泣いて、恋をする。
「嵯峨さん……」
確かに鈴木は七輝の仕事を知っていた。彼の父親が経営をやっていたから、七輝が説明するまでもなく、保証会社についての知識があった。
「だから、もう七輝は悩む必要なんてない」
肩の下から腕を入れられて、思考が今この時間へと戻ってくる。
「忘れろとは言わない。でも、そろそろ新しいものを見た方がいい。幸い、隣にこんないい男がいる」
抱き寄せられて額にキスされても、逃げようとは思わなかった。
「いい男って、自分で言ってしまうんですね」
「もちろん。七輝の相手なら、そんじょそこらの男じゃダメだろうからね。間違ってはいないでしょう?」
その通りだ。もう軽口で誤魔化せないくらい、七輝の胸は煩く騒いでいる。
「田上に会って過去の厄介事から解放された。ちゃんと解決できた。それくらいできなきゃ、七輝に好きになってもらえないと思ったから」
身体を起こした彼が、また七輝を見下ろす体勢に戻る。
「ってことで、そろそろ俺のものにならない?」
そう言って頬に触れてきた手が右手だと分かった瞬間、ぎゅっとその手を握り返していた。少しだけ不自然な動きを隠すために、彼は左利きを装っている。けれど繊細な筆遣いができなくなったと言いながら、絵を描くときには右手を使う。時々左手より先に動く。その右手で七輝に触れる。計算じゃない。本気で七輝が欲しいと思ってくれている。その気持ちに胸が締めつけられる。気持ちに応えて、喜ぶ彼の顔が見たい。
「嵯峨さんのことだから、もう気づいていたでしょう?」
握っていた手を離して、手の甲を彼に見せてやる。観察してしまうのは七輝だけじゃない。嵯峨だって鋭い観察力で七輝を見ている。
「俺、今日指輪をしていないんですよ。彼の姉に渡されてからずっと職場でも外さなかったのに。外してみたらどう思うんだろうって、家に置いてきた」
七輝の指を見た彼の口角が上がる。やはり気づいていた。殊勝なフリをして、とっくに勝算はあったのだ。
「感想は?」
「どうってことなかった」
「じゃあ、もういいよね」
そう勝手に決めてしまった彼が、首元に唇を寄せてくる。
「まだ話は終わっていません」
「もう七輝の気持ちは分かった」
「……っ」
軽く噛むようにされて、また一度に体温が上がる。
「七輝」
そのまま背を撫でられて、誰かに触れられる感覚に浸った。唇が頬に触れて、一瞬目が合ったと思えばそのまま唇を奪われる。侵入する舌に応えて夢中になるうちに、彼の方は器用に七輝の浴衣を開けていく。負けずに彼の帯も解いてやれば、二人とも簡単に裸になってしまう。恋する二人に浴衣はお誂え向きだ。
「七輝」
「ん……っ」
キスをしながら長く抱き合っていた。彼の身体の至るところに触れる。彼も七輝の肌を撫でて、肌の上で自分より少し高い体温を感じる。ただそれだけのことが、どうしようもなく気持ちよかった。飢えていた。鈴木が亡くなってから、その手の欲からは遠ざかっていた。もう必要ないと思っていたのに、こうして触れられただけで再燃する。誰でもよかった訳じゃない。彼だから、七輝の身体はまた一つ正常な機能を取り戻す。
「あ……っ」
身体の中心に指を絡められて、思わず高い声が上がる。
「ダメ?」
問いながら、七輝の答えを聞く前に擦り上げてくる。あまりにも久しぶりの刺激に、七輝の身体は歓喜に震える。それを知られるのは流石に恥ずかしい。
「待って」
「待たない」
「や……」
身を捩って声を上げるのを止めることができない。せめて彼にも同じようになってほしくて七輝も手を使う。彼が上げる低い声に煽られて、身体はますます熱くなる。
「ダメ、それ以上されたら」
不自由だというのが嘘だと思うほど彼の指は七輝を追い詰めて、戯れで済まなくなりそうだった。
「出してしまって。俺もここで止めるのはきつそう」
「そんな」
反論するには身体が陥落しすぎていた。速くなる指の動きに、全身の神経が翻弄される。
「あ、ダメ……、……っ」
きゅっと握るようにされて、耐えきれず吐き出していた。
「充悟さ……っ」
名前を口にしてしまうと同時に、彼も七輝の手の中で弾ける。離れ難くて、キスをしながら肌を触れ合わせた。色々と準備がないから、ただ擦り合わせて吐き出しただけ。それでも七輝は全身で快感に浸った。こうしてよくなってもいい。自分は恋人を亡くしたけれど、誰にも何も制限はされていないと、当たり前のことに一つ気がつく。
「布団もちゃんと敷かないままがっついてしまったね。高校生みたいで恥ずかしい」
確かに鈴木は七輝の仕事を知っていた。彼の父親が経営をやっていたから、七輝が説明するまでもなく、保証会社についての知識があった。
「だから、もう七輝は悩む必要なんてない」
肩の下から腕を入れられて、思考が今この時間へと戻ってくる。
「忘れろとは言わない。でも、そろそろ新しいものを見た方がいい。幸い、隣にこんないい男がいる」
抱き寄せられて額にキスされても、逃げようとは思わなかった。
「いい男って、自分で言ってしまうんですね」
「もちろん。七輝の相手なら、そんじょそこらの男じゃダメだろうからね。間違ってはいないでしょう?」
その通りだ。もう軽口で誤魔化せないくらい、七輝の胸は煩く騒いでいる。
「田上に会って過去の厄介事から解放された。ちゃんと解決できた。それくらいできなきゃ、七輝に好きになってもらえないと思ったから」
身体を起こした彼が、また七輝を見下ろす体勢に戻る。
「ってことで、そろそろ俺のものにならない?」
そう言って頬に触れてきた手が右手だと分かった瞬間、ぎゅっとその手を握り返していた。少しだけ不自然な動きを隠すために、彼は左利きを装っている。けれど繊細な筆遣いができなくなったと言いながら、絵を描くときには右手を使う。時々左手より先に動く。その右手で七輝に触れる。計算じゃない。本気で七輝が欲しいと思ってくれている。その気持ちに胸が締めつけられる。気持ちに応えて、喜ぶ彼の顔が見たい。
「嵯峨さんのことだから、もう気づいていたでしょう?」
握っていた手を離して、手の甲を彼に見せてやる。観察してしまうのは七輝だけじゃない。嵯峨だって鋭い観察力で七輝を見ている。
「俺、今日指輪をしていないんですよ。彼の姉に渡されてからずっと職場でも外さなかったのに。外してみたらどう思うんだろうって、家に置いてきた」
七輝の指を見た彼の口角が上がる。やはり気づいていた。殊勝なフリをして、とっくに勝算はあったのだ。
「感想は?」
「どうってことなかった」
「じゃあ、もういいよね」
そう勝手に決めてしまった彼が、首元に唇を寄せてくる。
「まだ話は終わっていません」
「もう七輝の気持ちは分かった」
「……っ」
軽く噛むようにされて、また一度に体温が上がる。
「七輝」
そのまま背を撫でられて、誰かに触れられる感覚に浸った。唇が頬に触れて、一瞬目が合ったと思えばそのまま唇を奪われる。侵入する舌に応えて夢中になるうちに、彼の方は器用に七輝の浴衣を開けていく。負けずに彼の帯も解いてやれば、二人とも簡単に裸になってしまう。恋する二人に浴衣はお誂え向きだ。
「七輝」
「ん……っ」
キスをしながら長く抱き合っていた。彼の身体の至るところに触れる。彼も七輝の肌を撫でて、肌の上で自分より少し高い体温を感じる。ただそれだけのことが、どうしようもなく気持ちよかった。飢えていた。鈴木が亡くなってから、その手の欲からは遠ざかっていた。もう必要ないと思っていたのに、こうして触れられただけで再燃する。誰でもよかった訳じゃない。彼だから、七輝の身体はまた一つ正常な機能を取り戻す。
「あ……っ」
身体の中心に指を絡められて、思わず高い声が上がる。
「ダメ?」
問いながら、七輝の答えを聞く前に擦り上げてくる。あまりにも久しぶりの刺激に、七輝の身体は歓喜に震える。それを知られるのは流石に恥ずかしい。
「待って」
「待たない」
「や……」
身を捩って声を上げるのを止めることができない。せめて彼にも同じようになってほしくて七輝も手を使う。彼が上げる低い声に煽られて、身体はますます熱くなる。
「ダメ、それ以上されたら」
不自由だというのが嘘だと思うほど彼の指は七輝を追い詰めて、戯れで済まなくなりそうだった。
「出してしまって。俺もここで止めるのはきつそう」
「そんな」
反論するには身体が陥落しすぎていた。速くなる指の動きに、全身の神経が翻弄される。
「あ、ダメ……、……っ」
きゅっと握るようにされて、耐えきれず吐き出していた。
「充悟さ……っ」
名前を口にしてしまうと同時に、彼も七輝の手の中で弾ける。離れ難くて、キスをしながら肌を触れ合わせた。色々と準備がないから、ただ擦り合わせて吐き出しただけ。それでも七輝は全身で快感に浸った。こうしてよくなってもいい。自分は恋人を亡くしたけれど、誰にも何も制限はされていないと、当たり前のことに一つ気がつく。
「布団もちゃんと敷かないままがっついてしまったね。高校生みたいで恥ずかしい」