれ。俺は、ここに残る」
静まり返った空気の中で、Reluの「帰ってくれ」という言葉は、痛いほどの重みをもって三人に突き刺さっていた。
「本気で、そう思ってるの?」
Coe.の声が、風に混じって届く。
それは震えていた。
Reluは、目を伏せたまま答えなかった。
「Reluさん……本当に、僕たちには頼らないで、一人で死ぬつもりなの?」
「ちゃうよ」
Reluは静かに言った。
「俺は……もう、独りちゃう。藍が、ここにおる。こいつは、俺の全部を知ってて、そんで見捨てへんかった。……最後まで、一緒にいてくれるって、言うてくれた」
藍はそっと頷いた。
その目は、まっすぐだった。
「君たちのReluは、もう“孤独”じゃない。僕がいる。君たちが大切にしてきたものを、僕なりに守りたいと思ってる」
くにが、拳を握る音が聞こえた。
「……それでも、俺は納得できねぇよ。れるちが死ぬって、わかってて……何もできないなんて、嫌だ……!」
こったろも静かに口を開く。
「僕ら、家族以上の存在だったはずだ。最後に一緒に音を重ねることもできないまま終わるなんて……そんなの、辛すぎるよ」
Reluの目が、揺れる。
それでも、彼は一歩踏み出し、三人と距離を取るようにして言った。
「なぁ……わかってや。俺は、みんなの未来を壊したくないだけや。俺が死ぬってことに縛られて、生きてほしくない。すたぽらは、俺がおらんでも、続くやろ? それでええねん」
Coe.の唇が、きゅっと引き結ばれる。
「……Reluさん。僕は、そんなに強くないよ。君がいなくなって、僕は“笑って進む”なんてできない。だけど……君の願いを踏みにじるのも、違うって思う」
Reluは、小さく息を飲んだ。
Coe.の涙はこぼれ落ちそうで、でも、決して崩れなかった。
「……だから、約束して。Reluさん。僕たちに会いに来るって」
Reluは目を見開く。
「“また会おう”って言ってよ。そうじゃなきゃ、僕たち前に進めない」
Reluの口元が、かすかに歪む。
「……バカやな、Coe.は。ほんま、昔っから変わらん」
そして――絞り出すように言った。
「……また会おう。約束や」
その言葉が出た瞬間、三人の表情が涙に滲んだ。
くには鼻をすすり、こったろは小さく微笑み、Coe.は目を伏せて肩を震わせた。
Reluは、三人に背を向けた。
藍が、その横に寄り添う。
「さぁ、帰ろう。体、冷える」
「あぁ……せやな」
足音は、遠ざかっていく。
三人はその背中を、ただじっと見送っていた。
***
夜――。
静かな部屋に、二人の影だけが落ちている。
Reluは、毛布を肩までかけて、ソファに横たわっていた。
藍は隣の椅子に座り、温かいハーブティーをそっと差し出す。
「ありがと」
「飲めそう?」
「うん、あったかい」
しばらく沈黙が続いた後、Reluがぽつりと呟いた。
「……俺、ようやく言えたわ。ほんまは、ずっと怖かってん。みんなに嫌われるのも、本音を言うのも……全部怖かった」
藍は、静かに答える。
「でも、君は言えた。きっとそれだけで、今日という日は価値がある」
Reluは、ふっと笑った。
「……藍がおらんかったら、絶対無理やった」
「僕は、君を支えるって決めたからね。最期の瞬間まで、絶対に君の隣にいる」
「……なぁ、藍」
「ん?」
Reluは、藍のほうを見つめた。
その目は、少し赤く、けれどもどこか澄んでいた。
「俺、怖いわ。でも、もうちょっと……生きていたいな」
藍は微笑み、そっとReluの手を握った。
「生きよう。最後まで、君の“声”を大切にしよう」
そして、その夜――Reluは深く、深く眠った。
まるで、安らぎを知ったような静かな寝息を立てながら。
すたぽらのグループチャットは、今ではほとんど動かなくなっている。
ぽっかりと空いた穴に、誰も触れられない。
いや――触れたくなかったのかもしれない。
だが、その静寂を破るように、Coe.はついに立ち上がった。
「……僕は、もう限界だ」
深夜のスタジオ、静まり返った空間で、Coe.はぽつりと呟いた。
目の前にいるのは、こったろとくに。
「Reluさんがいなくなってから、何もかもが停滞してる。動画の投稿も止まってるし、ファンからも毎日問い合わせが来てる。でもそれ以上に、僕……あいつのことが、ずっと心配なんだ」
くには、顎に手を当てていた。
「……連絡、返ってこないんだよな。既読すらつかない。いきなり、あんなひどいこと言って姿を消して、それっきりって……。普通じゃないだろ」
こったろは眉を下げたまま、小さく頷いた。
「れるちがいないと、どこか体の一部がなくなったみたいなんだ。何をやっても楽しくない……。言葉も、歌も、響かない」
Coe.はスマホを手に取り、画面を見せた。
そこには、以前のReluの投稿。
その場所は、確かに見覚えがある――。
「この背景、たぶん、郊外の山の方だと思う。僕、昔旅行で行ったことがあるんだ。確か、近くに静かなペンション街があった。藍って人が、そこに住んでるって聞いたことがある」
「藍……?」
「Reluさんの過去の配信に、一回だけ名前が出てた。すごく落ち込んでた時に、“あいつだけは助けてくれた”って」
こったろが息を呑んだ。
「もしかして……れるち、今、そこに?」
「わからない。でも、行ってみる価値はある」
くにがすっと立ち上がる。
「……行こう。黙って待ってるだけなんて、もう嫌だ」
Coe.は頷いた。
「Reluさんが何を隠してるのか、何を考えてるのか。ちゃんと、僕たちが聞かなきゃいけないと思うんだ。あいつの口から、全部」
それぞれの心に、Reluへの想いが膨れ上がっていく。
冷たく突き放されたあの言葉たちは、どうしても「嘘」にしか思えなかった。
「嫌いになんて、なれるわけないだろ……」
くにの言葉が、夜のスタジオにこだました。
その頃。
Reluは、藍の部屋のベランダから遠くの空を眺めていた。
秋が深まり、冷たい風が肌を刺す。
「……そろそろ、来るかもな」
「なにが?」
隣にいた藍が問いかけると、Reluは口角だけで笑った。
「過去や」
「きっと、もうすぐ――俺を、迎えに来る」
Reluの声は、風に混じって遠くへ消えた。
だが、その胸の内では、逃げることも、隠すことも、もう限界だと――どこかで悟っていた。
ーーーーーーーー
Reluが朝早く目を覚ましたとき、藍はすでにキッチンで朝食の支度をしていた。
湯気の立つ味噌汁の匂いが、優しく鼻腔をくすぐる。
それは、どこか懐かしい匂いだった。
Reluは寝ぼけた声で呟いた。
「……藍、よう起きとるな」
「君の咳が聞こえたから。熱はない?」
「んー、ちょっとだるいくらいや」
「今日はゆっくり休もう。昨日の夜、眠れてなかっただろ」
Reluは答えず、ソファに腰を下ろす。
まるで――嵐の前の静けさのような朝だった。
その同じ頃。
北海道の郊外にあるバス停に、一台のタクシーが停まった。
中から降りてきたのは、Coe.、くに、そしてこったろ。
「……本当に、このあたりなんだね?」
Coe.が確認するように言うと、くにが頷いた。
「藍って人、近くで小さな本屋をやってるらしい。情報、合ってればの話だけど……」
「行ってみる価値はあるさ」
こったろが、冷たい風に襟を立てながら静かに答えた。
彼らの目には、はっきりとした決意があった。
Reluと藍の過ごす静かな町。
その入り口に、確かに「過去」が到着しようとしていた。
***
昼下がり。
Reluは、体調が落ち着いてきたのを感じて、ふらりと外へ出た。
マスクをして、ニット帽を深く被る。
藍は少し心配そうな顔をしたが、「近所一周くらいなら」と送り出してくれた。
Reluは足取りも軽く、小さな雑木林の遊歩道を歩いた。
吐く息は白く、遠くには子供たちの遊ぶ声が聞こえる。
――その時だった。
「……Relu?」
背後から聞こえたその声は、夢のように懐かしかった。
Reluはその場に立ち尽くす。
「……なんで……」
ゆっくり振り返ると、そこには――Coe.、くに、こったろの三人がいた。
「本当に……いたんだね」
Coe.の目が、潤んでいた。
Reluは思わず顔を背け、帽子を深くかぶった。
「なんで……来たんや」
「そっちこそ、なんで黙っていなくなったんだよ!」
くにが珍しく声を荒げた。
「ひどいこと、いっぱい言って……全部、嘘だったのかよ……!」
Reluは、ぎゅっと拳を握る。
だが、言葉が出てこない。
なにかを喉に詰まらせたように、ただ黙っていた。
「……帰れや」
ようやく絞り出した言葉は、それだけだった。
「俺のことはもうええ。関係ないやろ」
「関係なくなんて、あるわけない!」
Coe.が声を上げる。
「僕たちは……“すたぽら”は、ずっと一緒だったじゃないか!」
Reluは、ゆっくりと三人の顔を見た。
その表情に、嘘はなかった。
ただ、会いたくて。
ただ、戻ってきてほしくて。
その一心で、ここまで来たのだ。
Reluの喉が震える。
だが、次の瞬間――
「Relu!」
背後から、もう一つの声が飛んだ。
藍だった。
Reluを探して駆けつけた藍が、彼の隣に立ち、三人を見据える。
「君たちは……Reluの仲間だね」
Coe.たちは頷く。
「Reluは、今とても不安定だ。戻るには、まだ少し時間が必要なんだ。だから――今日は、帰ってほしい」
くにが、歯を食いしばる。
「帰れないよ……こんな状態で、帰れるわけないだろ……!」
こったろも、藍をまっすぐ見つめた。
「れるちは、僕たちの大切な仲間なんだ。奪いにきたわけじゃない。ただ、もう一度……話がしたいんだ」
Reluが小さく声を出した。
「……もう、ええ。俺が言う」
藍を制するように前へ出ると、Reluは三人の前に立った。
風が、帽子を揺らす。
Reluの目は、真っ直ぐだった。
「……俺、余命、半年って言われた」
静寂が降りた。
三人の顔から、一瞬で血の気が引いた。
「え……?」
「うそ、だろ……」
「Relu……」
Reluは、目を伏せながら続ける。
「だから、みんなには嫌われたかった。悲しんでほしくなかった。俺が死んでも、“あいつは最低なやつやったな”って思ってほしかった。そしたら、楽やと思ったんや……」
でも、とReluは続けた。
「……無理やった。藍だけは、最後まで俺を見捨ててくれんかった。俺を……人として見てくれた」
藍はReluの肩に手を置いた。
「だからこそ、今、君がこうして立っていられる。ね?」
三人は、言葉を失ったまま、Reluを見つめていた。
その目には、涙が溜まっていた。
Reluは、少しだけ笑った。
「……会えて、嬉しかった。ほんまに、ありがとうな」
そして、静かにこう言った。
「でも、帰ってくれ。俺は、ここに残る」
静まり返った空気の中で、Reluの「帰ってくれ」という言葉は、痛いほどの重みをもって三人に突き刺さっていた。
「本気で、そう思ってるの?」
Coe.の声が、風に混じって届く。
それは震えていた。
Reluは、目を伏せたまま答えなかった。
「Reluさん……本当に、僕たちには頼らないで、一人で死ぬつもりなの?」
「ちゃうよ」
Reluは静かに言った。
「俺は……もう、独りちゃう。藍が、ここにおる。こいつは、俺の全部を知ってて、そんで見捨てへんかった。……最後まで、一緒にいてくれるって、言うてくれた」
藍はそっと頷いた。
その目は、まっすぐだった。
「君たちのReluは、もう“孤独”じゃない。僕がいる。君たちが大切にしてきたものを、僕なりに守りたいと思ってる」
くにが、拳を握る音が聞こえた。
「……それでも、俺は納得できねぇよ。れるちが死ぬって、わかってて……何もできないなんて、嫌だ……!」
こったろも静かに口を開く。
「僕ら、家族以上の存在だったはずだ。最後に一緒に音を重ねることもできないまま終わるなんて……そんなの、辛すぎるよ」
Reluの目が、揺れる。
それでも、彼は一歩踏み出し、三人と距離を取るようにして言った。
「なぁ……わかってや。俺は、みんなの未来を壊したくないだけや。俺が死ぬってことに縛られて、生きてほしくない。すたぽらは、俺がおらんでも、続くやろ? それでええねん」
Coe.の唇が、きゅっと引き結ばれる。
「……Reluさん。僕は、そんなに強くないよ。君がいなくなって、僕は“笑って進む”なんてできない。だけど……君の願いを踏みにじるのも、違うって思う」
Reluは、小さく息を飲んだ。
Coe.の涙はこぼれ落ちそうで、でも、決して崩れなかった。
「……だから、約束して。Reluさん。僕たちに会いに来るって」
Reluは目を見開く。
「“また会おう”って言ってよ。そうじゃなきゃ、僕たち前に進めない」
Reluの口元が、かすかに歪む。
「……バカやな、Coe.は。ほんま、昔っから変わらん」
そして――絞り出すように言った。
「……また会おう。約束や」
その言葉が出た瞬間、三人の表情が涙に滲んだ。
くには鼻をすすり、こったろは小さく微笑み、Coe.は目を伏せて肩を震わせた。
Reluは、三人に背を向けた。
藍が、その横に寄り添う。
「さぁ、帰ろう。体、冷える」
「あぁ……せやな」
足音は、遠ざかっていく。
三人はその背中を、ただじっと見送っていた。
***
夜――。
静かな部屋に、二人の影だけが落ちている。
Reluは、毛布を肩までかけて、ソファに横たわっていた。
藍は隣の椅子に座り、温かいハーブティーをそっと差し出す。
「ありがと」
「飲めそう?」
「うん、あったかい」
しばらく沈黙が続いた後、Reluがぽつりと呟いた。
「……俺、ようやく言えたわ。ほんまは、ずっと怖かってん。みんなに嫌われるのも、本音を言うのも……全部怖かった」
藍は、静かに答える。
「でも、君は言えた。きっとそれだけで、今日という日は価値がある」
Reluは、ふっと笑った。
「……藍がおらんかったら、絶対無理やった」
「僕は、君を支えるって決めたからね。最期の瞬間まで、絶対に君の隣にいる」
「……なぁ、藍」
「ん?」
Reluは、藍のほうを見つめた。
その目は、少し赤く、けれどもどこか澄んでいた。
「俺、怖いわ。でも、もうちょっと……生きていたいな」
藍は微笑み、そっとReluの手を握った。
「生きよう。最後まで、君の“声”を大切にしよう」
そして、その夜――Reluは深く、深く眠った。
まるで、安らぎを知ったような静かな寝息を立てながら。
