その夜、渋谷の路地裏はいつも以上に静かだった。

「すたぽら」の5人は、バイクで原宿から渋谷へと抜けるルートを取っていた。
しかし、裏通りに入った瞬間、Reluがハンドルをきつく握る。

「……まずいな。あれ見ろ」

一台、また一台。路地の入り口と出口を塞ぐように、旧型のバイクが現れる。そのエンブレムに見覚えがあった。

鬼哭連合（きこくれんごう）。

かつて関東を支配していた伝説の暴走族。今は解体寸前だが、残党が活動を続けていると噂されていた。

「へぇ……ここが最近ウワサの“美星華”か」

革ジャンを羽織った大柄な男が、にやにやと笑いながら近づいてきた。その後ろには、明らかに喧嘩慣れしているような連中が十数人。

「おい、そこのガキ。バイク、いい音してんじゃねぇか。ちょっと貸してみろよ」

その言葉に、ゆうが震える。手を出された瞬間、Reluが前に立つ。

「やめとけ。そいつは、俺らの仲間や」

「なんだぁ？副総長様の登場か？なら、まずはてめぇから沈めてやるよ」

周囲を囲まれる。こったろが身構えるも、明らかに数と経験で劣る状況だった。

「くそっ……」くにが歯を食いしばる。

その瞬間——

「もう、いいだろ。俺が相手をする」

闇の中から、低く澄んだ声が響いた。
藍が現れた。

黒のロングコートを翻し、ゆっくりと歩み出る。
その眼差しは、まっすぐ敵を射抜いていた。

「誰だ、てめぇ……」

「“美星華”総長、藍だ」

一瞬、周囲がざわつく。

「……あの“喧嘩無敗の藍”って、マジでいたのかよ」

一対十数人。
しかし藍は一切怯まなかった。

拳が振るわれる。足が閃く。
彼の動きは、まるで舞のように無駄がなく、正確だった。相手が一人倒れるたび、残る者たちの心に恐怖が刻まれていく。

「やべぇ……こいつ、本物だ……」

ついに鬼哭連合は退散した。

辺りには、倒れた敵と、肩を上下させる藍、そして呆然と立ち尽くす仲間たちだけが残った。

Reluが、息を切らしながら言った。

「……助かった。すまん、藍」

藍は静かに手を差し出した。

「仲間だろ」

その言葉に、全員の胸が打たれた。

その夜を境に、彼らの距離は確実に縮まっていくことになる——。