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Reluが藍の部屋に戻ってきたのは、夜も深くなってからだった。
カフェでの再会の余韻が、身体の奥にまだ残っている。
「……あいつら、泣きすぎやろ」
ベッドに腰を下ろし、フードを脱いだReluは、小さく苦笑する。
その声には、どこか安心したような色が混じっていた。
藍は、湯を沸かしながら言った。
「泣くに決まってるよ。……好きな人が、何も言わずに消えようとしてたんだから」
「……そんなん、余計に苦しいやんけ」
「苦しいから、逃げたんだろ?」
その言葉に、Reluは返せなかった。
沈黙が部屋に落ちる。
やがて、湯気の立つカップをふたりの間に置いて、藍はゆっくり座る。
「ねえ、Relu」
「ん?」
「……怖いか?」
Reluはカップを見つめたまま、少しだけ間を置いて答える。
「怖いに決まっとるやろ。毎晩、眠るたびに『もう目ぇ覚めんのちゃうか』って思ってんねん」
「朝起きて、息しとったら……『あぁ、また生きとるわ』って思うんやで。そんな毎日、どこが平気そうに見えるんや」
「……うん。ごめん」
「いや、ええねん」
Reluは、カップを手に取ると、ゆっくり一口飲んだ。
その喉の動きすら、どこか儚い。
「藍」
「うん?」
「俺さ、生きてて良かったって思いたいんや」
その言葉に、藍のまぶたがわずかに揺れる。
Reluは続ける。
「今まで、音楽で救われたって言うファンいっぱいおった。せやけど、俺自身は救われへんかったんや。自分の命が、誰かの役に立つならええって、ずっと思ってた」
「……」
「せやけど、今日、あいつらに会って……藍と話してて、思ったわ。俺、自分の命、ちゃんと自分のために使いたいって」
「自分の最後の時間を、悔いなく、笑って過ごしたいって」
藍は、頷いた。
「Relu。……君が笑ってくれるなら、俺はなんでもするよ」
「……頼もしいやっちゃな」
Reluの唇が、ほんの少し緩んだ。
それは、病と戦う男が見せた、確かな“生”の証だった。
その夜、Reluは眠った。深く、穏やかに。
藍はその寝顔を見つめながら、静かに心に誓った。
「……君が、君でいられる時間を、絶対に守る」
――窓の外、夜は静かに深まっていく。
やがて訪れる“終わり”を知りながら、それでも今だけは、音のない平穏に包まれていた。
ーーーーーーー
午前10時、まだ空気に少し肌寒さの残る札幌の街。
Reluは、藍の隣でゆっくりと歩いていた。
帽子にマスク、フードに覆われた姿は、病気を隠すためではなく、もはや彼の「生きるための装備」だった。
向かう先は、藍が用意した簡易レコーディングブースのあるスタジオ――
マンションの一室を改装した、外部に一切公開されていない場所だ。
「……ほんまに、こんなんでええんか?」
Reluは不安げに藍を見た。
「大丈夫。プロに頼んで防音処理もしてあるし、機材もちゃんと揃ってる。Reluが集中できるように考えてるから」
「……藍って、やっぱ変に頼れるやつやな」
Reluが口元を緩めた。
その笑顔に藍は目を細める。
「ほめ言葉として受け取っておくよ」
中に入り、機材の電源を入れる音が響く。
パソコンのディスプレイが起動し、マイクがスタンバイ状態になる。
Reluは、自分のノートを取り出した。
そこにはびっしりと、文字と譜割り、コード進行が書き込まれている。
「曲名、決めたの?」
藍が尋ねる。
Reluはしばらく沈黙してから、小さく呟いた。
「“夜を越えて”や」
藍は微かに息を呑んだ。
「……綺麗な名前だな」
「せやろ。俺に残された“夜”を、どうやって越えていくんかって……考えたら、自然に出てきた」
Reluはノートをそっと閉じ、ブースの中へ入った。
マイクの前に立つ姿は、弱さではなく、確かな意志に満ちていた。
「録るよ」
藍は頷き、キーボードに手を置く。
「いつでも」
ヘッドホン越しに聴こえるカウント。
Reluは一息吸って――静かに、歌い始めた。
♬ ふれることも 見つめることも
許されない夜を越えて
君の手のひらに落ちた 涙が
誰かの光になりますように ♬
声は、やや掠れていた。
けれど、それがむしろ“生々しさ”を際立たせていた。
Reluの音は、痛みを孕みながらも、強く美しかった。
まるで、それが“最後の音”であると理解しているかのように――。
歌い終えた瞬間、ブースの中に沈黙が訪れる。
Reluはマイクから目を逸らし、天井を見上げた。
「……録れたか?」
「……完璧だったよ」
藍の声が震えていた。
録音された音を何度も確認するように画面を見つめている。
Reluはふっと笑った。
「これで、……ひとつ、悔いが消えたわ」
その日の帰り道。
藍は小さな提案をする。
「この曲、……“すたぽら”で歌ってもいいと思う?」
Reluは一瞬驚いた表情を見せて、笑った。
「……ほんま、藍はえげつないとこ突いてくるなぁ」
「だって、Reluの声だけじゃない。みんなの声も、この曲に混ざれば、きっともっと……生き続けるよ。Reluの“音”が」
Reluは、空を見上げた。
雲の切れ間から陽が差し込み、街がやわらかく照らされていた。
「考えとくわ」
その声は、小さく優しかった。
ーーーーーー
「……僕、なにやってるんだろう」
札幌の中心街から少し離れたマンションの一室。
そこは、すたぽらメンバーの拠点とも呼べる、共有の作業スペースだ。
デスクの前に座るCoe.は、手にしていたマグカップを静かに机に置いた。
目の前のパソコン画面には、進まない作業データと未完成の歌詞だけが虚しく映っている。
Reluが姿を消してから、数週間。
いまだに誰も、彼がどこにいるのかを知らない。
連絡も、返事も、何もない。
ただ――残されたのは、唐突な「断絶」だけ。
「連絡、またダメだったの?」
背後から、こったろの声がした。
彼はいつも通り穏やかな表情をしていたが、その目の奥にはかすかな不安の色が見えていた。
Coe.は、小さく首を振る。
「……ブロックされてるんだと思う。LINEも、SNSも、メールも、全部」
「……そうか」
しばしの沈黙のあと、くにとゆうも部屋に入ってくる。
それぞれ、気まずそうに目を伏せた。
「なあ、こないだの配信のとき……ファンからも、れるちのことたくさん聞かれて……どうしていいか、わかんなかったんだよ」
くにが正直に漏らす。
「ゆさんも、泣きそうになっちゃった……」
ゆうが小声で呟いた。
Coe.は、堪えていた感情が崩れそうになるのを、ギリギリで押し留めていた。
「僕さ、リーダーだよね」
「……え?」
「……なのに、何も守れてない。Reluさんのことも、グループも、みんなの不安も……全部、放ってるだけ」
Coe.の声が震える。
「リーダーとして、何かできることがあるはずなのに、何も思いつかなくて……どうして、僕じゃ……」
言葉は途中で途切れた。
気づけば、Coe.の目からは涙がこぼれていた。
「……どうして、僕じゃダメなんだろう……っ」
その言葉に、メンバー全員が言葉を失う。
沈黙の中、ゆうがそっとCoe.の背に手を置いた。
「ゆさん、知ってるよ。Coe.くんがどれだけ、れるちのこと、大事に思ってるか」
「そうだよ、俺たち全員、同じ気持ちだよ。……でも、れるちは、ひとりで何かを抱えようとしてる。きっと、すごく重たい“何か”を」
くにが静かに言う。
こったろも、珍しく強い目で言葉を続けた。
「れるちが戻ってくる場所を、ちゃんと残しておくのが、今の俺たちの仕事じゃないかな」
Coe.は、顔を伏せたまま、ただ頷いた。
涙の雫が、静かにデスクを濡らしていく。
Reluがいないすたぽらは、何かが欠けている。
でも――それでも、残された者たちは、懸命に立ち続けようとしていた。
彼が、帰ってこられる日まで。
ーーーーーーーー
その日、Reluはひとりで外に出た。
藍には何も告げず、静かにドアを閉めて。
向かったのは、札幌駅近くのカフェ。そこに、事前に連絡を送った相手が来る予定だった。
その人物の名は――くに。
「おう、れるち! まじで生きてたんかよ!」
くには駆け寄ってきた。心から嬉しそうな笑顔だった。
Reluは椅子に座ったまま、表情を変えずにくにを見上げる。
「……悪いな、呼び出して」
「いや、全然いいって! てか、お前どこ行ってたんだよ。みんなめっちゃ心配して――」
「うるさい」
くにの言葉を、Reluは一刀両断した。
その声音には一片の感情もなく、ただ冷たく乾いていた。
「お前さ、前から思ってたけど、ホンマにうるさいんよ」
「……は?」
くにの顔が一瞬で曇る。
「何が“みんな心配してる”や。俺のことなんか、結局お前ら全員、コンテンツとしてしか見てへんくせに」
「……なに言って――」
「歌もラップも、全部“すたぽらのRelu”としてしか見とらん。俺がいなきゃ回らんとでも思ってんのちゃうん?」
Reluは吐き捨てるように言った。
目を見ていない。どこか遠くを見ていた。
「……ふざけんなよ」
くには立ち上がった。拳を握りしめて、唇を噛む。
「俺は……俺たちは、お前が大事だから、会いに来たんだよ!」
「ほら、それや。だからあかんのや」
Reluが微かに笑う。冷笑だった。
「お前が“俺のことを大事”やと思ってくれるうちは、俺はお前らの前に現れられへん」
くにの拳が震える。
「なあれるち、本当のこと言ってくれよ。何があったんだよ、どうして……」
Reluは立ち上がり、財布から小銭を置いた。
「二度と俺に関わるな。……ええな?」
それだけを言い残して、彼は店を出た。
外に出たReluは、少し離れた場所の影に立っていた藍と目を合わせた。
藍は黙って見ていた。
Reluの冷酷な言葉も、硬い表情も、すべて見ていた。
「……やりすぎたと思う?」
Reluがぽつりと聞く。
藍は小さく首を横に振った。
「Reluが、“そうしなきゃいけない”って思ったなら、それでいい。ただ……」
「ただ?」
「Reluの心が壊れる前に、俺には頼って。俺は、どんな君でも味方だから」
Reluは、はじめてその日、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「……優しいやつやな、お前は。ほんま、ずるいくらいに」
「ずるくてもいいよ。俺だけは、君に“本当”を望むから」
Reluは俯いたまま、ポケットに手を入れた。
その中には、薬の瓶がある。病院から処方された、強めの鎮痛剤。
「――あと、何人に嘘つけばええんやろな」
「Reluが“いなくなる”日までに、必要なぶんだけでいい」
その日、Reluはくにと決別した。
本当は――泣きたくなるほど、つらかった。
でも、それでも彼は“仲間”を守るために、嫌われる道を選んだ。
カフェでの再会の余韻が、身体の奥にまだ残っている。
「……あいつら、泣きすぎやろ」
ベッドに腰を下ろし、フードを脱いだReluは、小さく苦笑する。
その声には、どこか安心したような色が混じっていた。
藍は、湯を沸かしながら言った。
「泣くに決まってるよ。……好きな人が、何も言わずに消えようとしてたんだから」
「……そんなん、余計に苦しいやんけ」
「苦しいから、逃げたんだろ?」
その言葉に、Reluは返せなかった。
沈黙が部屋に落ちる。
やがて、湯気の立つカップをふたりの間に置いて、藍はゆっくり座る。
「ねえ、Relu」
「ん?」
「……怖いか?」
Reluはカップを見つめたまま、少しだけ間を置いて答える。
「怖いに決まっとるやろ。毎晩、眠るたびに『もう目ぇ覚めんのちゃうか』って思ってんねん」
「朝起きて、息しとったら……『あぁ、また生きとるわ』って思うんやで。そんな毎日、どこが平気そうに見えるんや」
「……うん。ごめん」
「いや、ええねん」
Reluは、カップを手に取ると、ゆっくり一口飲んだ。
その喉の動きすら、どこか儚い。
「藍」
「うん?」
「俺さ、生きてて良かったって思いたいんや」
その言葉に、藍のまぶたがわずかに揺れる。
Reluは続ける。
「今まで、音楽で救われたって言うファンいっぱいおった。せやけど、俺自身は救われへんかったんや。自分の命が、誰かの役に立つならええって、ずっと思ってた」
「……」
「せやけど、今日、あいつらに会って……藍と話してて、思ったわ。俺、自分の命、ちゃんと自分のために使いたいって」
「自分の最後の時間を、悔いなく、笑って過ごしたいって」
藍は、頷いた。
「Relu。……君が笑ってくれるなら、俺はなんでもするよ」
「……頼もしいやっちゃな」
Reluの唇が、ほんの少し緩んだ。
それは、病と戦う男が見せた、確かな“生”の証だった。
その夜、Reluは眠った。深く、穏やかに。
藍はその寝顔を見つめながら、静かに心に誓った。
「……君が、君でいられる時間を、絶対に守る」
――窓の外、夜は静かに深まっていく。
やがて訪れる“終わり”を知りながら、それでも今だけは、音のない平穏に包まれていた。
ーーーーーーー
午前10時、まだ空気に少し肌寒さの残る札幌の街。
Reluは、藍の隣でゆっくりと歩いていた。
帽子にマスク、フードに覆われた姿は、病気を隠すためではなく、もはや彼の「生きるための装備」だった。
向かう先は、藍が用意した簡易レコーディングブースのあるスタジオ――
マンションの一室を改装した、外部に一切公開されていない場所だ。
「……ほんまに、こんなんでええんか?」
Reluは不安げに藍を見た。
「大丈夫。プロに頼んで防音処理もしてあるし、機材もちゃんと揃ってる。Reluが集中できるように考えてるから」
「……藍って、やっぱ変に頼れるやつやな」
Reluが口元を緩めた。
その笑顔に藍は目を細める。
「ほめ言葉として受け取っておくよ」
中に入り、機材の電源を入れる音が響く。
パソコンのディスプレイが起動し、マイクがスタンバイ状態になる。
Reluは、自分のノートを取り出した。
そこにはびっしりと、文字と譜割り、コード進行が書き込まれている。
「曲名、決めたの?」
藍が尋ねる。
Reluはしばらく沈黙してから、小さく呟いた。
「“夜を越えて”や」
藍は微かに息を呑んだ。
「……綺麗な名前だな」
「せやろ。俺に残された“夜”を、どうやって越えていくんかって……考えたら、自然に出てきた」
Reluはノートをそっと閉じ、ブースの中へ入った。
マイクの前に立つ姿は、弱さではなく、確かな意志に満ちていた。
「録るよ」
藍は頷き、キーボードに手を置く。
「いつでも」
ヘッドホン越しに聴こえるカウント。
Reluは一息吸って――静かに、歌い始めた。
♬ ふれることも 見つめることも
許されない夜を越えて
君の手のひらに落ちた 涙が
誰かの光になりますように ♬
声は、やや掠れていた。
けれど、それがむしろ“生々しさ”を際立たせていた。
Reluの音は、痛みを孕みながらも、強く美しかった。
まるで、それが“最後の音”であると理解しているかのように――。
歌い終えた瞬間、ブースの中に沈黙が訪れる。
Reluはマイクから目を逸らし、天井を見上げた。
「……録れたか?」
「……完璧だったよ」
藍の声が震えていた。
録音された音を何度も確認するように画面を見つめている。
Reluはふっと笑った。
「これで、……ひとつ、悔いが消えたわ」
その日の帰り道。
藍は小さな提案をする。
「この曲、……“すたぽら”で歌ってもいいと思う?」
Reluは一瞬驚いた表情を見せて、笑った。
「……ほんま、藍はえげつないとこ突いてくるなぁ」
「だって、Reluの声だけじゃない。みんなの声も、この曲に混ざれば、きっともっと……生き続けるよ。Reluの“音”が」
Reluは、空を見上げた。
雲の切れ間から陽が差し込み、街がやわらかく照らされていた。
「考えとくわ」
その声は、小さく優しかった。
ーーーーーー
「……僕、なにやってるんだろう」
札幌の中心街から少し離れたマンションの一室。
そこは、すたぽらメンバーの拠点とも呼べる、共有の作業スペースだ。
デスクの前に座るCoe.は、手にしていたマグカップを静かに机に置いた。
目の前のパソコン画面には、進まない作業データと未完成の歌詞だけが虚しく映っている。
Reluが姿を消してから、数週間。
いまだに誰も、彼がどこにいるのかを知らない。
連絡も、返事も、何もない。
ただ――残されたのは、唐突な「断絶」だけ。
「連絡、またダメだったの?」
背後から、こったろの声がした。
彼はいつも通り穏やかな表情をしていたが、その目の奥にはかすかな不安の色が見えていた。
Coe.は、小さく首を振る。
「……ブロックされてるんだと思う。LINEも、SNSも、メールも、全部」
「……そうか」
しばしの沈黙のあと、くにとゆうも部屋に入ってくる。
それぞれ、気まずそうに目を伏せた。
「なあ、こないだの配信のとき……ファンからも、れるちのことたくさん聞かれて……どうしていいか、わかんなかったんだよ」
くにが正直に漏らす。
「ゆさんも、泣きそうになっちゃった……」
ゆうが小声で呟いた。
Coe.は、堪えていた感情が崩れそうになるのを、ギリギリで押し留めていた。
「僕さ、リーダーだよね」
「……え?」
「……なのに、何も守れてない。Reluさんのことも、グループも、みんなの不安も……全部、放ってるだけ」
Coe.の声が震える。
「リーダーとして、何かできることがあるはずなのに、何も思いつかなくて……どうして、僕じゃ……」
言葉は途中で途切れた。
気づけば、Coe.の目からは涙がこぼれていた。
「……どうして、僕じゃダメなんだろう……っ」
その言葉に、メンバー全員が言葉を失う。
沈黙の中、ゆうがそっとCoe.の背に手を置いた。
「ゆさん、知ってるよ。Coe.くんがどれだけ、れるちのこと、大事に思ってるか」
「そうだよ、俺たち全員、同じ気持ちだよ。……でも、れるちは、ひとりで何かを抱えようとしてる。きっと、すごく重たい“何か”を」
くにが静かに言う。
こったろも、珍しく強い目で言葉を続けた。
「れるちが戻ってくる場所を、ちゃんと残しておくのが、今の俺たちの仕事じゃないかな」
Coe.は、顔を伏せたまま、ただ頷いた。
涙の雫が、静かにデスクを濡らしていく。
Reluがいないすたぽらは、何かが欠けている。
でも――それでも、残された者たちは、懸命に立ち続けようとしていた。
彼が、帰ってこられる日まで。
ーーーーーーーー
その日、Reluはひとりで外に出た。
藍には何も告げず、静かにドアを閉めて。
向かったのは、札幌駅近くのカフェ。そこに、事前に連絡を送った相手が来る予定だった。
その人物の名は――くに。
「おう、れるち! まじで生きてたんかよ!」
くには駆け寄ってきた。心から嬉しそうな笑顔だった。
Reluは椅子に座ったまま、表情を変えずにくにを見上げる。
「……悪いな、呼び出して」
「いや、全然いいって! てか、お前どこ行ってたんだよ。みんなめっちゃ心配して――」
「うるさい」
くにの言葉を、Reluは一刀両断した。
その声音には一片の感情もなく、ただ冷たく乾いていた。
「お前さ、前から思ってたけど、ホンマにうるさいんよ」
「……は?」
くにの顔が一瞬で曇る。
「何が“みんな心配してる”や。俺のことなんか、結局お前ら全員、コンテンツとしてしか見てへんくせに」
「……なに言って――」
「歌もラップも、全部“すたぽらのRelu”としてしか見とらん。俺がいなきゃ回らんとでも思ってんのちゃうん?」
Reluは吐き捨てるように言った。
目を見ていない。どこか遠くを見ていた。
「……ふざけんなよ」
くには立ち上がった。拳を握りしめて、唇を噛む。
「俺は……俺たちは、お前が大事だから、会いに来たんだよ!」
「ほら、それや。だからあかんのや」
Reluが微かに笑う。冷笑だった。
「お前が“俺のことを大事”やと思ってくれるうちは、俺はお前らの前に現れられへん」
くにの拳が震える。
「なあれるち、本当のこと言ってくれよ。何があったんだよ、どうして……」
Reluは立ち上がり、財布から小銭を置いた。
「二度と俺に関わるな。……ええな?」
それだけを言い残して、彼は店を出た。
外に出たReluは、少し離れた場所の影に立っていた藍と目を合わせた。
藍は黙って見ていた。
Reluの冷酷な言葉も、硬い表情も、すべて見ていた。
「……やりすぎたと思う?」
Reluがぽつりと聞く。
藍は小さく首を横に振った。
「Reluが、“そうしなきゃいけない”って思ったなら、それでいい。ただ……」
「ただ?」
「Reluの心が壊れる前に、俺には頼って。俺は、どんな君でも味方だから」
Reluは、はじめてその日、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「……優しいやつやな、お前は。ほんま、ずるいくらいに」
「ずるくてもいいよ。俺だけは、君に“本当”を望むから」
Reluは俯いたまま、ポケットに手を入れた。
その中には、薬の瓶がある。病院から処方された、強めの鎮痛剤。
「――あと、何人に嘘つけばええんやろな」
「Reluが“いなくなる”日までに、必要なぶんだけでいい」
その日、Reluはくにと決別した。
本当は――泣きたくなるほど、つらかった。
でも、それでも彼は“仲間”を守るために、嫌われる道を選んだ。
