たからもの、一つだけ。
最新のwebカメラを買い与えて、木川にまず涼本今日花 について調べさせた。
ホテルやレストラン経営で日本でも有数の資産家にのし上がった御簾京介 の実の娘。それくらいは宇美原も調べることができた。だがそれ以外の情報は不自然なほどネットでヒットしないのだ。
「御簾の手下たちが意図的に情報操作しているんだろうよ。結構やばい女みたいだからさ」
珍しく自分から話し出した木川の言葉に、思わず眉が上がる。
「やばい女?」
「そう。これ見てみなよ」
言われてモニターに近づけば、どこに不正アクセスしたのか涼本今日花の顔写真つきの情報が画面一杯に表示されている。
「ね? 笑っちゃうほどやばいでしょ?」
彼の言葉に全面的に同意することなど珍しいが、その日はそうせざるを得なかった。宇美原自身も決してお綺麗な人間ではないが、彼女は別の方向に危ないタイプだ。
「メンタル系か。嫌いなタイプだ」
「宇美原さんにそう言わせるとは、この女最強だね」
「お前とは気が合いそうだな」
「馬鹿なことを。引き籠もりにも好みくらいある」
そんなやりとりをしながら、画面の文字を読む。
学校時代は金で嫌いな教師を飛ばすこと数回。気分が落ち着いているときはごく普通のお嬢様だが、一度メンタルが壊れれば周りのものを壊すほど暴れるのは日常茶飯事。十代後半からは恋愛のトラブルも多く、自分を振った男の恋人の女性に全治二週間の怪我を負わせて警察沙汰。懲りずに男の方を御簾家が所有する別荘に監禁。それも全て父親の関係者が後始末をしてお咎めなし。だが流石にそのまま日本には置いておけず、大学卒業までを海外で過ごす。
その後は監視役の秘書とメイドたちと、与えられたマンションで好き勝手に暮らす。もちろん働く気など更々ない。幸い彼女には普通に育った実の兄がいるから、御簾京介は彼に会社を譲ることにして、今日花には一生遊んで暮らせるだけの財産を渡してほぼ勘当状態。どこの漫画の世界だよと、流石の宇美原もため息が出てしまう。
「迷惑を被った人間たちが無事に生きているのが救いだな」
「訴えられないように相当の金を渡したんだろ。てか、人の安否を気にするなんて紀人さんらしくないね」
「そんなに喋るお前も珍しいけどな」
そう言ってやれば、彼がこれもまた珍しく声を立てて笑う。
「問題はどうしてそんな女と涼本矢名が結婚することになったかだ。金目当てではなさそうだしな」
顎に手を当てて考え始めれば、モニターの前に座る木川が斜め上の宇美原を見上げて目を細める。その顔が見縊るなよと言っている。
「涼本矢名の出向先の上司が御簾京介の高校時代の同級生だったらしいよ。彼の人柄を見て押しつけたってところじゃないかな。随分とお人よしの男みたいだし?」
「少なくとも、お前に見下されるような男ではない」
自分がお人よしすぎると評するのはよくても、木川に皮肉を込めて言われるのは気に入らなかった。きつい言い方をしたつもりだが、そんな宇美原に慣れっこの木川は、気にせずまたカタカタとキーボードを打ち始める。
「新しい玩具が欲しいなら、誰も調べられないような情報を引っ張ってくるんだな。そろそろパソコン本体も新しいものが欲しいんじゃないのか?」
煽ってやれば木川の目つきが変わって、その後は一言も話さずにパソコンに向かい続ける。
パソコンでの情報収集は彼に任せて、宇美原は注意深く彼自身から情報収集を続けることにした。レストランの数日後に電話をして誘えば、また金曜の夜に妻が外出するからと、誘いに応じてくれる。
「こんな庶民の店でよかったんですか?」
「ああ。普段は客と会うからいいレストランを使ったりするだけで、俺自身はあまり食べものに拘りはないんだ」
そんなことを言いながら向き合うのは、彼の家の近くの居酒屋だった。居酒屋には違いないが、小綺麗でセンスがよくて、女性同士の客もぱらぱらと目につく。堅苦しいレストランよりずっといい店だと思う。
「じゃあ、今は探偵さんがメインなんですね」
「ああ。依頼がくれば弁護士業もやるけど、探偵の方がずっと多いな」
「うーん、凄いな。だって司法試験って最難関でしょう? それを取ったら、普通ずっと弁護士で働きたいって思いません?」
ホテルやレストラン経営で日本でも有数の資産家にのし上がった
「御簾の手下たちが意図的に情報操作しているんだろうよ。結構やばい女みたいだからさ」
珍しく自分から話し出した木川の言葉に、思わず眉が上がる。
「やばい女?」
「そう。これ見てみなよ」
言われてモニターに近づけば、どこに不正アクセスしたのか涼本今日花の顔写真つきの情報が画面一杯に表示されている。
「ね? 笑っちゃうほどやばいでしょ?」
彼の言葉に全面的に同意することなど珍しいが、その日はそうせざるを得なかった。宇美原自身も決してお綺麗な人間ではないが、彼女は別の方向に危ないタイプだ。
「メンタル系か。嫌いなタイプだ」
「宇美原さんにそう言わせるとは、この女最強だね」
「お前とは気が合いそうだな」
「馬鹿なことを。引き籠もりにも好みくらいある」
そんなやりとりをしながら、画面の文字を読む。
学校時代は金で嫌いな教師を飛ばすこと数回。気分が落ち着いているときはごく普通のお嬢様だが、一度メンタルが壊れれば周りのものを壊すほど暴れるのは日常茶飯事。十代後半からは恋愛のトラブルも多く、自分を振った男の恋人の女性に全治二週間の怪我を負わせて警察沙汰。懲りずに男の方を御簾家が所有する別荘に監禁。それも全て父親の関係者が後始末をしてお咎めなし。だが流石にそのまま日本には置いておけず、大学卒業までを海外で過ごす。
その後は監視役の秘書とメイドたちと、与えられたマンションで好き勝手に暮らす。もちろん働く気など更々ない。幸い彼女には普通に育った実の兄がいるから、御簾京介は彼に会社を譲ることにして、今日花には一生遊んで暮らせるだけの財産を渡してほぼ勘当状態。どこの漫画の世界だよと、流石の宇美原もため息が出てしまう。
「迷惑を被った人間たちが無事に生きているのが救いだな」
「訴えられないように相当の金を渡したんだろ。てか、人の安否を気にするなんて紀人さんらしくないね」
「そんなに喋るお前も珍しいけどな」
そう言ってやれば、彼がこれもまた珍しく声を立てて笑う。
「問題はどうしてそんな女と涼本矢名が結婚することになったかだ。金目当てではなさそうだしな」
顎に手を当てて考え始めれば、モニターの前に座る木川が斜め上の宇美原を見上げて目を細める。その顔が見縊るなよと言っている。
「涼本矢名の出向先の上司が御簾京介の高校時代の同級生だったらしいよ。彼の人柄を見て押しつけたってところじゃないかな。随分とお人よしの男みたいだし?」
「少なくとも、お前に見下されるような男ではない」
自分がお人よしすぎると評するのはよくても、木川に皮肉を込めて言われるのは気に入らなかった。きつい言い方をしたつもりだが、そんな宇美原に慣れっこの木川は、気にせずまたカタカタとキーボードを打ち始める。
「新しい玩具が欲しいなら、誰も調べられないような情報を引っ張ってくるんだな。そろそろパソコン本体も新しいものが欲しいんじゃないのか?」
煽ってやれば木川の目つきが変わって、その後は一言も話さずにパソコンに向かい続ける。
パソコンでの情報収集は彼に任せて、宇美原は注意深く彼自身から情報収集を続けることにした。レストランの数日後に電話をして誘えば、また金曜の夜に妻が外出するからと、誘いに応じてくれる。
「こんな庶民の店でよかったんですか?」
「ああ。普段は客と会うからいいレストランを使ったりするだけで、俺自身はあまり食べものに拘りはないんだ」
そんなことを言いながら向き合うのは、彼の家の近くの居酒屋だった。居酒屋には違いないが、小綺麗でセンスがよくて、女性同士の客もぱらぱらと目につく。堅苦しいレストランよりずっといい店だと思う。
「じゃあ、今は探偵さんがメインなんですね」
「ああ。依頼がくれば弁護士業もやるけど、探偵の方がずっと多いな」
「うーん、凄いな。だって司法試験って最難関でしょう? それを取ったら、普通ずっと弁護士で働きたいって思いません?」