たからもの、一つだけ。
そんな見出しが躍る嘘だらけの記事を見たとき、自分でも驚くほど落ち着いていた。
年下の男が好きで、依頼人の夫を次々奪って食い散らかす。過去には派手に売春もしていたらしいと、よくもまぁ、そこまで嘘を並べられるものだと感心してしまう。残念ながら宇美原には記事に書かれているような過去はない。そう必死にならなくても、寝る相手ならいくらでも寄ってきたのだ。
だが記事の内容はともかく、御簾今日花の力と執念は見縊っていた。それなりの有名雑誌だ。ページ合わせのような後半二枚の記事だが、宇美原のような一般人の記事をねじ込んでくるとは、出版社にどれだけの金を渡して頼んだのだろう。それもたった二週間の間にだ。部屋に来る前から計画していたのかもしれない。
「宇美原さん、ごめん。全部俺のせいだ」
とにかく今は、自分よりずっと落ち込んでしまった彼を落ち着かせるのが先だ。
「心配ない。最近は弁護士の仕事はほとんど受けていなかったし、探偵業は基本的に身バレしないように仕事をするから、別に影響はないんだ」
記事の写真には一応目の部分に黒い線が入っている。それで問題はなかった。最近の宇美原は事務所のホームページや電話番号を公開せず、ほとんど金持ち連中の口コミで仕事を受けている。例え背格好でばれても、こんな記事くらいでどうこう言う人間なら初めから宇美原に依頼などしない。
「でも、ここから話が広がって、ネットに面白おかしく書かれるかもしれないでしょう? 生活するのも大変になったらどうすれば」
「俺は弁護士だ。目に余るようなら対処できるし、匿名の書き込みに恐れることはない。例え仕事や生活支障が出ても、矢名に苦労はさせない」
「俺のことじゃなくて」
何を言われても書かれてもいいが、涼本にこんな顔をさせるつもりはなかったと、また少し反省した。だが起きてしまったことを後悔していても始まらない。
「今日、休ませて悪かったな。仕事には普通に行きたいんだろ? 明日からは裏の通りからタクシーを捕まえて行くといい。そうすれば簡単に見つかることもない」
本音は片時も離れずに護っていたい。だが彼の仕事を奪いたくなかったし、彼にはできるだけこれまで通りの生活をしてほしかった。
「宇美原さん」
「毎日タクシー通勤だと職場の人間に何か言われるか? それなら週に何度かは木川に送り迎えをしてもらおう。確か車の運転は好きだと言っていたような気が……」
「宇美原さん、もういいんだ」
木川と連絡を取ろうとして、腰に腕を回して止められた。背中に顔を寄せる涼本の体温を感じる。振り向いて見れば、決して投げやりではない視線を向けられる。
「もう、仕事は諦める」
「何を言うんだ。俺は俺のためにお前に何かを捨てさせたりしない。それじゃ、あの女と同じになってしまうだろ?」
「同じじゃない」
思いがけず強く返される。
「俺は宇美原さんが好き。好きで一緒にいることを選んだんだ」
「矢名」
「今日花といた頃とは違う。自尊心のために傍にいる訳でもない。ちゃんと宇美原さんが好き。だから、俺も一つくらい背負う」
思っていたよりずっと、彼は自分を想ってくれていたのだなと知った。堪らず抱きしめてしまえば、彼もぎゅっと抱き返してくれる。
「何も心配しなくてもいいところに行きたい。不便で知り合いが一人もいないところでもいい。宇美原さんなら当てくらいあるでしょう?」
「そうだな」
何不自由なく護りきりたかった。だがそう言われて嬉しいと思う自分もいる。
「すぐに準備する。しばらくばたばたするかもしれないが」
「平気。俺もすぐ退職願を書くから」
「悪いな。せっかく復職したのに」
「いいんだ」
少しだけ哀しげに笑う彼をもう一度強く抱いて、二人で幸せになる方法を考えていた。
年下の男が好きで、依頼人の夫を次々奪って食い散らかす。過去には派手に売春もしていたらしいと、よくもまぁ、そこまで嘘を並べられるものだと感心してしまう。残念ながら宇美原には記事に書かれているような過去はない。そう必死にならなくても、寝る相手ならいくらでも寄ってきたのだ。
だが記事の内容はともかく、御簾今日花の力と執念は見縊っていた。それなりの有名雑誌だ。ページ合わせのような後半二枚の記事だが、宇美原のような一般人の記事をねじ込んでくるとは、出版社にどれだけの金を渡して頼んだのだろう。それもたった二週間の間にだ。部屋に来る前から計画していたのかもしれない。
「宇美原さん、ごめん。全部俺のせいだ」
とにかく今は、自分よりずっと落ち込んでしまった彼を落ち着かせるのが先だ。
「心配ない。最近は弁護士の仕事はほとんど受けていなかったし、探偵業は基本的に身バレしないように仕事をするから、別に影響はないんだ」
記事の写真には一応目の部分に黒い線が入っている。それで問題はなかった。最近の宇美原は事務所のホームページや電話番号を公開せず、ほとんど金持ち連中の口コミで仕事を受けている。例え背格好でばれても、こんな記事くらいでどうこう言う人間なら初めから宇美原に依頼などしない。
「でも、ここから話が広がって、ネットに面白おかしく書かれるかもしれないでしょう? 生活するのも大変になったらどうすれば」
「俺は弁護士だ。目に余るようなら対処できるし、匿名の書き込みに恐れることはない。例え仕事や生活支障が出ても、矢名に苦労はさせない」
「俺のことじゃなくて」
何を言われても書かれてもいいが、涼本にこんな顔をさせるつもりはなかったと、また少し反省した。だが起きてしまったことを後悔していても始まらない。
「今日、休ませて悪かったな。仕事には普通に行きたいんだろ? 明日からは裏の通りからタクシーを捕まえて行くといい。そうすれば簡単に見つかることもない」
本音は片時も離れずに護っていたい。だが彼の仕事を奪いたくなかったし、彼にはできるだけこれまで通りの生活をしてほしかった。
「宇美原さん」
「毎日タクシー通勤だと職場の人間に何か言われるか? それなら週に何度かは木川に送り迎えをしてもらおう。確か車の運転は好きだと言っていたような気が……」
「宇美原さん、もういいんだ」
木川と連絡を取ろうとして、腰に腕を回して止められた。背中に顔を寄せる涼本の体温を感じる。振り向いて見れば、決して投げやりではない視線を向けられる。
「もう、仕事は諦める」
「何を言うんだ。俺は俺のためにお前に何かを捨てさせたりしない。それじゃ、あの女と同じになってしまうだろ?」
「同じじゃない」
思いがけず強く返される。
「俺は宇美原さんが好き。好きで一緒にいることを選んだんだ」
「矢名」
「今日花といた頃とは違う。自尊心のために傍にいる訳でもない。ちゃんと宇美原さんが好き。だから、俺も一つくらい背負う」
思っていたよりずっと、彼は自分を想ってくれていたのだなと知った。堪らず抱きしめてしまえば、彼もぎゅっと抱き返してくれる。
「何も心配しなくてもいいところに行きたい。不便で知り合いが一人もいないところでもいい。宇美原さんなら当てくらいあるでしょう?」
「そうだな」
何不自由なく護りきりたかった。だがそう言われて嬉しいと思う自分もいる。
「すぐに準備する。しばらくばたばたするかもしれないが」
「平気。俺もすぐ退職願を書くから」
「悪いな。せっかく復職したのに」
「いいんだ」
少しだけ哀しげに笑う彼をもう一度強く抱いて、二人で幸せになる方法を考えていた。