東京での勝利から数週間。美星華の名前は全国に知れ渡り、彼らの存在は一種の“伝説”として若者たちの間で語られるようになっていた。

しかし、伝説には常に挑戦者が現れる。

「総長、関西の『夜鳴（よなき）』って連中がこっち来てます」

ある日の夕暮れ、拠点に戻ったくにが言った。

「夜鳴……」Reluの顔に苦い表情が浮かぶ。「あいつら、洒落にならんで。俺が昔、ちょっとだけ関わっとった連中や」

「挑発してきてるってことか？」藍が問い返す。

「うん。たぶん“東京最強”にケチつけたいんやろな」Reluはヘルメットを指で弾いた。

「やるしかねぇな」こったろが静かに言った。「守るために」

「戦うだけじゃだめだよ」ゆうが口を開いた。「夜鳴は、ただの暴走族じゃない。聞いたことある、支配とか、脅しとか、そういうので人を集めてるって」

「仲間や絆とは対極……か」藍が目を細める。「だったらなおさら、俺たちがぶつかる意味がある」

その夜、美星華は関西へ向けて走り出した。

途中、様々な地元のチームと顔を合わせる。
中には美星華の話を聞き、自らの生き方を見つめ直した者もいた。

「俺たちは美星華になれない。でも、変わりたいって思えた」

そう言って泣きながら握手を求めてきた青年に、Coe.は笑顔で応じた。

「変わりたいって思えるのは、すでに変わり始めてる証拠だよ」

美星華は旅の中で、ただ戦うだけでなく、人の心を動かす存在になりつつあった。

やがて、関西。

夜鳴との接触は突然訪れた。広大な空き地に並ぶ改造車と、黒尽くめの男たち。

「美星華。伝説、終わらせに来たで」

その声に、Reluが一歩前へ出た。

「昔の俺やったら、逃げとったかもしれへん。でも今は、守りたいもんがある」

藍もその隣に立つ。「俺たちはただの暴走族じゃない。仲間で、家族で、居場所だ」

戦いの火蓋が切って落とされる。

強さだけでは勝てない戦いだった。心が試された。信念が問われた。

夜鳴の頭・黒野は、怒りを拳に変えて藍に殴りかかる。

だが、藍はそれを受け止め、静かに言った。

「お前にも、守りたかったものがあったんだろ」

黒野の動きが止まる。

「……昔、仲間を失った。そいつのために、強くなろうとした。でも……間違えてた」

「間違いは、正せる」Reluが言う。「俺たちも、間違いながらここまで来たんや」

沈黙の中、夜鳴のメンバーがひとり、またひとりと武器を下ろしていく。

夜風が吹き抜ける。

戦いの終わり。

勝者は——

“心で走った者たち”だった。

翌朝。

「また、少しだけ強くなれた気がするな」くにがつぶやく。

「俺たちの旅は終わらへん」Reluが笑う。

「また、どこかで誰かの道を照らせたらいい」ゆうが言う。

「そのためにも、もっと強く、もっと優しく」こったろが頷く。

Coe.が笑顔で言った。「じゃ、次はどこ行こっか？」

藍が朝焼けを背にバイクに跨る。

「どこでもいい。ただ、仲間と走れるなら、それでいい」