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「……藍、ちょっと、距離置いてくれへん?」
Reluの言葉は、思ったよりも冷たくて、刃みたいだった。
「ん?」
藍はキッチンから顔を出し、コーヒーを持ってきたばかりだった。温かい香りが部屋にふわっと広がる。でもReluは、それすらも鬱陶しげに目を細めた。
「その、……気ぃ遣われんの、ムカつくねん」
「そうか……ごめん。でも、病院で言われたじゃん。水分取らないと身体に──」
「うっさいって言うてるやろ」
Reluの声が跳ねた。
いつもなら抑えていた語気が、今日は鋭く突き刺さる。
「お前の“正しさ”とか、もう聞きたないねん。ほっとけや」
藍は、手にしたカップをテーブルにそっと置いた。
「わかった。でも、Reluが一人になりたいなら、俺はリビングにいるよ。ここは君の部屋だから」
「……好きにせえや」
冷たく言い放ち、Reluはベッドに寝転がった。
背中を向けて、スマホを取り出す。
──通知ゼロ。
未読のまま放っているグループLINEの画面が、心にのしかかる。
既読すらつけられない自分が、情けなくて、悔しくて、誰よりも自分を嫌っていた。
(誰も悪くない。せやから……せやから、自分が悪になったらええ)
藍の優しさが、なおさら苦しかった。
ーーーーーーーー
「れるちに、連絡ついた?」
こったろの声がグループ通話に響いた。
メンバー全員がそれぞれの部屋から接続していたが、その空気は重たかった。
「いや、既読すらつかない」
Coe.が俯いたまま言う。
「……ゆさん、メッセージ送ったけど……スタンプも返ってこないの、初めて……」
くには少し唇を噛みながら、スマホを握りしめていた。
そのとき、ぽつりと音が鳴った。
──Reluからのメッセージ。
全員の手が一斉にスマホに伸びる。
『今さら何の用。どうせ俺のことなんか都合よく回してただけやろ』
『お前らの“仲間ごっこ”、もういらん』
『俺は一人でやる。邪魔すんな』
数行の言葉が、まるでナイフみたいに胸を裂いた。
「……っ、これ……れるちが……言ったの……?」
ゆうの目が潤み、声が震える。
「そんなわけ……ないでしょ……っ」
くにが拳を握りしめる。
「本当に、れるちなんか?」
こったろが絞り出すように呟いた。
そして、しばらくの沈黙のあと──
「……でも、これが現実なんだよね……」
Coe.の声は、限界まで抑えられた音だった。
ーーーーーーーー
「Relu、シャワー使っていいよ」
藍の声が、どこまでも柔らかい。
Reluは、ため息混じりに立ち上がった。
「……藍は、なんで怒らんの?」
「怒る理由、ないから」
「さっき、自分めっちゃ機嫌悪かったで? 普通なら怒鳴られてもおかしない」
藍はふっと笑った。
「Reluが無理してること、知ってるから」
その一言に、Reluは目を伏せた。
「──あいつらには、酷いこと言ったわ」
「うん。見てた。……すごく冷たい言葉だったね」
藍の言葉に、Reluは身構える。でも、そのあと続いた言葉に、心が緩んだ。
「でもさ、俺はそれが“助けて”っていう裏返しだって、わかってるつもり。だから、嫌わないよ」
Reluは、押し殺したように笑った。
「……やっぱお前、性格悪いわ」
「それ、褒め言葉って受け取っていい?」
「好きにせえ」
二人の間に流れる空気だけは、優しさがあった。
Reluが唯一、心を許せる場所──それが藍の隣だった。
――------
くには一人、Reluに会いに行く決意をした。
過去に何度か訪れたことのある、Reluの実家の近く。地元の知人を頼って探し、ようやく得た情報は、「数週間前に都会へ引っ越したらしい」というものだった。
その住所──届けられた荷物の控えから、どうにかReluの居場所が割れた。
「……れるち……!」
インターホンを押す。しばらくの沈黙。
そして扉の奥から、冷たい声が返ってきた。
「帰れ」
「……! 俺だよ!くに! お前に、会いにきたんだよ!」
「知らん。お前に関係ない」
「なんでよれるち! 俺ら、仲間でしょ!」
「──それがウザいって言うとんねん」
扉が開き、Reluの姿が現れた。
だがその顔は、昔のReluじゃなかった。
目の奥が、どこか諦めていて、攻撃的だった。
「なあ、くに。お前、俺の何を知っとんねん」
「……!」
「お前らは、俺が“すたぽら”やから好きやっただけや。ほんまの俺なんか、どうでもええやろ」
「ちがう!!」
「ほな、証明してみ? 余命宣告された人間に、どう接するん?」
「……え?」
一瞬、くにが言葉を失った。
「言うたら、“うわぁ……”ってなるんやろ。哀れんで、腫れ物扱いして、最後に泣くだけや」
「れるち、お前……」
「もう、そんなの見たないんや。……だから帰れ」
Reluは、無言でドアを閉めた。
くにの頬に、風が冷たく触れた。
ーーーーーーーー
「Relu、くにくん来てたね」
藍が、夜の静まり返った部屋でココアを差し出す。
Reluはカップを受け取りながら、ぼそっと呟く。
「……最悪や。あんなこと、言うつもりなかったのに」
「でも、言ったね」
「言わな、あいつら離れてくれへん」
Reluの手が震えていた。
「ほんまは……会いたかった。でも、会ったら泣くやろ。自分が」
「泣いていいよ」
藍の声は、まるで羽のように優しかった。
「誰にも見せられない涙、ここでは見せていいよ」
Reluの目に、ぽろりと雫が落ちる。
「……なんで、藍は逃げへんの」
「だって、俺は君を“助けたい”って思ったから。最初にそう決めた。……だから逃げない」
Reluは、自分でも気づかぬまま、藍のシャツの裾をぎゅっと握っていた。
その小さな動作に、藍は気づいていたけれど、何も言わず、そっと手を重ねた。
ーーーーーーー
「れるちに、……会いたいよぉ……っ」
ゆうの配信は、珍しく短く、言葉も乱れていた。
「なんで、……なんでこんなに遠くなっちゃったの……」
画面越しの視聴者たちも、コメントを止めていた。
「ゆさん、悪いことしたのかな……? 重かったのかな……? うざかったのかな……」
自分を責め続けるその姿に、リスナーたちも言葉を失った。
「れるち、帰ってきてよ……」
ぽつりと呟かれたその言葉は、配信を切ったあとも画面の奥に残り続けた。
ーーーーーーーー
数日後。こったろは、Reluの元に直接会いに行った。
事前にくにから住所を聞いていた。ドアをノックする手は震えていたが、それ以上に「見捨てたくない」という気持ちが勝っていた。
──ガチャッ。
ドアが開くと、Reluが現れた。相変わらずやつれた顔。だが、その目つきは鋭かった。
「……お前も来たんか。しつこいな」
「……なあ、れるち。今何が起きてるんだよ。お前が言ってること、全部嘘だろ」
「なんのことや?」
「“仲間ごっこはいらん”とか、“一人でやる”とか……そんなの、俺が知ってるれるちじゃねぇよ」
Reluは、鼻で笑った。
「“知ってるRelu”なんてお前の妄想や」
「違う!」
こったろが一歩、足を踏み出した。
「……俺たちさ、ずっと一緒に歌ってきたじゃん。お前の音、歌詞、全部わかってる。お前が、そんな簡単に切るような人間じゃないの、知ってる」
Reluの視線が、一瞬だけ揺れた。
だが──その直後、強く言い返す。
「せやからウザい言うてんねん。……そんな“知ったふうな顔”、マジで気持ち悪い」
こったろの顔が固まった。
「お前みたいな“何も失ったことない奴”に、俺の何がわかんねん」
「……!」
「俺はもう、全部終わらせたんや。これ以上、誰とも繋がりたない」
「れるち……」
「帰れ。俺の人生に、お前はいらん」
その言葉は、刃のように冷たかった。
こったろは、何も言えなくなって、その場を去った。
ーーーーーーー
「──また、突き放したんだね」
帰宅したReluを、藍が穏やかに迎えた。
Reluは、何も言わずにソファに沈み込んだ。
「……なあ、藍。俺、最低やろ」
「ううん。Reluは、優しい」
「どこがや」
「本当に冷たい人間は、“自分が最低かどうか”なんて、考えない」
Reluは、両手で顔を覆った。
「……俺、壊れてもうたかもな」
「壊れてもいいよ。俺の前では、無理に立たなくていい」
藍は、そっと隣に座り、手を差し伸べた。
Reluは、その手をぎゅっと握る。
「……ここにおると、自分が“死ぬ人間”やってこと、忘れそうになる」
「じゃあ、忘れてていい。いまは」
「そんなん、現実逃避やん」
「それでいいよ。今日くらい、逃げたって」
Reluは目を閉じて、深く呼吸した。
まるで、初めて本当に“生きている”と感じられた夜のようだった。
ーーーーーーー
「……Reluさんが、変わったわけじゃないと思う」
Coe.は、一人で動画を録った。
歌も演奏もない。ただの語りだった。
「言葉は、確かにきつかった。でも、それ以上にReluさんの中にある“何か”が、壊れてる気がした」
視聴者に向けるカメラの前で、涙を堪えていた。
「僕は……、Reluさんが戻ってくるまで、ずっと待ってる。どんなに嫌われても、僕は仲間でい続ける」
短い言葉だった。でも、その決意は強かった。
ーーーーーーー
ある朝、Reluはスプーンを落とした。
ただコーヒーをかき混ぜていただけだったのに、手の震えが止まらなかった。
「……っ、くそ……」
無意識に、机を強く叩く。
その音に驚いてやってきた藍が、心配そうに近づいた。
「Relu、大丈夫……?」
「……なんもない。寝起きやから手が冷えただけ」
「……」
嘘だということくらい、藍にはすぐにわかった。
だけど、問い詰めることはしない。
藍は黙って、自分の手をそっとReluの震える手に重ねた。
Reluは歯を噛みしめ、震えを止めようとするが──止まらなかった。
「……俺、もうすぐ動けんようになるんやろか」
「怖い?」
「当たり前や……。でも、それ以上に、誰にも知られんように生きることが、しんどい」
「……」
「藍、お願いがある」
「なに?」
Reluは、まっすぐに藍を見た。
「死ぬまで、俺の“味方”でいてくれ」
「もちろんだよ」
即答だった。
ーーーーーーーー
一方その頃。
すたぽらのグループチャットは、連絡が途絶えたままだった。
それでも、Coe.、くに、こったろ、ゆうは、どこかでReluを想い続けていた。
「なあ……最近のれるち、声のトーンが違くね?」
と、くにが口火を切った。
「わかる……。怒ってるっていうより、“感情がない”みたいで……怖い」
と、こったろ。
「ゆさん、れるちに嫌われるようなこと……したのかな……」
と、ゆうは相変わらず自責の渦にいた。
Coe.は、そのやりとりを見ながら、ぽつりと呟いた。
「……Reluさん、自分から距離を取ってる気がする」
全員が黙る。
Coe.が、続けた。
「僕、Reluさんの歌詞を読み返したんだ。“死”とか“終わり”とか、最近すごく多くて……あれ、ただの表現じゃない気がする」
「まさか……病気とか……?」
「……わからない。でも、Reluさんが何かを抱えてるのは、間違いない」
沈黙が落ちた。
それは、ただの想像にしては、あまりにも確信に近い“予感”だった。
ーーーーーーーー
Reluは、自室で一人、ベッドに横になっていた。
目を閉じると、すたぽらのメンバーの声が脳裏をよぎる。
Coe.の真面目さ、くにの笑い声、こったろの優しさ、ゆうの甘え声──全部が、遠ざかっていくようで、胸がきしんだ。
「……ほんまは、会いたいんや……」
呟いたその声は、誰にも届かない。
そのとき。
「Relu、まだ起きてる?」
藍の声が、ドアの向こうから優しく響いた。
「……起きてる」
「ココア、持ってきたよ」
藍は、そっとカップをReluに手渡すと、隣に座った。
「今日は、左足もちょっと変な感じがした」
Reluは小さく笑った。
「そろそろ、動けんようになる日も近いかもな」
「そうなったら、俺が車椅子押すよ」
「……そんなん、藍がやることちゃうやろ」
「Reluが生きてる間くらい、好きなこと全部して。俺が全部支えるから」
Reluの目に、また涙が浮かんだ。
「ほんま、藍だけやな。俺を見捨てへんの……」
「うん。俺は、君を見捨てない」
カップの中のココアは、少しずつ冷めていった。
だが、二人の間に流れる静かなぬくもりは、いつまでも消えなかった。
Reluの言葉は、思ったよりも冷たくて、刃みたいだった。
「ん?」
藍はキッチンから顔を出し、コーヒーを持ってきたばかりだった。温かい香りが部屋にふわっと広がる。でもReluは、それすらも鬱陶しげに目を細めた。
「その、……気ぃ遣われんの、ムカつくねん」
「そうか……ごめん。でも、病院で言われたじゃん。水分取らないと身体に──」
「うっさいって言うてるやろ」
Reluの声が跳ねた。
いつもなら抑えていた語気が、今日は鋭く突き刺さる。
「お前の“正しさ”とか、もう聞きたないねん。ほっとけや」
藍は、手にしたカップをテーブルにそっと置いた。
「わかった。でも、Reluが一人になりたいなら、俺はリビングにいるよ。ここは君の部屋だから」
「……好きにせえや」
冷たく言い放ち、Reluはベッドに寝転がった。
背中を向けて、スマホを取り出す。
──通知ゼロ。
未読のまま放っているグループLINEの画面が、心にのしかかる。
既読すらつけられない自分が、情けなくて、悔しくて、誰よりも自分を嫌っていた。
(誰も悪くない。せやから……せやから、自分が悪になったらええ)
藍の優しさが、なおさら苦しかった。
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「れるちに、連絡ついた?」
こったろの声がグループ通話に響いた。
メンバー全員がそれぞれの部屋から接続していたが、その空気は重たかった。
「いや、既読すらつかない」
Coe.が俯いたまま言う。
「……ゆさん、メッセージ送ったけど……スタンプも返ってこないの、初めて……」
くには少し唇を噛みながら、スマホを握りしめていた。
そのとき、ぽつりと音が鳴った。
──Reluからのメッセージ。
全員の手が一斉にスマホに伸びる。
『今さら何の用。どうせ俺のことなんか都合よく回してただけやろ』
『お前らの“仲間ごっこ”、もういらん』
『俺は一人でやる。邪魔すんな』
数行の言葉が、まるでナイフみたいに胸を裂いた。
「……っ、これ……れるちが……言ったの……?」
ゆうの目が潤み、声が震える。
「そんなわけ……ないでしょ……っ」
くにが拳を握りしめる。
「本当に、れるちなんか?」
こったろが絞り出すように呟いた。
そして、しばらくの沈黙のあと──
「……でも、これが現実なんだよね……」
Coe.の声は、限界まで抑えられた音だった。
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「Relu、シャワー使っていいよ」
藍の声が、どこまでも柔らかい。
Reluは、ため息混じりに立ち上がった。
「……藍は、なんで怒らんの?」
「怒る理由、ないから」
「さっき、自分めっちゃ機嫌悪かったで? 普通なら怒鳴られてもおかしない」
藍はふっと笑った。
「Reluが無理してること、知ってるから」
その一言に、Reluは目を伏せた。
「──あいつらには、酷いこと言ったわ」
「うん。見てた。……すごく冷たい言葉だったね」
藍の言葉に、Reluは身構える。でも、そのあと続いた言葉に、心が緩んだ。
「でもさ、俺はそれが“助けて”っていう裏返しだって、わかってるつもり。だから、嫌わないよ」
Reluは、押し殺したように笑った。
「……やっぱお前、性格悪いわ」
「それ、褒め言葉って受け取っていい?」
「好きにせえ」
二人の間に流れる空気だけは、優しさがあった。
Reluが唯一、心を許せる場所──それが藍の隣だった。
――------
くには一人、Reluに会いに行く決意をした。
過去に何度か訪れたことのある、Reluの実家の近く。地元の知人を頼って探し、ようやく得た情報は、「数週間前に都会へ引っ越したらしい」というものだった。
その住所──届けられた荷物の控えから、どうにかReluの居場所が割れた。
「……れるち……!」
インターホンを押す。しばらくの沈黙。
そして扉の奥から、冷たい声が返ってきた。
「帰れ」
「……! 俺だよ!くに! お前に、会いにきたんだよ!」
「知らん。お前に関係ない」
「なんでよれるち! 俺ら、仲間でしょ!」
「──それがウザいって言うとんねん」
扉が開き、Reluの姿が現れた。
だがその顔は、昔のReluじゃなかった。
目の奥が、どこか諦めていて、攻撃的だった。
「なあ、くに。お前、俺の何を知っとんねん」
「……!」
「お前らは、俺が“すたぽら”やから好きやっただけや。ほんまの俺なんか、どうでもええやろ」
「ちがう!!」
「ほな、証明してみ? 余命宣告された人間に、どう接するん?」
「……え?」
一瞬、くにが言葉を失った。
「言うたら、“うわぁ……”ってなるんやろ。哀れんで、腫れ物扱いして、最後に泣くだけや」
「れるち、お前……」
「もう、そんなの見たないんや。……だから帰れ」
Reluは、無言でドアを閉めた。
くにの頬に、風が冷たく触れた。
ーーーーーーーー
「Relu、くにくん来てたね」
藍が、夜の静まり返った部屋でココアを差し出す。
Reluはカップを受け取りながら、ぼそっと呟く。
「……最悪や。あんなこと、言うつもりなかったのに」
「でも、言ったね」
「言わな、あいつら離れてくれへん」
Reluの手が震えていた。
「ほんまは……会いたかった。でも、会ったら泣くやろ。自分が」
「泣いていいよ」
藍の声は、まるで羽のように優しかった。
「誰にも見せられない涙、ここでは見せていいよ」
Reluの目に、ぽろりと雫が落ちる。
「……なんで、藍は逃げへんの」
「だって、俺は君を“助けたい”って思ったから。最初にそう決めた。……だから逃げない」
Reluは、自分でも気づかぬまま、藍のシャツの裾をぎゅっと握っていた。
その小さな動作に、藍は気づいていたけれど、何も言わず、そっと手を重ねた。
ーーーーーーー
「れるちに、……会いたいよぉ……っ」
ゆうの配信は、珍しく短く、言葉も乱れていた。
「なんで、……なんでこんなに遠くなっちゃったの……」
画面越しの視聴者たちも、コメントを止めていた。
「ゆさん、悪いことしたのかな……? 重かったのかな……? うざかったのかな……」
自分を責め続けるその姿に、リスナーたちも言葉を失った。
「れるち、帰ってきてよ……」
ぽつりと呟かれたその言葉は、配信を切ったあとも画面の奥に残り続けた。
ーーーーーーーー
数日後。こったろは、Reluの元に直接会いに行った。
事前にくにから住所を聞いていた。ドアをノックする手は震えていたが、それ以上に「見捨てたくない」という気持ちが勝っていた。
──ガチャッ。
ドアが開くと、Reluが現れた。相変わらずやつれた顔。だが、その目つきは鋭かった。
「……お前も来たんか。しつこいな」
「……なあ、れるち。今何が起きてるんだよ。お前が言ってること、全部嘘だろ」
「なんのことや?」
「“仲間ごっこはいらん”とか、“一人でやる”とか……そんなの、俺が知ってるれるちじゃねぇよ」
Reluは、鼻で笑った。
「“知ってるRelu”なんてお前の妄想や」
「違う!」
こったろが一歩、足を踏み出した。
「……俺たちさ、ずっと一緒に歌ってきたじゃん。お前の音、歌詞、全部わかってる。お前が、そんな簡単に切るような人間じゃないの、知ってる」
Reluの視線が、一瞬だけ揺れた。
だが──その直後、強く言い返す。
「せやからウザい言うてんねん。……そんな“知ったふうな顔”、マジで気持ち悪い」
こったろの顔が固まった。
「お前みたいな“何も失ったことない奴”に、俺の何がわかんねん」
「……!」
「俺はもう、全部終わらせたんや。これ以上、誰とも繋がりたない」
「れるち……」
「帰れ。俺の人生に、お前はいらん」
その言葉は、刃のように冷たかった。
こったろは、何も言えなくなって、その場を去った。
ーーーーーーー
「──また、突き放したんだね」
帰宅したReluを、藍が穏やかに迎えた。
Reluは、何も言わずにソファに沈み込んだ。
「……なあ、藍。俺、最低やろ」
「ううん。Reluは、優しい」
「どこがや」
「本当に冷たい人間は、“自分が最低かどうか”なんて、考えない」
Reluは、両手で顔を覆った。
「……俺、壊れてもうたかもな」
「壊れてもいいよ。俺の前では、無理に立たなくていい」
藍は、そっと隣に座り、手を差し伸べた。
Reluは、その手をぎゅっと握る。
「……ここにおると、自分が“死ぬ人間”やってこと、忘れそうになる」
「じゃあ、忘れてていい。いまは」
「そんなん、現実逃避やん」
「それでいいよ。今日くらい、逃げたって」
Reluは目を閉じて、深く呼吸した。
まるで、初めて本当に“生きている”と感じられた夜のようだった。
ーーーーーーー
「……Reluさんが、変わったわけじゃないと思う」
Coe.は、一人で動画を録った。
歌も演奏もない。ただの語りだった。
「言葉は、確かにきつかった。でも、それ以上にReluさんの中にある“何か”が、壊れてる気がした」
視聴者に向けるカメラの前で、涙を堪えていた。
「僕は……、Reluさんが戻ってくるまで、ずっと待ってる。どんなに嫌われても、僕は仲間でい続ける」
短い言葉だった。でも、その決意は強かった。
ーーーーーーー
ある朝、Reluはスプーンを落とした。
ただコーヒーをかき混ぜていただけだったのに、手の震えが止まらなかった。
「……っ、くそ……」
無意識に、机を強く叩く。
その音に驚いてやってきた藍が、心配そうに近づいた。
「Relu、大丈夫……?」
「……なんもない。寝起きやから手が冷えただけ」
「……」
嘘だということくらい、藍にはすぐにわかった。
だけど、問い詰めることはしない。
藍は黙って、自分の手をそっとReluの震える手に重ねた。
Reluは歯を噛みしめ、震えを止めようとするが──止まらなかった。
「……俺、もうすぐ動けんようになるんやろか」
「怖い?」
「当たり前や……。でも、それ以上に、誰にも知られんように生きることが、しんどい」
「……」
「藍、お願いがある」
「なに?」
Reluは、まっすぐに藍を見た。
「死ぬまで、俺の“味方”でいてくれ」
「もちろんだよ」
即答だった。
ーーーーーーーー
一方その頃。
すたぽらのグループチャットは、連絡が途絶えたままだった。
それでも、Coe.、くに、こったろ、ゆうは、どこかでReluを想い続けていた。
「なあ……最近のれるち、声のトーンが違くね?」
と、くにが口火を切った。
「わかる……。怒ってるっていうより、“感情がない”みたいで……怖い」
と、こったろ。
「ゆさん、れるちに嫌われるようなこと……したのかな……」
と、ゆうは相変わらず自責の渦にいた。
Coe.は、そのやりとりを見ながら、ぽつりと呟いた。
「……Reluさん、自分から距離を取ってる気がする」
全員が黙る。
Coe.が、続けた。
「僕、Reluさんの歌詞を読み返したんだ。“死”とか“終わり”とか、最近すごく多くて……あれ、ただの表現じゃない気がする」
「まさか……病気とか……?」
「……わからない。でも、Reluさんが何かを抱えてるのは、間違いない」
沈黙が落ちた。
それは、ただの想像にしては、あまりにも確信に近い“予感”だった。
ーーーーーーーー
Reluは、自室で一人、ベッドに横になっていた。
目を閉じると、すたぽらのメンバーの声が脳裏をよぎる。
Coe.の真面目さ、くにの笑い声、こったろの優しさ、ゆうの甘え声──全部が、遠ざかっていくようで、胸がきしんだ。
「……ほんまは、会いたいんや……」
呟いたその声は、誰にも届かない。
そのとき。
「Relu、まだ起きてる?」
藍の声が、ドアの向こうから優しく響いた。
「……起きてる」
「ココア、持ってきたよ」
藍は、そっとカップをReluに手渡すと、隣に座った。
「今日は、左足もちょっと変な感じがした」
Reluは小さく笑った。
「そろそろ、動けんようになる日も近いかもな」
「そうなったら、俺が車椅子押すよ」
「……そんなん、藍がやることちゃうやろ」
「Reluが生きてる間くらい、好きなこと全部して。俺が全部支えるから」
Reluの目に、また涙が浮かんだ。
「ほんま、藍だけやな。俺を見捨てへんの……」
「うん。俺は、君を見捨てない」
カップの中のココアは、少しずつ冷めていった。
だが、二人の間に流れる静かなぬくもりは、いつまでも消えなかった。
