「いや〜、藍ってやっぱちょっと怖いっしょ……」

都内某所、池袋のファミレス。真夜中のネオンが窓に映り込み、店内は薄暗い照明のもと、数人の少年たちがテーブルを囲んでいた。

暴走族「美星華」の主要メンバー。

北海道出身のCoe.（こえ）は、スプーンでストロベリーパフェをつつきながら、目を伏せたまま呟いた。

「この前、タンクの色ちょっと変えてみようって言ったら、無言でじーっと見てきてさ……マジで心臓止まるかと思ったわ」

「わかる〜。あの人、ほんっと無表情すぎんねん」関西弁の副総長・Relu（れる）が、ソーダフロートをちびちび啜りながら口を開いた。「でもな、あいつ、たまに小さなことで気ぃ遣ってんの、俺は気づいてるで」

「たとえば？」こったろが、コーラを飲みながら眉を上げる。

「この前のツーリングのとき、くにが後ろから車に煽られてて、俺ら誰も気づかんかったやん？　そしたら藍がその車の前にバイクねじ込んで、ピタッと止めたんやで。無言やけど、あれ完璧に守りに行っとったわ」

「え、マジかよ！？俺それ知らなかった……」くには目を丸くして驚いた。「てか、それ言ってくれたら感謝したのに……」

「それが藍って奴なんだよなぁ。行動で見せるけど、言葉で伝えねぇ」

ふわふわした雰囲気のゆうは、クリームソーダをくるくる回しながら呟いた。「でも、なんか寂しそうだよね。目が、誰も見てない方向見てる気がする」

その言葉に、一瞬だけ空気が変わった。

Coe.が、パフェの最後の一口を口に運びながら、ぽつりと呟く。

「……本当の藍、俺らまだ知らないだけかもよ？」

こったろが真剣な表情で頷いた。「うん。俺、今まで“怖い”って思ってたけど、それってただ俺らがちゃんと向き合ってこなかっただけなんじゃねぇかって、最近思うんだ」

Reluがふっと鼻で笑った。「まぁ、俺もようやく気づいたとこや。あいつ、たぶんめっちゃ不器用なんやろな」

仲間たちの間に、小さな変化の芽が芽吹き始めていた。

そしてその芽は、次の事件によって大きく成長することになる——。