たからもの、一つだけ。
「矢名」
窓の外では激しくなった雪が降り続いている。
エアコンで暖められた部屋で素肌に触れれば、もう今更だというのに彼が恥ずかしげに顔を逸らす。
「なんだよ。俺が嫌いか」
わざと困らせるようなことを言えば、彼が慌てて見上げてくる。
「そんな筈がないでしょう。俺は紀人さんが……あっ」
胸の尖りに唇で触れれば彼の身体が跳ねた。恐ろしい秘密を抱えてしまった宇美原と同じように、今夜は彼もいつもより昂っているのかもしれない。
「俺が、なんだよ」
「や……、紀人さん、そこダメ」
空いた手でもう片方も刺激してやれば、彼の息が上がって肌がほんのりと赤く染まる。色っぽくて、しばらく遊んでやるつもりの宇美原の方の我慢が利かなくなるのはいつものことだ。涼本はいつもこうして宇美原を支配する。どうということのない容姿に見えて、実は男を惹きつけてやまない色気を持っている。弱々しくて護ってやらなければならない存在のようで、実は宇美原よりずっと強くて、譲れない願いを通したりする。そんなところにどうしようもなく惹かれている。
初めは、何も知らない純粋な男で遊んでやろうと思っただけだった。おかしな生活に引き込んで、逃亡生活までさせてしまったことに罪悪感もあった。だがもしかしたら、そう仕向けられたのは自分の方かもしれない。小さくなって過ごしてきた過去を捨てて、新しい世界を見るために宇美原の方が利用された。だがそうだとしても、今の自分は彼を手放すことなどできない。もう一つ罪を犯した。この先も、彼が望むならどんなことでもしてみせる。
「……ん」
不意討ちで身体の中心に触れられて声が零れた。
「酷いな。考えごと?」
わざと哀しむような顔を作って言われて笑ってしまう。その部分を擦るようにされて、いつのまにこんな誘い方を覚えたのだろうと思う。幼さの残る顔でそんな風に言われれば、雄の身体が煽られてしまう。
「矢名のことを考えていた」
「ほんと?」
「ああ。矢名が他の男を好きになったらどうするかなって」
「もう。俺が他の人を好きになる訳がないでしょう?」
「どうかな」
信じていないフリをすれば、涼本が頬を膨らませて抗議する。本気でベッドを降りようとするから、慌てて抱きしめて引き止めてやった。手首を掴んでもう一度見下ろせば、潤んだ瞳に見上げられる。
少し視線を下げれば、左肩の下に皮膚が盛り上がったようになった傷がある。もうほとんど目立たないが、こうして涼本の体温が上がったときに、その傷が肌よりも少し赤みを帯びる。
「もう痛くないのか?」
「うん。全然」
「悪いな。本当はこんな怪我を負わせるつもりなんてなかった。完璧に護ってやりたかった」
ずっと告げられなかった本音を、今夜は何故かさらりと口にしてしまう。そうすれば涼本の方が腕を伸ばして、宇美原を抱きしめてくれる。
「いいんだ。俺も何か役に立ちたかったし。そもそも面倒に巻き込んでしまったのは俺の方だし」
抱き寄せられてぴたりと肌が密着すれば、身体の中心が触れて互いの状態を知ることになる。小柄で女性みたいに綺麗な肌をしているのに、そこは宇美原と同じように反応していることが不思議で、同時に嬉しいとも思う。
「なんだか我慢できなくなった。一度入れていいか?」
聞けばまた彼の頬に血が上る。
「ストレートだね」
「嫌か?」
「ううん。俺も紀人さんが欲しい」
恥ずかしさから小さな声でねだられて、中心がますます張り詰める。準備をするのももどかしいほど昂って、欲望のまま宛てがって彼を貫く。
「あ……ん。紀人さん。や……、そこ、ダメ」
「ここか?」
「や……!」
彼の弱い部分を執拗に責めてやれば、喘ぐ声が掠れる。もっと乱れてほしくて腰を使って、胸も耳朶も、彼が感じるあらゆるところを責め続ける。けれど途中から宇美原の方が理性を失い、訳も分からないまま彼に抱きしめられている。そうやってずっとしがみついていてほしい。こんなにも夢中にさせられるのは彼だけだ。この先どんな運命を辿っても、そんな人間に出会えた幸福を手放すことは決してない。
「矢名、出すぞ」
「うん。中に出して」
ねだられて、激しく腰を打ちつけた。実際に生で彼の中に吐き出すことはしないが、それを想像して上り詰めることに、二人とも興奮してしまう。
「紀人さん、来て。全部俺の中に出して」
また煽るような言い方をされて、自分の身体も言葉もどれが現実なのか分からなくなる。だがそれでいい。それほど涼本が欲しくて仕方ない。
「く……っ。もうダメだ。矢名……!」
「紀人さん……!」
せめて彼を先にと思ったが、次第にそれもどうでもよくなって、宇美原は欲望の全てを彼の中に吐き出した。ほぼ同時に下腹部に熱いものを感じて、彼も達したことを知る。
「矢名、好きだ」
「うん。俺も」
汚れた身体を綺麗にすることもせずに抱きしめ合って、そのうちまた欲しくなる。
今夜は難しいことを考えるのはよそう。涼本のどこまでも気持ちのいい身体に浸って、ぐっすりと眠ろう。そんな思いでまた彼の肌に手を伸ばす。
その夜の彼は眠らずに宇美原に応えてくれて、雪が積もる朝の時間まで、ずっと互いの身体を感じていた。
窓の外では激しくなった雪が降り続いている。
エアコンで暖められた部屋で素肌に触れれば、もう今更だというのに彼が恥ずかしげに顔を逸らす。
「なんだよ。俺が嫌いか」
わざと困らせるようなことを言えば、彼が慌てて見上げてくる。
「そんな筈がないでしょう。俺は紀人さんが……あっ」
胸の尖りに唇で触れれば彼の身体が跳ねた。恐ろしい秘密を抱えてしまった宇美原と同じように、今夜は彼もいつもより昂っているのかもしれない。
「俺が、なんだよ」
「や……、紀人さん、そこダメ」
空いた手でもう片方も刺激してやれば、彼の息が上がって肌がほんのりと赤く染まる。色っぽくて、しばらく遊んでやるつもりの宇美原の方の我慢が利かなくなるのはいつものことだ。涼本はいつもこうして宇美原を支配する。どうということのない容姿に見えて、実は男を惹きつけてやまない色気を持っている。弱々しくて護ってやらなければならない存在のようで、実は宇美原よりずっと強くて、譲れない願いを通したりする。そんなところにどうしようもなく惹かれている。
初めは、何も知らない純粋な男で遊んでやろうと思っただけだった。おかしな生活に引き込んで、逃亡生活までさせてしまったことに罪悪感もあった。だがもしかしたら、そう仕向けられたのは自分の方かもしれない。小さくなって過ごしてきた過去を捨てて、新しい世界を見るために宇美原の方が利用された。だがそうだとしても、今の自分は彼を手放すことなどできない。もう一つ罪を犯した。この先も、彼が望むならどんなことでもしてみせる。
「……ん」
不意討ちで身体の中心に触れられて声が零れた。
「酷いな。考えごと?」
わざと哀しむような顔を作って言われて笑ってしまう。その部分を擦るようにされて、いつのまにこんな誘い方を覚えたのだろうと思う。幼さの残る顔でそんな風に言われれば、雄の身体が煽られてしまう。
「矢名のことを考えていた」
「ほんと?」
「ああ。矢名が他の男を好きになったらどうするかなって」
「もう。俺が他の人を好きになる訳がないでしょう?」
「どうかな」
信じていないフリをすれば、涼本が頬を膨らませて抗議する。本気でベッドを降りようとするから、慌てて抱きしめて引き止めてやった。手首を掴んでもう一度見下ろせば、潤んだ瞳に見上げられる。
少し視線を下げれば、左肩の下に皮膚が盛り上がったようになった傷がある。もうほとんど目立たないが、こうして涼本の体温が上がったときに、その傷が肌よりも少し赤みを帯びる。
「もう痛くないのか?」
「うん。全然」
「悪いな。本当はこんな怪我を負わせるつもりなんてなかった。完璧に護ってやりたかった」
ずっと告げられなかった本音を、今夜は何故かさらりと口にしてしまう。そうすれば涼本の方が腕を伸ばして、宇美原を抱きしめてくれる。
「いいんだ。俺も何か役に立ちたかったし。そもそも面倒に巻き込んでしまったのは俺の方だし」
抱き寄せられてぴたりと肌が密着すれば、身体の中心が触れて互いの状態を知ることになる。小柄で女性みたいに綺麗な肌をしているのに、そこは宇美原と同じように反応していることが不思議で、同時に嬉しいとも思う。
「なんだか我慢できなくなった。一度入れていいか?」
聞けばまた彼の頬に血が上る。
「ストレートだね」
「嫌か?」
「ううん。俺も紀人さんが欲しい」
恥ずかしさから小さな声でねだられて、中心がますます張り詰める。準備をするのももどかしいほど昂って、欲望のまま宛てがって彼を貫く。
「あ……ん。紀人さん。や……、そこ、ダメ」
「ここか?」
「や……!」
彼の弱い部分を執拗に責めてやれば、喘ぐ声が掠れる。もっと乱れてほしくて腰を使って、胸も耳朶も、彼が感じるあらゆるところを責め続ける。けれど途中から宇美原の方が理性を失い、訳も分からないまま彼に抱きしめられている。そうやってずっとしがみついていてほしい。こんなにも夢中にさせられるのは彼だけだ。この先どんな運命を辿っても、そんな人間に出会えた幸福を手放すことは決してない。
「矢名、出すぞ」
「うん。中に出して」
ねだられて、激しく腰を打ちつけた。実際に生で彼の中に吐き出すことはしないが、それを想像して上り詰めることに、二人とも興奮してしまう。
「紀人さん、来て。全部俺の中に出して」
また煽るような言い方をされて、自分の身体も言葉もどれが現実なのか分からなくなる。だがそれでいい。それほど涼本が欲しくて仕方ない。
「く……っ。もうダメだ。矢名……!」
「紀人さん……!」
せめて彼を先にと思ったが、次第にそれもどうでもよくなって、宇美原は欲望の全てを彼の中に吐き出した。ほぼ同時に下腹部に熱いものを感じて、彼も達したことを知る。
「矢名、好きだ」
「うん。俺も」
汚れた身体を綺麗にすることもせずに抱きしめ合って、そのうちまた欲しくなる。
今夜は難しいことを考えるのはよそう。涼本のどこまでも気持ちのいい身体に浸って、ぐっすりと眠ろう。そんな思いでまた彼の肌に手を伸ばす。
その夜の彼は眠らずに宇美原に応えてくれて、雪が積もる朝の時間まで、ずっと互いの身体を感じていた。