薄暗い病室の天井を、シンの視線が彷徨っていた。 白い壁、白いシーツ、白い服。全てが均一で、無菌的で、感情を吸い取るようだった。 彼の脳裏には、いつも同じ声が響いている。 「お前は失敗作」。 それは厄介な幻聴で、大音量で乱反射し、シンの平静を掻き乱す。 「We are all sick. 罪が、珠の血が…」 彼は唇の端で、途切れ途切れの言葉を呟いた。この病棟にいる人間は、皆、自覚の有無に関わらず病んでいる。罪を抱え、あるいは罪を背負わされ、それでも「まだ平気？」と問う、歪んだ平常心を装っている。

シンは、数ヶ月前にこの「冷静な病棟」と呼ばれるサナトリウムに隔離された。 原因は、彼自身にも完全には理解できない、突然の**「発作」**だった。ある日、鏡に映った自分の顔が、まるで別人のように醜く、おぞましいものに見え始めた。周囲の人間も、彼を指差し、嘲笑しているように感じられた。 その幻覚は、やがて幻聴に変わった。耳の奥で響く「失敗作」という声。それに耐えかね、彼は自傷行為に及んだ。

病棟には、数人の患者がいるが、皆、シンのように静かで、感情を閉じ込めている。 シンが唯一、わずかな「救い」を見出していたのは、彼の担当看護師、ユウキだった。